第40話 第十一章 娘の種(?)明かし(2/4)

【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイと貧乳のナイと一緒に、手に入れれば生き延びられるという宝を探すことになる。火山、川、平地、横穴を経て、洞窟で宝に出会う。なんと、宝はデートをしていた弓音ゆみねの姿をしていた。その後、鷹大の意識は何かに吸い取られ、脳細胞の奥の奥で目覚めると、鷹大の未来の娘と称する小学生がいた。神様が母親の願いをかなえるために、鷹大を助けに来たのだと、その娘は言ったのだった】




 母親の願いは、玄孫まで授かり、その安産であった。母親の孫が生まれないうちに、子供の鷹大が死んでしまうと、早々に途切れてしまい願いは叶わない。

 すると、神様の決意がになってしまう。神様も母親の願いを成就させたいのだと、娘は言った。


 鷹大は釈然としない。


「でも母さんは死んだよ。神様は母さん本人を助けなかったの?」

「この神様の本業は子宝成就と安産なのじゃ。お祖母様本人、出産した母体の健康は専門外なのじゃ」

 寂しそうな顔をする。


「そんなー、同じ人間の命なのに……」

 鷹大は母親を失った場面を思い出してしまう。



 ――白い病室、あわただしくドアを出入りする医師や看護師たち、……そして、難しい言葉とともに機械のスイッチが切られた。


 いきなりの静寂。

 何もかもが、冷たく空虚だった。


 時間が袋小路に入り込んだように、未熟な鷹大の魂は、どこにも進めなくなっていた――。



 鷹大は慣れてしまうくらいに、何度もその光景を思い出している。悲しいが、涙は出なくなっていた。


 そんな鷹大を見た娘も、すまなそう。

「仕方なかったと神様もおおせなのじゃ。それにこの神様の本業は、子宝成就と安産なので、直接人間の命を救うことはできんのじゃ! 今は父様が生死を彷徨さまよっておるので、助けることができるのじゃ。岩壁から落ちて即死じゃったら何もできなんだのじゃ」


 なにか、やけに言い訳がましい。

 鷹大は母の死を思わされて、少し機嫌が悪くなっていた。


 疑いの目をらして、娘を見る。

「本トに俺の娘なの? 俺にあまり似てないし、弓音にも似てない気がする。神様本人じゃないの?」

 鷹大は刺々とげとげしく娘をつついた。


 娘は横を向いて口をとがらせる。

「神様は人間と同じ次元に存在せんのじゃ! 人間と会話できるハズもないのじゃ。ワシは正真正銘、鷹大父様と弓音母様の娘じゃ! か、顔の形はワシの希望で少々いじっておるのじゃ」


「顔の形をいじった? どうして?」

 何か隠している。鷹大が勘付いた。


「あっと、えー、……ま、全くの素顔ではまずいと思ったのじゃ。……そ、そうじゃ! 女の子は例え父親でも、かわいく見てもらいたいものなのじゃ」

 また、口ごもった。それに思いついたばかりのような言い訳!


「やっぱ、神様だろう! 理由も今考えたっぽいし、小学生なのに『ワシ』とか『何々じゃ』とか言ってて、年寄りみたいじゃないか!」


 娘は困った顔。

「『ワシ』とか『じゃ』とか言っておるのは、バレないためなのじゃ!」


「バレない? 何がバレるの?」

「そ、それは、……早まったのじゃ!」

 娘は両手で口を押さえる。


「やっぱ、何か隠しているんだろう」

 娘は神妙な顔つき。

「仕方ないのじゃ。最初に教えるのじゃ! ワシは、父様と一緒におったパイとナイのどちらかなのじゃ」

 おかしなことを言い出した。


「そんな訳あるかよ! パイとも、ナイとも、顔が全然違う……あれ? 少しずつ両方に似てるな。2人を合わせたような……んなことより! 思い出した! パイとナイはどうしたんだ? 後から来るって言っていたのに……」

 顔よりも、パイとナイが心配になってきた!


「パイとナイは、ここには来ておらんのじゃ。まあ、その、パイとナイのどちらかはワシの半分と言うか……なんと言うかじゃな……。厳密に言うと、ワシになる前なのじゃ。パイとナイのどちらかはワシになる前の女の子なのじゃ」


 鷹大は全然分からない。

「前世ってことを言ってるの?」


「前世などと言う霊的なものではないのじゃ。極めて肉体的なものじゃ。肉体の半分……と言うことなのじゃ」


 肉体の半分?

「体を半分にしたら死ぬだろう、普通!」


 娘は改まった顔になった。

「もう、ちゃんと教えるのじゃ。




 遺伝子なのじゃ!




 パイかナイのどちらかは、ワシの遺伝子なのじゃ!」


「遺伝子とか、漠然とし過ぎてるよ。

 いくら俺でも、遺伝子は学校で習ったから知ってるよ。


 遺伝子っていうのは、親に似る素、先祖、民族の特徴を受け継ぐもの、人類の進化、いや、それ以上に生物全体の進化に関わって、地球に生命が生また頃から現代まで受け継がれ、億単位の年月が織り込まれている小さいけどスゲーやつなんだ。


 そこへ来て、『パイとナイは遺伝子なのじゃ』とか、言われただけじゃ理解できないよ!」

 鷹大は科学的な詳細は知らないので、憶えている部分を大げさに言ってみせた。


「父様、そこまで風呂敷を広げるのではないのじゃ。言った1つ目だけなのじゃ。

 パイとナイは、未来に作られた父様の半分の遺伝子なのじゃ! 子供は、父様と母様の遺伝子を半分ずつ受け継ぐのじゃ! 神様の計らいで人間の姿をしておったのじゃ……。うーんっ! お、女の子に最後まで言わせるでないのじゃ!」

 声が上ずって、顔も赤くなってきた。


 女の子が言えないこと?

 鷹大は一息ついて考える。


「えっと、パイかナイのどっちかは娘である君の遺伝子で、娘になる前の肉体的な半分で、子供は両親の遺伝子を半分ずつ受け継ぐ。


 と、言うことは、俺の半分と弓音の半分を、肉体的に受け継いで娘になる。


 俺の遺伝子の半分がパイとナイで、『神様の計らいで人間の姿をしてた』ってことは、本来は人間の姿ではない。

 極め付けに、女の子が言いたくない……。


 あのー、もしかして、パイとナイって、




 俺の精子ってこと?」




「じゃから、それは女の子が口にする名前ではないのじゃ! Hな単語は禁止なのじゃ!」

 赤面のまま、両腕をクロスして大きな×(ばつ)マーク! 拒絶のサインだ。


「なら、パイとナイ以外の、マラカやジュビやその他の人たちも、みんな俺の…………その、えーと、遺伝子の半分(精子)だったの?」


 娘は満足して、うなずいた。

「そういうことじゃ!」


 想像してみる。

 扁平した卵形に、蛇のような尻尾が生えた生き物を、である。

 大きなその生き物が何匹もいて、その1匹1匹に、パイやナイたちが、それぞれ馬乗りになって、ニョロニョロと、火山や川や平地や洞窟を動き回る。


 ニョロニョロと不安定なのに、パイは見てる俺に手を振って、転げ落ちたりして!


 クククッ!

「なんか、笑える! ……って、


 おい! ちょと待てよ!

 パイかナイのどっちかって、言ってたよな!

 なら、もう片方は、どうなったんだよ!」


 不安が大きな波に乗って、鷹大に押し寄せてきた!


「片方は、……死んだのじゃ……」













【ご注意:作中では『遺伝子』と表現しておりますが、学術的に考えますと『DNA』が正しいかも知れません。親子関係をイメージし易いため、ここでは、あえて『遺伝子』の名称を採用いたしました】




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