第21話 聖杖使いの■■詠唱
2015年11月11日23時ごろ。
高速道路を走るとある自動車の中。そこであまりいい気分のしないニュースを聞き、目的地に到着するまでふて寝しようとした少年がいた。
少年が目を覚ますと、この見知らぬ世界に来ていた。それこそがこの俺――海藤十真という人間がこの世界に現れた瞬間だった。
人の誕生は祝福されるものだ。そこに理由など不要。ただ一つの新たな生が芽吹いた事を喜べばいい。
だが俺は違う。今回は違う。これは誕生のようで、全く違う。言うなれば異世界への拉致監禁だ。この異世界転移には理由が必要だ。何故俺なんだ。どうしてここに来たんだ。俺は、誰が、どうして、何のためにここに呼んだのかその理由が知りたい。
俺と一郎さんがアルトリウス先生の事を確認し合ったその日の夜。
俺は眠れずに、ぼんやりと窓から覗く二つの月を見やって、これまでの軌跡を回想していた。俺の寝室のベッドから差し込む光は今日も明るい。…………俺がこの異世界に来た時も、今夜みたいに明るい月が輝いていたっけ。
銃を知っているという事は、アルトリウス先生は俺と同じ地球人かもしれない。その疑いが判明した衝撃が大きかっただろうか。今宵は眠気が全く訪れない。どうしたものかな……。
その時、俺の部屋の扉がノックされた。こんな時間に俺の部屋に来るだって? ……あぁ、一郎さんか。もしかしたら俺と同じなのかもしれない。何せ、三人目の異世界人が見つかるかもしれないのだから心が逸るというものだ。
「どうぞ、一郎さん」
「…………私、です」
…………え? 何か今、一郎さんにしてはあまりにも優雅な声が聞こえた気がするな? いや違う、今の声は間違いなく………。
俺は驚き半分、呆れ半分の気持ちでベッドから降りて、部屋の扉を開いた。
「…………どうしたんだアイリス。こんな時間に」
「……………………」
扉を開けば、やはり彼女が目の前にいた。完全に眠る直前の姿――なんか高級そうでわりとけっこう透けてるネグリジェを着たアイリスがいらっしゃった。
…………何、そのドえっちぃ恰好。いつも服で隠れている巨乳が今は隠れてませんわよ? 非常に眼福であり、毒でもある。これには大魔王も悶絶し卒倒である。
「…………いいですか、お話」
俺が彼女の姿に見とれていると、とても勇気を振り絞ったような声で彼女が言う。…………お話? こんな夜に? 男女二人、暗い密室、何も起きないはずがなく……っていや駄目だろ! アイリスは大切な仲間だぞ! いや可能であれば恋人的な関係になる事もやぶさかでないしむしろウェルカム………。あれ? それじゃあいいんじゃね? アァァァァァァァ! どうすればいいのだこれは!
「…………今日の、イチローさんとのお話……気になって……」
俺が心の中で葛藤していたその時、アイリスがぽつぽつと遠慮がちに語り出す。
「……その時のトーマさん、すごく、辛そうで……。…………私、お役に立ちたくて……」
…………そうか。それで、わざわざこんな時間に声をかけに来てくれたのか。あぁ、なんか、安心してしまった。俺の馬鹿野郎。こんないい子に対して何下種な事考えてんだ。そういうとこだぞ海藤十真。
「そっか。アイリスは優しいな。……ありがとう、心配してくれて」
彼女の気持ちは本当に嬉しい。安心したのも確かだ。……でも、俺と一郎さんが異世界人だという事。そして日本に帰る目的を持っている事を言う必要は無いだろう。話したところで分からないだろうし、余計に心配かけてしまうに違いない。『何故この世界に来たのか、理由が知りたい』という俺の胸にある不安に似た願いを言う必要は無いだろう。
「…………トーマさん、何か、隠している事があるのではありませんか」
アイリスが久しぶりに俺を鋭い視線で睨みつけて来た。うっ!? 本当にこの世界の女性は勘が鋭いな!?
「な、無いよ。アイリスも早く寝た方がいい。もう自分の部屋に戻りな?」
「……………………」
…………いかん、今の俺の精神状態にアイリスの真っすぐな視線はなかなか効く。やめろアイリス、その親切は俺に効く。やめてくれ……。
「…………何か隠してるんですね。イチローさんとだけしか分からない、何かを……」
「アイリス、あのな」
「嫌です」
「えっ!?」
何と驚いた事に、アイリスが自分から俺に一歩近寄って来た! しかもめちゃくちゃ喋るな今夜は! その気迫に俺は一歩下がる。すると、アイリスはまた一歩近寄って来た。な、なんだと……!? 待ってお嬢様、あなた今けっこうえっちぃ恰好だしお風呂の後でとてもいいにおいしますし夜はなんかむらむらしますしで今の俺けっこう余裕ないんですけど!?
「私はトーマさんに命を助けていただきました。ですから、今度は私がお助けします」
「おうっ!?」
段々と下がり、ついに奥のベッドにまで戻されてしまった。下がる足をひっかけ、俺はベッドに再び仰向けにダイブしてしまう。…………そんな俺を、アイリスがじっと見つめている。な、何だその決意の籠った瞳は。何で覚醒してるんだこの子は。
「あなたのためなら何でもします。どうか、力にならせて下さい……」
そして何とアイリスは俺の上に覆い被さってきた!? おぉぉぉ!? 当たってます! 柔らかいの当たってますから! ん? 今何でもするって言ったよね? アアアア!! 俺は王子様ではないというのに! そう、我が名は童帝にしてスケベ大魔王! 故に! この状況は! …………素晴らしいです……。俺、もうこのままゴールしてもいいかな……。
「ズルいよ、アイリス」
アイリスの健全な色香にノックアウト寸前までいったその時、開かれている扉からまた声が聞こえた。それに驚いて俺とアイリスは跳ねるようにまた離れる。びっくりしたァ! その声はグラシャ! 流石だ! 俺を助けてくれるのはいつもお前――
「私だってトーマに聞きたかった。だけど、トーマが話さないのなら、聞かない方がいいのかなって思って……。でも、やっぱり気になるわ。お願いトーマ、私にも教えて。トーマとイチローさんは何を隠してるの?」
だ、駄目だァ! こいつアイリスの援軍になりやがった! くぅ……! あぁ、もう!
「トーマ、私も何でもするわ。だから、お願い」
「…………私たちを、仲間って思ってくださっているのなら」
…………はぁ、やれやれ。他でもないグラシャとアイリスにそんなに真剣にお願いされたら断れる訳が無い。俺を誰だと思っている。童帝ケモミミ=キョニウノオネエサンスキー1世だぞ。お前たちのお願いなんか全部聞いちゃうわ。
「……分かった、分かったよ。グラシャ、扉を閉めて入っておいで。アイリスもその辺に座って。……でも、覚悟してくれよ? 割と冗談じゃない事、今から言うから」
俺も覚悟を決めてそう言う。あぁ、この世界で最も大切な二人には、俺の正体を明かそう。少し長くなるが、聞いてくれるかな。
◇
そして俺はグラシャとアイリスに全てを話した。
「…………帝国じゃない、別の、世界……」
「少し難しい話だったな。そうだな、物語の中の世界からやって来た、ってイメージしてもらえればだいたい合ってるかな」
「トーマとイチローさんは、お話の中の人なの……?」
「そうかもしれない」
グラシャとアイリスは予想通り難しい顔をしてしまうが、とりあえずは理解してくれたようだ。俺自身もどう説明すればいいのか分かっていない。……何せ、どうしてここに来たのかも分からないのだから。
「だから、俺と一郎さんは元の世界に帰る方法を探してる。その手掛かりを、アルトリウス先生が知っているかもしれないんだ。先生もおそらく、俺達と同じ外の世界から来た人だから」
「…………『灰かぶり姫』や、『じゅう』も……トーマさんたちの世界のもの、なんですね」
「その通りだアイリス。俺達の世界じゃ魔法は無いからね。色んな道具を作って暮らしてるんだ」
「魔法が無い世界……信じられない」
グラシャが驚いたように言う。はは、そうだな。でも俺からすれば魔法がある世界の方が信じられなかったんだけどな。
「…………ねぇ、トーマ。もし、お話の中に帰る方法が見つかったら、どうするの?」
そして、グラシャが少し怯えたような表情で問いかけて来る。……やっぱ、その質問は来るか。そうなんだよな……。俺は、帰りたいんだろうか。確かにあっちにやり残したことはいっぱいある。親孝行もしてないし、兄貴にも生意気な事ばかり言ってしまって、いつか謝りたいと思ってた。それにメロンパンとラーメンとフランクフルトを奢ってもらってない。あとソシャゲの周回もやりたい。
考えれば、
たぶん、選べるのはどちらか一方だけだ。一郎さんは日本に帰ると決めているようだ。そして……俺は…………。
「…………帰る方法が分かったその時になったら決める、かな」
まだだ。もう少しだけ時間が欲しい。俺はまだ選べない。家族か、仲間か。そんなの簡単に選べるはずもない。
「……そう」
「…………」
俺の答えに、グラシャとアイリスは少しはらはらしたような様子をしていた。そして、グラシャは意を決したような表情で席を立ち上がって、ベッドに座る俺に近寄ると、俺の隣に座り、手を取ってきた。
「…………触れる。やっぱり、トーマはここにいる」
「グラシャ……?」
「あのね、私、トーマがお話の中の人でもいい。いつかそのお話の中に帰っちゃうかもしれなくてもいい。その時は、私も一緒に行く。だからね、これからもトーマと一緒にいさせて欲しいな」
そう言うグラシャの表情ととても柔らかで、温かさに満ちていて、とても大事そうに俺の右手を両手で優しく握っていた。…………グラシャ、お前……。
「…………協力します。トーマさんとイチローさんが、帰る方法をお探しなら……お手伝い、させて下さい」
そしてアイリスも、俺の隣に座り、グラシャとは反対の俺の左手を包んだ。
「魔法が無い世界でも、どこへでもご一緒します……。だから……もう隠し事をしないで下さい。私は、何があっても、トーマさんの味方ですから」
「アイリス……」
そう言ってアイリスはふっと柔らかく笑い、一つ頷いた。……なんか、そう。うん、心がきゅっとなった。二人の優しさが身に染みて、苦しいほどに嬉しさがこみあげてくる。さっきまで感じていた漠然とした不安が消えて、あったかい安心感が手から伝わってくる。穏やかで、ふわりとした、信頼と親愛の暖かさだ。…………そうか。もしかして、これが、優しい――――。
「……………………ありがとう。グラシャ、アイリス。愛してる」
「うん。私も。えへへ」
「…………はいっ」
恥ずかしい言葉だと思うけれど、今だけは簡単にそう言えた。本心からの言葉は、こんなにも簡単に言えるのかもしれない。二人も少し恥ずかしそうにはにかんでいる。…………あぁ、なんか、安心したら眠気が襲ってきた。もういい時間だ。そろそろ休もう。
「これで話は終わりだ。さぁ、二人とももう寝ろ」
「そうね……なんか、少し安心したら眠たくなってきたかな」
そう言って、グラシャはそのまま俺のベッドのころんと横になってしまった。いや、そこ俺の場所だから。さっさと自分の部屋にお帰り。
「……ねぇトーマ、いい事思いついたわ。もうこのまま寝ちゃえばいいんじゃないかなって」
「は?」
……そしてこのわん子は何かとんでもない事をほざき始めた。おい、寝言は寝てから言えよ。大魔王が元気になっちゃうだろうが。
「こら、いくら俺でも気を許し過ぎたぞ。さっさと部屋に戻れ。さもないと、お前を一晩中モフり続けるぞ」
グラシャの耳をむにむにしながら注意する。……が、彼女はそれすらも心地よさそうに受け入れ、何か初めて見るような、ドキッとする流し目で俺を見やってきた。……な、何だその目は。
「……いいよ。トーマになら、何されても……」
「――――。」
その時俺に電流走る。何ウェルカムな顔してんの? きゅんときた。むらむらきた。何だこの空気は。とっても甘くて、少し刺激的な感じだ。童帝にはこの雰囲気は重すぎる。ま、まさか今が童帝退位の時だとでも言うのか!? れれれ冷静になれ。
「ていうか、私ばっかりいつも膝枕してあげてるの不公平だと思うわ。腕枕くらいしてもいいと思うの」
「何だそれ。しょうがないな」
そうか、これは等価交換だ! グラシャの膝枕に対して、俺は添い寝を提供する。ただそれだけだ。健全&健全空間である。グラシャの身体が色々当たってる気がしてるけど、これは仕方の無い事なのだ。そう言う事なのである。なんかもう一押しすればえっちぃ一枚絵が埋まりそうな展開になりそうであるがしかし、俺はジェントルマンなので今日は添い寝だけにしておいてやろう。今日の俺は紳士的だ、運が良かったな。決して奥手とかヘタレとかではない。重ねてそう言う事なのである。
「ず、ずるい……! わたっ、私も……!」
「アイリス!? 待て、分かった、分かったから!」
さて俺も横になろうとしたその時、アイリスが俺を引き留めるようにぎゅっと抱き着いてきた! ひぇぇ許してアイリス! お前も俺の正気度をすり減らすな! えぇい、分かったよ! 三人で寝ればいいんだろ! この狭いベッドで、滅茶苦茶密着して寝ればいいんだろ! 我が名はスケベ大魔王にして童帝ケモミミ=キョニウノオネエサンスキー1世! こんなおいしい展開から逃げたりせぬわ!
「トーマのにおい……♪」
「…………♡」
「……………………もう寝ろお前たち」
右腕にアイリス、左腕にグラシャ、二人の巨乳に挟まれる俺。……たどり着いたぜ、
◇
次の月曜日。それが、帝都アスラ教会聖堂でアルトリウス先生が講演をする日だった。
俺たちはその日、一郎さんと共に聖堂に赴いた。大司教と祈りを捧げるためではない。アルトリウス先生の正体を暴きに行くためにだ。
聖堂の大きな扉を開くと、もうすぐ講演集会が始まろうとしているところだった。
聖堂の長く広い部屋には一般の教徒たちが長椅子について、瞳を閉じて祈りを捧げている。その奥では、フレイヤさんが魔導オルガンを豊かに弾き鳴らし、荘厳な雰囲気を演出している。
「…………大司教を問い詰めるのは、彼らの祈りが終わってからにしよう」
「分かりました」
一郎さんの言葉に俺も頷く。確かに、ここにいる一般の方たちに迷惑をかけられない。俺達もここで講演を聞きに来た振りをして、様子を伺おう。
俺達が聖堂に歩み入ると、準備をしていたフラムさんとスカーレットさんが俺達に気が付き、視線を向けて、言葉も無く頭を下げて挨拶してきた。…………勝気な性格のスカーレットさんも、こういう雰囲気の場所では大人しくするみたいだ。
…………だが、二人とも、どうしてドクみたいに怪しく口元を歪めている?
俺達が席に着くと、その時ちょうどアルトリウス先生も部屋に入って来た。右手には聖書らしきものを携え、左手には大司教だけが持つ事の出来る聖なる杖【ブルー・アルカディア】が握られている。
先生が入って来た瞬間に、フレイヤさんのオルガン演奏が止まった。始まるのだろう。
「む? …………………そうですか。遂に、来ましたか」
アルトリウス先生は俺達に気が付くと、とても喜ばしそうな表情を浮かべ、そう言った。…………先生、その意味は――。
「…………今日集まってくれた敬虔なる神の子らよ。まずは感謝を。どうか、あなた方に神の祝福がありますよう」
聖堂の扉がフラムさんとスカーレットさんによって閉じられる。アルトリウス先生の言葉もあり。集会が開始された。…………何だろうか。この、引き返せないところに来てしまったかのような緊張感は。今、俺は何か強大なものと相対している気がする。全身の毛がぞわぞわして、『一瞬たりとも気を抜くな』と本能が警鐘を鳴らしている。
「――――人は、不完全な生き物です」
講演台にはアルトリウス先生が立ち、その傍らにはフレイヤさんが寄り添うように佇んでこちらを見つめている。
背後にはフラムさんとスカーレットさんが出入り口を塞ぐように佇み、俺達の背中に視線を突き刺してきている。…………何だ、この不気味な、殺気にも似た空気は。ここに敵はいない。魔物なんて一匹もいない。だのに、敵の巣窟に迷い込んでしまったかのような……そう、あの巨大地ドリと戦った時のような、ビリリと痺れる感触を俺は感じている。
「人は善なる光を持っています。愛、友情、そして平和への祈り……ここに集まった皆が抱く、優しき心です」
アルトリウス先生の言葉が続く。優しき心を持つ人間、世界には確かにそれがある。
それは、理不尽な扱いを受けながらも決して人を殺めなかったグラシャ。
例えば、俺のためなら何でも力になると拙い口調で懸命に言ってくれたアイリス。
または、行く宛ての無い子供たちを世話する孤児院のために働いているマヤちゃん。
あるいは、騎士団の皆のために身を粉にして働いてくれるスメラギさん。
そして、全くの他人だった俺を無償で助けてくれた一郎さん。
最後に、俺の事を愛し面倒見てくれた兄貴。それらが優しい人である。
「同時に、人は悪しき闇も持っています。利己心、理不尽、あらゆる悪行を産む邪気……我々が戦うべき、悪なる心です」
アルトリウス先生の言葉がさらに続く。悪しき心を持つ人間。この世界にも確かにそれはある。
それは、ただ尻尾が映えているからといってグラシャと彼女の家族を害したドイヒ村の村長。
例えば、下民といって他人を蔑み、自分の言う事が受け入れられず逆上したルキウス。
または、自分の娯楽のためにルリちゃんたちの居場所を奪おうとし、アンジュさんたちをこき使い続けたダリオ。
そして、認められないからというふざけた理屈でロゥ大司教を殺害し、一般人を巻き込みテロを起こす過激派。それらが、悪しき心を持つ人である。
「悪しき心がある限り、世界から理不尽と悲劇は無くなりません。故に我々は祈るのです。そして戦うのです。決してその闇には負けぬと、心の光を消さぬために。自身が闇に飲まれぬために。今一度、ここに皆で祈りを捧げましょう」
アルトリウス先生は手に持つ聖杖【ブルー・アルカディア】を掲げ、そして魔力を込めて輝きを放ち始めた。
「…………魔力の動きがある。何か、変……!」
その時、アイリスがやや切羽詰まった声でそう言い。アルトリウス先生を見やる。何だ、何が起きようとしている……!?
「――人類に愛と平穏を」
「人類に愛と平穏を」
アルトリウス先生が言うと、場にいる他の信徒さんたちが同じく告げる。始まった瞬間、フレイヤさんが聖堂の扉を開け、隣の部屋に去った。何故?
同時に、背後に控えていたフラムさんとスカーレットさんも出入り口の扉を開き、自分たちだけ出てまた扉を閉めてしまった。…………何だ、この本能が『逃げろ』って叫んでる感じ! 何だかよく分からんけど、まずい気がする!
「――心に正義と優しさを」
「心に正義と優しさを」
何が出来る? 何をすればいい? そもそも、何から逃げればいい? 立ち上がって警戒するも足が動かない。一郎さんも、皆も同じだ。何が起こるのか、全く分からなくて動けないでいる!
「――世界に安息と救済を」
「世界に安息と救済を」
そして、最後の言葉が紡がれる。
【ブルー・アルカディア】の輝きが増し、アルトリウス先生は杖の先をこちらに向けて、にっこりと満足気に微笑んだ。――まるで、ドクが悪い事考えている時みたいに。
「――あなたたちに、神の祝福を。創生の【リライティング・マインド】」
――刹那、青紫色の不気味な輝きが聖堂を包んだ。
「っ――――!」
その光を浴びた瞬間、俺は意識がフッ飛ばされる思いをした。視界に映るアルトリウス先生が霞み、どんどんとブラックアウトする。先生、いったい、これは――!
「さぁ、特別課外授業の時間ですよトーマくん。授業の名は……そう、『優しい世界の創り方』です。始めましょうか。ゆっくりと、一から教えてあげますとも……」
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