第4話 狼とアオハル味の香辛料
「十真、起きろ」
……やぁ、兄貴。どうせ夢の中だろうけど、また会えて嬉しいよ。聞いてくれ、俺、ケモ耳美少女に出会ったんだぜ? しかも狼の。生きててよかったーって思う訳よ。
「全く、お前のスケベ大魔王は治らんな。いいかい十真、狼は動物の中でもとても愛情深い生き物だ。人間の子供ですらも育てる事例がある事から、その優しさは見て取れるだろう。特徴的なのが、狼は群れを成すがハーレムは作らんところだ。どれだけ強かろうが、群れが大きかろうが、オスは一匹のメスだけをつがいにする。メスもまた、子育てなどで献身的でオスを支える一途な生き物なんだよ」
だからその言い聞かせるような口調やめろ、気持ち悪い。……で、それが何だよ。それくらいなら俺だって知ってる。だから好きなんだよ、狼。かっこいいし。
「……愛ってのは、強すぎてもやっかいだと思わないか?」
何だよ、その含みのある言葉は。なんか怖いだろ。
「野生動物の群れってさ、基本的にオスがボスだけど、メスだって力がない訳じゃないんだ。例え強いオスがいても、そいつがメスに嫌われてたら、そのオスは群れから追い出されちまうんだぜ? そんで、メスのお気に入りのオスがボスになるんだ。そういう動物もいるって、この前N〇Kでやってたぞ」
まじか。流石N〇K様だ。資金に任せて貴重なロケやりたい放題だな! その分受信料減らしてくだちぃ!
……で? 結局何が言いたいんだよ?
「女の子の愛には、無限のパワーが秘められてるって事さ」
兄貴はふふ、と不気味に笑ってまた消えてしまった。ちょ、それどういう事だよ! 分かるように説明しやがれ! おいこら!
◇
目が覚めると、そこはまたベッドの上だった。また知らない天井だ。俺ってばそろそろエヴァに乗れるのかもしれん。
「目が覚めたか」
そして俺の視界に見えたのは、またまた一郎さん。どうも、またご迷惑をおかけしたようで……。
「すいません。俺……迷惑かけてばっかですね」
「気にしないでいい。今回の任務は、君の手柄のようなものだ。私一人では、彼女を救えなかったかもしれない」
一郎さんは穏やかな表情でそう答えた。……そうだ、あの素敵なケモ耳ちゃんはどうしたのだろう。
「彼女もあの後、栄養失調で倒れてね。でも、つい一時間前に目を覚まして、軽い食事をとってから浴場に向かった。いや、
一郎さんは心配無用、とばかりにそう答える。そうか、よかった……。
聞くと、俺とケモ耳ちゃんがぶっ倒れた後、一郎さんとズイカクが俺達を抱えて、ドイヒ村より一つ前の町に戻り、ここで医者に診てもらい、一晩経って今に至るのだとか。……窓を見ると、確かに完全に陽が昇っていた。
上体を起こそうとすると、まだ脇腹がひどく痛んで起き上がれない。これはひどい。
「無理をしてはいけない。内臓に傷は無いが、かなり傷口は大きい。治るまで絶対安静だよ」
「重ねてすいません……。俺、足を引っ張ってばかりで……」
「気にしないでいいと言っただろう? むしろ君はよくやった方だ。よくぞ彼女を救った。君こそが大和男児だ」
一郎さんはそう言って、俺の頭を撫でた。本当に誇らしそうな顔をしていて、こっちまで気恥ずかしくなる。俺は好き勝手やってしまっただけだ。でも、一郎さんがそう言うならありがたく褒められておこう。
その時、“グゥゥ~”と盛大に俺の腹が鳴った。全く空気の読めない虫だ。親の顔が見て見たい。俺だった。凹む。ついでにお腹も凹む。腹がペコちゃんだ。
「ふふ、相変わらずで結構。待っててくれ。何か持って来よう」
一郎さんはそう言い、部屋の外へと出て行った。……一郎さんがそう言って、食べ物が出て来た事無いんだよなぁ。何かしら別のトラブルが起きる気配がして怖い。今また吸血鬼に出くわしたらどうしようもないぞ。
とはいえ、何が出来るでも無し。大人しく待っている事にした。
しかしながら十分経っても一郎さんは戻って来ない。やっぱりか……。仕方ない。空腹を紛らわせるために眠るとしよう。一郎さんがまた起こしてくれるだろう。
瞼を閉じて、もうひと眠りする体勢に入る。
…………。
……………………。
…………………………………………。
……が、駄目だった。お腹が空いて眠れない……………………。どうすりゃいいんだ……。一郎さん、はよ! 飯プリーズ!
そう思ったその時、かちゃり、とゆっくり扉が開いた。おっ、来たか!
「来るのを楽しみに待ってました」
待望しすぎて、思わずそう言ってしまった。いやいや、何様だ俺。
「本当に……!? そっちに行っても、いい?」
…………ん? 一郎さんいつからそんな可憐な声出せるようになったんです?
いや馬鹿な事言ってんじゃない俺。この声はもしかして、と思い、部屋の入り口の方へ首を向ける。すると、やはりと言うべきか、例のケモ耳ちゃんがいるではない…………か……!?
「綺麗だ……」
「えっ?」
思わず呟いてしまった。何せ、ケモ耳ちゃんの身なりが随分と清潔になっていたからだ。
枝毛ぼうぼうで油ぎっていた髪は、張りと艶のある乙女のそれになっており、身体や顔の汚れは全く落とされて、白い肌がよく見える。何より、狼耳と尻尾にモフモフ具合が戻っている。体はまだモデルさんのように少し痩せ細っているが、どうやら歩く分には問題ないようだ。驚いた、一晩休んでお風呂に入るだけでここまで見違えるとは。
「お世辞はいいよ……。こんな細い身体、気持ち悪いって分かってるから……」
「本当に綺麗だってば。そこにいないで、こっちに来て話さないか?」
扉の前で立ち尽くしている彼女を手で招くと、彼女も嬉しそうに笑ってこちらに歩いて、さっきまで一郎さんが座っていた椅子に腰かけた。
「悪い。まだ起き上がれなくて」
「謝らないで? それは私のせいだし……」
……言葉が続かなくなってしまった。さて、まず何から話そうか。えっと、とりあえず“尻尾モフってもいいですか?”でいいかな? どう考えてもバッドコミュニケーションです本当にありがとうございました。
彼女も彼女で、俺をブッ刺した張本人であるからか、ちょっと遠慮してしまっている感じだ。いかん、これはいかんですよ。そう、俺は彼女のフレンズになると言ったではないか。
…………そうだ、名前だ。そもそも名前すらお互いに知らないじゃないか。挨拶は大事、古事記にもそう書いてある。これはいかん。ドーモ、ケモ耳=サン、ソンチョースレイヤーです。いや違う。
「俺は海藤十真。気軽に
「グラシャ! 私の事もグラシャと呼んで!」
言うと、ケモ耳ちゃん――改めグラシャは、元気よく答えてくれた。可愛い。思わず頬が緩む。
「了解、グラシャ。良い名前だね」
「そ、そう……?」
本当にそう思う。なんか、響きが彼女に合っている。俺に褒められて、彼女は照れくさそうに、でも嬉しそうに頬を緩ませていた。はい可愛い。これこれ、こういうのでいいんだよこういうので。異世界生活に華が出て来たじゃないか! 嬉しくてほろりと来るね。腹の虫? 奴は死んだよ。グラシャの笑顔さえあればお腹いっぱいになれるんだよ俺は。その笑顔、プライスレス。髪と同じ夜空色の耳がせわしなくピコピコ動いているのもまた良き。いとをかし。
「グラシャ、聞き辛い事、聞いてもいいかな?」
「…………あの村で、何があったか?」
グラシャも察したようにそう言って来た。俺は首を縦に振る。辛い事を話させてしまうが、俺は知りたい。いったい、どういう経緯であんなひどい事になったのか。
「……大丈夫。トーマには、ちゃんと聞いてほしいから」
グラシャは気丈にそう言って、身の上をつらつらと語り聞かせてくれた。
曰く、事の始まりは三ヶ月前に遡るらしい。その日、グラシャは家で十四歳の誕生日パーティを迎えていたのだとか……。
「ちょっと待て! 十四歳!?」
「えっ、うん」
それが何か、とグラシャは不思議そうに首をこてんと傾けた。はい可愛い。……ってそうじゃない!
俺の目は誤魔化せない。今は俺の【観察眼】がしかと捕捉している。グラシャ、こいつ、おっぱいが大きい! 服を軽く盛り上げるほどの豊かな丘が俺の心をわしづかみにしている。しかも腰のくびれが、ちょい痩せすぎだが美しいラインを描いており、それがさらに彼女の胸の大きさを強調している。くびれのラインからさらに視線を流して下に落とすと、ふんわりとしたお尻と太ももが実にエロく、心を癒してくれる。
……このボリューム感で、十四歳? 十四歳って中学二年生だろ? また中二か。この世界の中二は色々格が違うようだ。これで大人になったらどれだけのものが……。考えるだけで元気になりそうだ。色々。ケモ耳で、清楚で、しかも巨乳。何だこの尊死三連セットは。オイオイオイ、死ぬわ俺。フレンズ以上の関係も辞さない。
「いや、ごめん。続けてくれるか?」
「えぇ。それで……」
俺はやや下半身をグラシャから隠すようにしながら話を聞いた。要約すると、こういう事らしい。
誕生日パーティーで宴もたけなわになったその頃、いきなりグラシャの身体が痛みだし、ぽんとケモ耳と尻尾が生えたのだとか。おそらく、生まれついて持っていた
グラシャの家族は、“彼女の姿がこの村で許される筈もない”と一目で察し、秘密裏に村を抜け出す準備をし始めた。グラシャ自身もまた大きく動揺したようだ。何せ、彼女自身もまたあの村の価値観で育った人間だから。
グラシャの家族は何とかバレないように準備していたが、その甲斐空しく、逃げ出す前に村長たちに見つかってしまった。村長と村人たちは彼らに襲い掛かって、グラシャたちを拘束。家ごと燃やして抹殺しようとしたが、グラシャの父が最後の抵抗で、グラシャを逃がしてくれたのだとか。
命は助かったが、家と家族を失い、行く宛ても生きる意味も失ったグラシャは、このまま餓死しようと、あの林のボロ小屋でじっと自身が朽ちるのを待っていたのだとか。しかしそこへ、彼女にとどめをさしに来た村人たちが現れた。口汚く罵る彼らに、グラシャはこう言ってやったのだとか。
「望み通り、このまま死んでやる! だがお前たちにだけは殺されてやるものか!」
グラシャは抵抗し、村人から槍を奪い、殺さない程度に返り討ちにし続けたのだとか。飲まず食わずで、三ヶ月もの間。
涙をこらえて、そんな辛い記憶を話してくれたグラシャに、俺は深く尊敬の念を抱いた。手を伸ばし、彼女の手と取って、しっかりと握る。……手、柔らかいなぁ。ずっと握っていたい。
「…………ありがとう、生きていてくれて。君に会えて、本当に嬉しい」
「ぐすっ……私も…………! 私も、あなたに会えて、よかった…………!」
俺の言葉を聞いて、グラシャは感極まったように、いよいよ涙をこぼして泣いてしまった。俺の手は、逆に彼女に両手でぎゅっと握られてしまった。いいぞ、もっと触ってもいい! おっぱいで抱きしめてくれると尚良い!
「グラシャ、俺と友達になってくれないか? 俺、友達一人もいなくてさ」
「へっ……?」
グラシャは泣きながら、驚いたように俺を見やる。だって、異世界人だから友達も何も無いんだよね。一郎さんは師匠だし。
「いいの……私が初めての友達で……? 私、トーマに酷い事を……」
「グラシャがいいんだよ。そんなに気になるなら、お詫びとして、しばらく俺の看病してくれないか? まだ全然起き上がれなくてさ」
俺はそう言って、困った様に笑う。あぁ、俺は天才じゃないだろうか。グラシャの自責の念を利用し、友達になるところか看病までしてもらう。良心がだいぶ痛むが、グラシャにはこれぐらい強気に迫るくらいがちょうどいいのだと思う。俺をブッ刺した事、だいぶ気にしてるようだから。そんなのわざとじゃないし、全然気にしていない。ドM男であればお礼すら言ってるだろう。よってグラシャは無罪だ。もっと言うなら、一郎さんみたいに弾けなかった俺が悪い。そう言う事なのである。
「そ、そうね! 分かった! 私ちゃんと看病するから! トーマの、と、友達として!」
「あぁ、頼む」
グラシャは使命感に燃えた表情でそう言ってくれた。計画通り…………! 思わず頬がつり上がるのが自分でも分かる。優しい優しいグラシャなら絶対にそう言うと思ってたぜェ? さぁて、んじゃあ楽しませてもらおうか。えっちな看護して下さいって言っちゃうかぁぐへへ! しかしお前は単純だよなァ、俺の口から出た言葉を、全部信じちまうんだからなァ! 友達になるぅ~? お詫びに看病ぅ~? ヒャーッハハハハハ! お前って奴は、気持ちいいくらい思い通りに動いてくれるなァ! 最高だぜ最ッ高ォ! お前にしてみりゃ、よかれと思ってやったんだろうけどなァ! 駄目だ……まだ笑うな……こらえるんだ……し、しかし……!
……………………あの、マジでこの子いい子過ぎない? 村の人誰一人殺してないところとか、出会ったばかりの俺みたいな男信用しちゃうとか、お兄さん心配になってきたよ? そういうところだよ、村長みたいな奴にいいようにされちゃうのは。
「任せて。私の命に代えてでもあなたを守るから。えっと、まず何しましょうか? 何かして欲しい事ある?」
「えっ? あ、うーんと、そうだ、一郎さん呼んできてくれないか? 多分、食べ物か何か持って来てると思うんだけど……」
「分かった。待ってて」
グラシャは使命感に燃えた目で、元気よく部屋を出て行った。…………昨日まで栄養失調だった人間だとは思えないな。すげぇや。
…………参ったな。グラシャが予想以上に良い子すぎて、本当に守ってあげたくなっちまった。とんだお人よしだ。馬鹿馬鹿しい。彼女とは清い交際を誓おう。あの優しくて穏やかな笑顔は、俺が
そして少し待っていると、一郎さんとグラシャが小料理を持って部屋に入って来た。パンがいっぱい入ったカゴに野菜スープの鍋、唐揚げ山盛りの皿に果物が盛られた器まである。
「遅くなってすまない。皆で食べようと思って、準備してきたんだ」
「さぁ、食べましょうトーマ」
なるほど、この量を料理していたのなら、それは遅くなる訳だ。ありがたくいただくとしよう。いただきます。
「トーマ、はい、あーん」
ハイ可愛い。……待て、ちょっと待ってくれ! 何故にグラシャは俺に唐揚げを差し出しているんだ!?
「グラシャ、まずは君が食べてくれ。俺もパンと果物くらいならつまめるから」
「怪我してるトーマが先。肉食べて血を作らないと」
ここは譲れん、とグラシャは決意の眼差しで俺に唐揚げを差し出してきた。くっ、これは、参ってしまうくらい気恥ずかしい! へ、ヘルプミー、一郎さん!
「ふふ、据え膳食わぬは男の恥だぞ」
一郎さんに視線を送り救援要請をするが、俺らを微笑ましく見やり自分もパンを齧っていた。そんなぁ!
…………ふ、ふん。いいだろう。こんくらい何て事ねぇ……! ケモ耳巨乳美少女の“あーん”一つ平らげずして何がスケベ大魔王か。大和魂を見せてやる!
「あ、あーん」
俺が口を開くと、グラシャは本当に嬉しそうに笑って食べさせてくれた。…………何だ、この胸にこみ上げるときめきは。グラシャに見つめられると心拍の上昇を感じる。スパイシーに味付けされているはずの唐揚げすらも甘く感じるようだ。アオハルかよ。これが……愛……!?
「おいしい?」
「あぁ……」
「よかった……! じゃあもう一個」
グラシャはにこにこしながら、唐揚げをもう一つ差し出してきた。だ、第二射だと……!? これ以上は俺の理性が耐えきれん! だってケモ耳巨乳美少女の“あーん”だぞ!? 字面だけでときめき死するわ! 童貞たる俺には刺激が強すぎる! ふざけろ、十四歳が放っていい攻撃じゃないぜ! いや、十四歳だからこそか。これがアオハルみか。認めたくないものだな、若さゆえの気恥ずかしさというものは……。
「いや、それはグラシャが食べな」
「駄目よ、トーマこそいっぱい食べないと」
「それはグラシャの方だ。グラシャも身体に栄養取り戻さないと」
わりと本当に心配だ。俺も動けないが、グラシャだって安静にしていた方がいい筈。いくら
グラシャはちょっとぶすっとして、俺の言う通りその唐揚げを自分の口に運んだ。それでいいのだ。
…………が、彼女はすぐに新しく唐揚げをフォークに差して、また俺の口に近づけてきた。
「次はトーマの番」
「ものを食べながら喋るんじゃありません」
これなら文句無いだろ、とばかりの表情に、俺も根負けを認め、素直にそれを食べた。やれやれ……。これで間接キスも達成してしまった。誰だ清い交際ってほざいたのは。俺だ。だって仕方ないだろ、グラシャが予想以上に積極的なんだもの。
「グラシャ、誰かとキスした事あるか?」
「ぶほっ!?」
水を飲んでいたグラシャがむせた。失礼、間が悪かったようで。
「けほ、けほっ! 何を言ってるの! そ、そんなのある訳無いでしょ!」
「そうか。いやさ、間接キスだなって」
俺が彼女の持つフォークを指さしながらニッコリ笑うと、彼女も今気が付いたようで、顔を真っ赤にして動揺してしまっていた。はい可愛い。尻尾がふりふりしてるのも良き。いとをかし。
「俺もキスした事ないんだ。俺のファーストキスはグラシャに取られたなぁ」
「ば、ばか! 何で今そんな事言うの!」
はっはっは。この俺を倒そうなどとあと一年早い。元通りの体つきを取り戻して出直すがいい。その時に俺は二秒で君に求婚するだろう。駄目じゃねぇか俺。
今はただのフレンズで十分だ。俺だってまだ半人前、グラシャとアオハルする前に、一郎さんのように強く男らしい人間にならないとな。もう二度と、この愛おしい女の子が泣かなくて済むように。そう、強く俺に決意させるアオハル味の唐揚げだった。
◇
こうして、一郎さんの任務は終了した。
ここで一郎さんの目的地が変更される。任務を終えた今、その報告を騎士団本部にしなければならないのである。
「では、帝都へ向かおう」
「了解です。…………ズイカク、なめるの、まじでやめて……」
グラシャの献身的な看病もあり、俺の傷は地球よりもずっと早い速度で癒えた。ズイカクとも久しぶりに会うと、出会い頭に顔をべろべろされた。歓迎の挨拶のつもりだろうか。腹立たしい。俺の顔面がまた臭くなってしまったではないか。
だが許そう。何せ、いよいよパーティに女の子が加わったのだから。一郎さんとの男二人旅も悪くなかったが、やはりグラシャがいると華がある。行く宛ての無い彼女は、俺と一郎さんが引き取る形となり、彼女もまた俺と同じく騎士見習いとして一郎さんに付き従う事となった。一緒に強くなろうな。
「流石に三人はズイカクに乗れんから、ここからは歩いて王都に行く事になる。長い旅路だ。二人とも、準備はいいかな?」
「はい!」
「よろしくお願いします」
では、参るとしようか。人生楽ありゃ苦もあるさ。グラシャには、これからいっぱい幸せな未来が待っているに違いない。俺がその未来を作って見せる。そして俺自身も。今しばらくは、この異世界を見て回ろう。自分が本当に地球に帰りたいのか。そして――優しい世界を作るには、どうすればいいのか。その答えを探しながら。
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