春(2)

 検索履歴がひどいことになっている。

『ポートレート』

『ポートレート 撮り方』

『ポートレート 撮り方 コツ』

 迷走を極めそうだ。検索結果では同じ内容が繰り返される。レンズの紹介、構図の取り方、ライティング。


「大井先輩、ものすごいしかめ面ですけど、どうかしたんですか?」

「おお、何かあった?」

「飲み会の参加人数の確認です」

「僕も行く」

「はーい」

 白石くんは最初こそ人見知りをしていたが、次第にサークルのメンバーにも慣れてきたようだ。向こうから声をかけてくれることもある。こんな風に、月に一度の軽音楽サークルの集まりに参加してくれている非バンドマンの貴重な人材だ。イベント時には管理運営で共に東奔西走することとなるだろう。基本的に人員不足のため、普段から集まりに参加してくれている人は多くない。

 質問に答えただけでは、白石くんの用件は済んでいないようだった。


「大槻さんと出かけたんですよね。二人で」


 大槻さんとはアサちゃんのことだ。

 思い出した。新歓のときに、遠めにこちらを見ていたうちの一人が白石くんだった。

「もろもろの都合によりね」

「お二人は付き合ってるんですか」


 耳まで真っ赤になり、声は上ずっているところを見るに、そちらが本題だったのだろう。遠巻きに見てるだけだと思っていたが、こうして行動に移すのは立派だなと思う。


「ないない。そういうんじゃない。」

「でも、二人で出かけたんですよね」


「なんつーかね、そうだね」

 こういうことがないように、あらかじめ茶化して言っておいたのだが、裏目に出たか。まっすぐにそういわれてしまうと否定のしようがない。

 僕が肯定するように仕向けているのに、肯定することを望んでいないというおかしな状況を白石くんは作りあげている。

 僕がカメラをやっていることはサークルの面々も知っている。


 ただ、彼女の事情を勝手に言いふらすのは良くないだろう。


「ヒ・ミ・ツ」


「何を口からでまかせ言ってるんですか」

 彼女の声が突然会話に飛び込んできた。僕は背後から忍び寄る彼女に気が付いていなかった。

「アサちゃん、おつかれ」

「お疲れ様です、バイトだったんですけどもう打ち合わせ終わってますよね」

「今日は特になしだよ、でもアサちゃんのバンドメンバーが探してたよ。あと白石くんも用があるって」

 突然現れた彼女にフリーズ気味だった白石くんも何とか意識を取り戻した。彼女に白石くんを押し付けた形になってしまうが、どれも嘘ではない。彼女はなんとバンドのボーカルを勤めるらしい。壮絶なメンバー争いが行われ、ひとつのガールズバンドが誕生した。


 立ち去ろうとした彼女が足を止め振り返る。

「先輩、少し待っててくださいね!」

 逃れられたかと思われた白石くんの視線がまた僕に突き刺さった。

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