幕間
前章までのあらすじ
代々の領主、
桐家には、必ず男が生まれる、そして、長男は強靭な体を持ち、次男は、長男に力を奪われたかのように脆弱となる。それが、一度として途切れたことのない桐家の理だった。しかし、長子として女の柊が生まれた。父の
はるかな昔、まだ国といった形もないころ、異国の剣士が一人の若者に『鬼封じの剣』を教えた。そして、その若者が国に巣食う鬼を倒し、初代領主となったのが、鬼ノ国の始まりと言われている。
その若者の子孫が桐家であり、剣士の子孫が
ある時、柊が街に行くと、鬼民の孤児が、浮民の子どもたちを襲っている場面に出くわす。怒った柊が、孤児たちを懲らしめると、鬼民の大人たちに囲まれる。危機一髪、楠家の当主であり、柊の剣術の師でもある
時が経ち、柊が十五になった時、鬼ノ国で十年に一度行われる、御前試合が開かれた。領主一族として御前試合に参加できない柊は、勝ち続ける小士郎の勝利を、自分の代わりに戦っているかのように喜ぶ。しかし、決勝の相手として立ちふさがったのは、鬼ノ国の有力者、
鬼ノ国の始まりから続き、桐を裏から支えてきた葛は、強い子どもを掛け合わせることで、一代ごとに力を増し、遂に生まれたのが梟だった。強靭な体と冷酷さを併せ持ち、十年前の御前試合では、わずか十五にして優勝した。
決勝を控えたある日、三人の浮民が惨殺された。浮民の里では、二十年前にも一家が惨殺されており、人間業とは思えない手口に、鬼が現れたと怯える浮民だったが、決勝で万全を期すための、梟の試し斬りだった。
事実を知り激怒した柊は、領主である父親の槐に、梟を捕らえるよう訴える。しかし、戦になることを恐れる槐は、柊の訴えを退けた。更に、二十年前に、浮民を惨殺したのは自分だと告白する。
二十年前、浮民の美しい娘に心を囚われた槐は、妄執の挙げ句ついに正気を失い、娘が嫁いだ一家を惨殺した。そして、正気を失った槐を止めるため、戦って命を落としたのが、槐の命守であった宗近の息子の
桐の当主は、情が深い。時には我を忘れるほど情が激しい。この情の激しさと、強靭な体こそが、鬼の正体だった。剣術、蹴技、投技を、組み合わせた『鬼封じの剣』は、普通の人間には扱えない。『鬼封じの剣』を伝える楠家のものであっても、真に使いこなすことは出来ない。
唯一、『鬼封じの剣』を使いこなすことができるのが、正気を失い、鬼となって、自身の体の限界を超えた力で、一生に一度の一振りを振るう領主だ。楠の一族は、万が一、領主が鬼となったときに倒せるよう、幼い頃から一緒に育てられる宿命だった。
梟を捕らえることもできず、二十年前の凶行が父親の仕業だったことに衝撃を受けた柊は、御前試合で、小士郎に梟を殺させようとする。しかし、小士郎の拒絶にあい、とうとう我を失ってしまう。
完全に正気を失った柊は、限界を超えた力で、小士郎に襲いかかり、小士郎の左目を奪う。だが間一髪、小士郎を殺す寸前、駆けつけてきた宗近に倒される。深手を負った小士郎だが、柊の怒りの原因が梟の蛮行であること、正気を失うほどの怒りが、鬼民も浮民も分け隔てない柊の心の広さと優しさゆえであることに気付き、柊の命守となり、柊を守ることを誓う。
そして、五年後、領主の槐が亡くなる。
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