アサちゃんとお出かけ(3)

 彼女は勢いよく立ち上がると、シートを畳むために僕にも立ち上がるよう急かした。

「そうと決まれば、善は急げです」


ちょうど太陽の逆光になり、彼女を見上げた僕はまぶしさに目を細めた。

「いや、今日はもう遊び倒そう」

「え、カメラしまっちゃうんですか?」

「もう肩も凝ったし、次に期待ってアサちゃんも言ってたしさ」

 彼女が名残惜しそうな顔をするので、僕もやっぱりカメラを出そうかという気持ちになる。


「いや、僕もちょっと気を張ってたし。せっかくアサちゃんがかわいくしてきてるんだから、デートしましょうよ」

「デートになっちゃうんですか?」

「女の子って友達と出かけるときでもデートって言うよね。あれって男子的にはちょっと疑問」

「遊びよりもデートって言うほうが気分があがりますからね。女の子っていつでもドキドキしたいんですよ。あとイチャイチャしたい」

「男の子だってそうでしょう」

「男の子はドキドキさせられたいんじゃないんですか?」

「ドキッとする女性のしぐさは?みたいなやつか」

「女の子にもドキッとする男性のしぐさはありますけどね」

「たとえば?」

「先輩にドキッとさせられたときに教えます」


 思いっきりはぐらかされてしまった。

 彼女はどのアトラクションに向かおうか、手元の遊園地の案内図に視線を落とした。別に飲み会のネタにしようと思っていたわけでもないが、聞けないとなると気になってしまう。

 案内図が見たくて後ろから彼女の手元を覗き込む。ふとこちらに視線を向けた彼女と目が合ってしまった。


「ドキッ、ですよ」

「お知らせの仕方が雑」


 意識してなかったが、かなり近い。でもこれはしぐさではないような。

「そういえば、女性からのボディータッチってときめくらしいですね」

「そりゃ触られたら、そわそわしません?」

「ぞわぞわします。痴漢です」

 知らない人に触られたら、と考える。女の子相手だと怪しいキャッチか何かかな。見知らぬ男に触られたら痴漢だ。

「知ってる人でも、あんまりですね。女の子は気になる人にしかときめかないかもしれません。よく考えたら親しくない女の子にべたべたされても嫌ですし」


「イケメンに限る、だ」

「美少女前提、ですね」


 話の流れがあまり思わしくない。彼女にとって僕が見知らぬ男でも、親しくない間柄でもないようではある。ドキッとしたということだけ、心に留めておこう。それに、さっきの彼女の表情はとても活き活きして目を惹いた。レンズ越しにこんな表情が引き出せたらいいのにな、と僕は思いながら次の目的地を決めた彼女の背中を追いかけた。

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