第九話 壊れる心

――なぜだ。

――なぜ、皆、なんとも思わない。何もしない。


 行き場のない憤りが、柊の体を駆け巡る。


――父は浮民を殺した。それが、浮民の子を招くぐらいで、償いになるか。

――優人は里のものが殺された。それを、無かったものとしていいのか。

――蓮は何もしない。何も言わない。それでも領主の子か。なんのための勉学だ。


――そして、私は何だ。

――何のための領主の長子だ。何のための『鬼封じの剣』だ。


――どいつもこいつも弱い。弱すぎる。

――領主なのに、何も出来ない父。

――ただおのれの賢さを、自分のために使う優人。

――ただ学ぶだけで、自分の考えのない蓮。


――そして、ただ憤るだけの、私自身。


――弱い。弱い。弱い。

 

――私は弱いか?

――私は、父と同じく弱いのか?

――私は、優人と同じく弱いのか?

――私は、蓮と同じく弱いのか?


――いや、私は強い。

――私は、父より強い

――私は、優人より強い

――私は、蓮より強い


――そうだ、私は強い。

――梟など、恐れる必要はない。


――そして、もう一人、強いやつがいる。

――あいつは強い。

――あいつなら、戦える。

――あいつなら、私の代わりに戦える。

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