第十一章 娘の種(?)明かし

第39話 第十一章 娘の種(?)明かし(1/4)

【身内に不幸があって公開を休んでしまい、また、少々念入りに見直しをしましたためにさらに遅くなり、ご迷惑をおかけしました。これより公開を再開いたします】


【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイと貧乳のナイと一緒に、手に入れれば生き延びられるという宝を探すことになる。火山、川、平地、横穴を経て、洞窟にて宝に遭遇した。だが、宝は二重の入れ物に入っており、パイとナイ他ライバルたちが、命を懸けて2つの入れ物を破壊する。中から出てきたのは、なんと弓音ゆみねであった。鷹大が走馬灯に見たデートの相手である。しかし直後、鷹大の意識は何かに吸い取られたのだった】



   第十一章 娘の種(?)明かし


「起きるのじゃ! 父様とうさま! 起きるのじゃ!」


 小さな女の子の声?


 鷹大は浅く眠っていた。

 その声に聞きおぼえがないし、父と言っているので関係ないと思った。


「起きるのじゃ! 鷹大父様!」


 鷹大と呼んでいる?

 自分の名前を聞いたら、意識が目覚めてきた。


 何か大事なことを忘れてるような…………。


 ………………!


「弓音! 弓音がいたんだ! それにパイとナイは? ついて来てるのか?」


 バッチリと、目がめた!


 目を開けたが真っ暗だ。誰もいないどころか、何も見えない。

 立っているのか、寝ているのかも分らない。上下が不明なほどだ。


 足元を見る。暗いけど足は見える。でも地面がない、宙に浮いている。上下が不明なので宇宙かと思ったが、Tシャツ、短ズボンのままである。宇宙遊泳ではなさそうだ。


「父様! やっと、目が覚めたようじゃの」

 女の子の声! 鷹大を起こした子のようだ。


 でも、背後からだ。

 見たいが、浮いているので足場がない。回れ右どころか、振り向くのも難しい。


 ビュンッ!


 前方半回転!

 宇宙みたいだったので、逆さまでもいいと思い、人柵じんさくを飛び越えた時を思い出して、腕を振り下ろす反動を利用し、鉄棒の前回りのように体を半転させた。


 小学3年生くらいの女の子が、上下逆さまで、手が届かないくらいの距離に浮いている。

 逆さまなのに、髪の毛が頭の上に垂れ下がっていない。普通に肩くらいの長さと分かった。


 着衣も同様で、どこもめくれていない。

 女の子は、布が薄そうな橙色のワンピースを着て、風もないのに、裾をヒラヒラさせている。靴は履いてない、裸足だ。


「父様が逆さまに振り向くとは、思わなかったのじゃ」

 クルリ


 その女の子は、ヘソ辺りを軸にして時計の針のように、ワンピースをヒラヒラさせながら半回転。上下同じに、鷹大と向き合った。


 超能力者のように意思だけで回転したようだったし、重力も関係ないようだ。

 自分が死んでしまっていることも踏まえて、ここは普通の世界でないと、鷹大は直感した。


 しかし、知らない女の子である。


「誰?」

「ワシは父様の娘じゃ! 名前は秘密じゃ!」

 なんか、偉そうに言ってる。


「秘密ちゃん? って名前なの?」

「ベタなことを言っておるのでは、ないのじゃ! 教えてはならん、という意味の秘密じゃ! ワシは、名前を教えてはならない父様の娘なのじゃ」

 腰に手をあて、エッヘンとふんぞり返った。


 娘と言われても、鷹大には意味が分からない。

 それよりも、重要なことがある!


「娘? そんなことより、パイとナイはどこ? 他に誰かいないの? それに弓音! 弓音がいたんだ! 弓音はどこへ行ったんだ?」


 慌てて見回すが、その女の子しかいない。他は暗いだけだ。


 その女の子は、なだめるよう。

「落ち着くのじゃ、父様! ここは父様の中じゃ、父様の頭に収まっておる脳細胞の奥の奥じゃ。そして、ワシは鷹大父様の娘なのじゃ!」

 娘と分かってもらいたいようだ。


 だが、それは違う。

「俺は高校生だよ。小学生の子供がいる訳ないじゃん! そ、それに、俺は死んだんだ。人違いだって……」

 鷹大は現実を思い出し、うつむいてしまう。


「ワシは弥陀ヶ原みだがはら鷹大の娘じゃ! 未来に生まれる父様の子供なのじゃ! 父様はまだ死んでおらんのじゃ!」

 少々難しい顔をした。


「違うよ、俺は地獄も体験したんだ。……でも、最後に弓音が現れて……俺って、未練タラタラだよな」

 弓音を見たのは、ついさっきのことだったように思える。


「父様が見たのは、弓音母様ゆみねかあさまからもらった体なのじゃ!」

 真面目な顔をして言っている。


「え? もらった体? そんなことより、弓音! 弓音が母親なのか!」

 分からないことよりも、弓音が優先だった。


「ワシは弓音母様の娘じゃ! 鷹大父様と弓音母様が、その……あの……だから……結ばれた未来の子じゃ! 娘じゃ!」

 途中少々口ごもったが、力強く言ってのけた。


 鷹大は走馬灯を思い出す。


 大きな花瓶を慎重に抱える弓音。赤ちゃんを抱っこしてるかのようだった。

 その弓音が母親か……。

 胸は少々小さいが、かけ離れた印象ではなかった。

 まあ、胸は発展途上と思っておこう。


「未来に弓音と結婚するっていうのは、夢があって、ちょっと嬉しいけど、俺は岩壁から落ちて、地獄にも落ちたんだよ。一般的な地獄のようじゃなかったけど、俺は死んだんだ!」


 スウーーーーーーッ!

 娘は待ってましたの顔をして、元気よく息を吸った。


「父様は助かったのじゃ!

 転落の時、岩壁の下に立っておった大木の枝に、何度か引っ掛かったのじゃ!

 それで、落下が減速してケガで済んだのじゃ! 命は助かったのじゃ!

 現在、父様は病院におって、意識不明のまま、生死の境目なのじゃ!

 じゃから、未来からワシが助けに来たのじゃ。死んでしまったら、ワシは生まれんのじゃからな。ハァ!」

 一気に言いらかすと、娘は吸い過ぎた息を溜め息に変えて、ハァとオマケにした。


「未来から助けに? そんなことできるの?」

「神様のはからいじゃ。お祖母ばあ様の願いによる神様の計らいなのじゃ」

 思いもよらない人物が出た!


「お祖母様って、俺の母さんってこと?」

「そうじゃ!」


 母親も鷹大の走馬灯に出演していた。ベージュのワンピースを着て帽子をかぶっていた。でも……。


「……それは、違うよ。母さんは俺が小さい頃に死んでるんだ。俺が落ちた時にはいないんだよ。願える訳がない」

 過去の死者が、現在、生死を彷徨さまっている者の生還を願えるハズがなかった。


「別に岩壁でなくてもよかったのじゃ。何か生命の危機におちいった時に、助けるということなのじゃ。父様は1人っ子じゃ。ワシという子供ができるまでは、父様の命を守る手助けをする、と神様はおおせなのじゃ」


 鷹大は分かるようで分からない。

「子供ができるまで、神様が助けるとか、よく分からないよ」


 娘によると、こんな感じである。

 鷹大は山に登る途中で岩壁から落ちたのであるが、その山の頂上には神社があって、縁結びで有名な神様がまつられている。

 一般には知られていないが、その神様の本業は子宝成就と安産なのである。しかし、いつしか本業が忘れ去られ、副業である縁結びが、本業であるかのように認識されるようになったのだ。


 高校生だった鷹大の母親は、郷土の歴史から神様の本業を調べた上で、セーラー服を着たまま山に登り、縁結びのお参りと同時に、我が子を授かり、その安産を願ったらしい。

 もちろん、鷹大の父親と出会う前の話である。


 副業である縁結びばかりを願われていた神様は、セーラー服で安産を願う母親を大変気に入って、その願いをかなえてやろうと決意したそうだ。


 そのようなエピソードを、鷹大は聞いていなかった。初めて知って、セーラー服で安産とは、我が親ながら萌えるシチュエーションと、胸が少々ときめいたのである。


 それはさておき、そこまで聞いて、せっかくの弓音との初デートなのに、わざわざ山に登った理由を思い出していた。

 その山には、弓音が誘ったのである。告白が叶い、鷹大との縁ができたお礼をしたいと言ったので、その山に登ったのだった。


 山頂に縁結びの神社があるのは間違いないようだ。


 娘が母親の願いを続ける。

「お祖母様が、縁結びと一緒に願ったのは、子供の安産だけでなかったのじゃ。

 孫、曾孫ひまご、そして長生きすれば、まみえることがあるであろう玄孫やしゃごの安産まで願ったのじゃ。じゃから、1人っ子の父様は子供が生まれるまで、死んではならんのじゃ!」


 玄孫とは、曾孫の子供である。

 例えば、母親から曾孫までの全員が、20歳の時に子供が生まれたのなら、母親が80歳の時に玄孫に会える計算である。


 母親の願いは、玄孫まで授かり、その安産であった。母親の孫が生まれないうちに、子供の鷹大が死んでしまうと、早々に途切れてしまい願いは叶わない。

 すると、神様の決意がになってしまう。神様も母親の願いを成就させたいのだと、娘は言った。


 鷹大は釈然としない。


「でも母さんは死んだよ。神様は母さん本人を助けなかったの?」







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