第40話 第十一章 娘の種(?)明かし(2/4)
【地獄(?)に落ちた
母親の願いは、玄孫まで授かり、その安産であった。母親の孫が生まれないうちに、子供の鷹大が死んでしまうと、早々に途切れてしまい願いは叶わない。
すると、神様の決意が
鷹大は釈然としない。
「でも母さんは死んだよ。神様は母さん本人を助けなかったの?」
「この神様の本業は子宝成就と安産なのじゃ。お祖母様本人、出産した母体の健康は専門外なのじゃ」
寂しそうな顔をする。
「そんなー、同じ人間の命なのに……」
鷹大は母親を失った場面を思い出してしまう。
――白い病室、
いきなりの静寂。
何もかもが、冷たく空虚だった。
時間が袋小路に入り込んだように、未熟な鷹大の魂は、どこにも進めなくなっていた――。
鷹大は慣れてしまうくらいに、何度もその光景を思い出している。悲しいが、涙は出なくなっていた。
そんな鷹大を見た娘も、すまなそう。
「仕方なかったと神様も
なにか、やけに言い訳がましい。
鷹大は母の死を思わされて、少し機嫌が悪くなっていた。
疑いの目を
「本トに俺の娘なの? 俺にあまり似てないし、弓音にも似てない気がする。神様本人じゃないの?」
鷹大は
娘は横を向いて口を
「神様は人間と同じ次元に存在せんのじゃ! 人間と会話できるハズもないのじゃ。ワシは正真正銘、鷹大父様と弓音母様の娘じゃ! か、顔の形はワシの希望で少々いじっておるのじゃ」
「顔の形をいじった? どうして?」
何か隠している。鷹大が勘付いた。
「あっと、えー、……ま、全くの素顔ではまずいと思ったのじゃ。……そ、そうじゃ! 女の子は例え父親でも、かわいく見てもらいたいものなのじゃ」
また、口ごもった。それに思いついたばかりのような言い訳!
「やっぱ、神様だろう! 理由も今考えたっぽいし、小学生なのに『ワシ』とか『何々じゃ』とか言ってて、年寄りみたいじゃないか!」
娘は困った顔。
「『ワシ』とか『じゃ』とか言っておるのは、バレないためなのじゃ!」
「バレない? 何がバレるの?」
「そ、それは、……早まったのじゃ!」
娘は両手で口を押さえる。
「やっぱ、何か隠しているんだろう」
娘は神妙な顔つき。
「仕方ないのじゃ。最初に教えるのじゃ! ワシは、父様と一緒におったパイとナイのどちらかなのじゃ」
おかしなことを言い出した。
「そんな訳あるかよ! パイとも、ナイとも、顔が全然違う……あれ? 少しずつ両方に似てるな。2人を合わせたような……んなことより! 思い出した! パイとナイはどうしたんだ? 後から来るって言っていたのに……」
顔よりも、パイとナイが心配になってきた!
「パイとナイは、ここには来ておらんのじゃ。まあ、その、パイとナイのどちらかはワシの半分と言うか……なんと言うかじゃな……。厳密に言うと、ワシになる前なのじゃ。パイとナイのどちらかはワシになる前の女の子なのじゃ」
鷹大は全然分からない。
「前世ってことを言ってるの?」
「前世などと言う霊的なものではないのじゃ。極めて肉体的なものじゃ。肉体の半分……と言うことなのじゃ」
肉体の半分?
「体を半分にしたら死ぬだろう、普通!」
娘は改まった顔になった。
「もう、ちゃんと教えるのじゃ。
遺伝子なのじゃ!
パイかナイのどちらかは、ワシの遺伝子なのじゃ!」
「遺伝子とか、漠然とし過ぎてるよ。
いくら俺でも、遺伝子は学校で習ったから知ってるよ。
遺伝子っていうのは、親に似る素、先祖、民族の特徴を受け継ぐもの、人類の進化、いや、それ以上に生物全体の進化に関わって、地球に生命が生また頃から現代まで受け継がれ、億単位の年月が織り込まれている小さいけどスゲーやつなんだ。
そこへ来て、『パイとナイは遺伝子なのじゃ』とか、言われただけじゃ理解できないよ!」
鷹大は科学的な詳細は知らないので、憶えている部分を大げさに言ってみせた。
「父様、そこまで風呂敷を広げるのではないのじゃ。言った1つ目だけなのじゃ。
パイとナイは、未来に作られた父様の半分の遺伝子なのじゃ! 子供は、父様と母様の遺伝子を半分ずつ受け継ぐのじゃ! 神様の計らいで人間の姿をしておったのじゃ……。うーんっ! お、女の子に最後まで言わせるでないのじゃ!」
声が上ずって、顔も赤くなってきた。
女の子が言えないこと?
鷹大は一息ついて考える。
「えっと、パイかナイのどっちかは娘である君の遺伝子で、娘になる前の肉体的な半分で、子供は両親の遺伝子を半分ずつ受け継ぐ。
と、言うことは、俺の半分と弓音の半分を、肉体的に受け継いで娘になる。
俺の遺伝子の半分がパイとナイで、『神様の計らいで人間の姿をしてた』ってことは、本来は人間の姿ではない。
極め付けに、女の子が言いたくない……。
あのー、もしかして、パイとナイって、
俺の精子ってこと?」
「じゃから、それは女の子が口にする名前ではないのじゃ! Hな単語は禁止なのじゃ!」
赤面のまま、両腕をクロスして大きな×(ばつ)マーク! 拒絶のサインだ。
「なら、パイとナイ以外の、マラカやジュビやその他の人たちも、みんな俺の…………その、えーと、遺伝子の半分(精子)だったの?」
娘は満足して、うなずいた。
「そういうことじゃ!」
想像してみる。
扁平した卵形に、蛇のような尻尾が生えた生き物を、である。
大きなその生き物が何匹もいて、その1匹1匹に、パイやナイたちが、それぞれ馬乗りになって、ニョロニョロと、火山や川や平地や洞窟を動き回る。
ニョロニョロと不安定なのに、パイは見てる俺に手を振って、転げ落ちたりして!
クククッ!
「なんか、笑える! ……って、
おい! ちょと待てよ!
パイかナイのどっちかって、言ってたよな!
なら、もう片方は、どうなったんだよ!」
不安が大きな波に乗って、鷹大に押し寄せてきた!
「片方は、……死んだのじゃ……」
【ご注意:作中では『遺伝子』と表現しておりますが、学術的に考えますと『DNA』が正しいかも知れません。親子関係をイメージし易いため、ここでは、あえて『遺伝子』の名称を採用いたしました】
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