第37話 第十章 宝 (3/4)

【私が体調を崩したために、1週間公開が空いてしまいました。迷惑をおかけして申し訳ありません。まだ体調は本調子ではありませんが、約束どおり公開を再開いたします。休んだお陰でさらに見直しを重ね、弱い箇所を補強できました。ストーリーは終わりに近づいておりますが、もう少し続きます。つたなく読みにくい文章と思いますが、最後までお付き合いの程よろしくお願いいたします。2019年6月22日】


【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイと貧乳のナイと一緒に、手に入れれば生き延びられるという宝を探すことになる。火山、川、平地、横穴を経て、洞窟へやってきた。ジュビとマラカも入れて歓談する。目を覚ました鷹大はパイとナイを抱えて宝へと走る。宝は直径5メートルくらいに大きい白とピンクの球体だった。パイとナイのライバルたちは、宝を爆破して寿命を縮めて死んでいく。ジュビも死んでしまった。このままではパイとナイも死んでしまう、鷹大は抱えた2人を放せないでいた。(ごめんなさい、この回は文字数が多いです)】



 ガブッ

 パイが鷹大の腕に噛みついた!


「痛てっ!」

 かかえていた鷹大の腕は、ずれにずれて、パイの顔近くだったのだ。


「私もですわ! 鷹大! 放すのですわ!」

 ガブッ!

 ナイも噛みつき、歯が腕の肉に食い込んでいく!


「い、痛ってーっ! な、何でそこまでして死に急ぐんだよ!」

 鷹大は分かっているものの、聞かずにはいられなかった。


「決まっている! 生きるためだ! オリは1番になって生き延びるのだ!」


 ガジガジ

 パイは、しゃべったと思ったら、すぐに噛み直す。


「ほんの少し延命しましても無意味ですわ! 私は全力を持って生き抜きますわ!」


 ガブッ! ガジガジ

 ナイも歯を突き立てる。


 2人の固い意志が、鷹大の肉に食い込む! 皮膚には流血の赤が、生き物のように幾筋いくすじっていく。


「早く放すのだ! 鷹大! オリは、もっと生きたいのだ!」

「そうなのですわ! 生きるチャンスが無くなりますわ! 私だって、もっと生きたいのですわ!」

 2人は噛みつくのを中断しては、本能を叫んだ!


「紐が無くなると、死んじゃうんだよ!」


 ナイもパイも必死だ。

「紐なんて、ただの手段ですわ! 私は生きたい! 生きたいのですわ!」

「そうだ、オリだって生きたい! 生きたくて、生きたくて、仕方がないのだ! 生きたいから、火山からここまでやってきたのだぞ!」


 鷹大はハッとした!


 このパイの台詞は、マラカの台詞によく似ていたのだ。

『鷹大は生きたくて、生きたくて、仕方がないのよ! 生きたいから、火山から逃げたんでしょ?』


 この時、『まだ生きているんだ』と、心があるべき場所に納まったことを、鷹大は思い出していた。


 すると、パイとナイの『生きたい』という言葉が、鷹大自身に降りかかってきた。

 自身が『生きたい』と思った時の光景が、鷹大の脳裏に呼び起こされてしまったのである。

 そう、生きていた時、最期に見た光景だ。


 青空と岩!


 鷹大が落ちた岩壁だ!

 突き出た岩の鼻面が青空へと、吸い込まれていく。


「俺が岩壁から落ちた時、あの岩に戻りたいと思った。そう、1度は『生きたい』と思ったんだ。けど諦めた。走馬灯を見るほどに、俺は生きるのを諦めたんだ……」


 気付くと、鷹大の脳裏には、後悔の影が薄ぼんやりと立っている。

 脳細胞の奥の奥にむ、鷹大と同じ顔をした何かが、取り憑かれたようにブルッと震えた。


 その時である。ほんの一瞬、スッと、鷹大の気力がゆるんでしまった。

 と同時に、腕の力も一瞬抜けていた。


 そんな隙を、パイとナイは見逃さない!

 鷹大の腕から、スルリと逃れたのである。


「ありがとう、鷹大!」

「ここまで、ありがとうですわ! 鷹大!」

 2人が球体へと走っていく!


 なんと、生き生きとした後姿!


 生きるのを諦めた鷹大は、その場を動けない。

 軽快に去っていく2人を止められなかった。


「あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!」


 か細く、落胆にひしゃげるような鷹大の声。


 贈答用の菓子箱にそのふたを戻す時、ピッタリと合った僅かな隙間から、漏れ出る空気のような声だった。


 鷹大はパイとナイを見送ってしまった。

 球体には、まだ学校の2クラス分以上の人間たちが、声も上げずに群がっている。

 2人は、その中へと没していった。


 大切なものをつかみそこねたように、鷹大は両手を突き出すことしかできなかった。


「俺は2人を行かせてしまった。これでパイもナイも、頭と顔が黒くなって死んでしまうんだ」


 喪失感が心をおおっていた。


 突き出していた腕を見ると、赤い筋が何本も走っている。

 パイとナイに噛まれた時の血だ。


 生命に等しい赤に見えた。


「俺の血は『生きたい』と言っているのか……。俺は『生きたい』……のか? ……」

 マラカの言葉を思い出した。


「そうだった。俺は『生きたい』んだ。

 俺は火山から逃げるくらいに、鳥の羽をむしるくらいに『生きたい』んだ。


 なら、俺が生きるって何だ?

 みんなが求める宝を、俺は欲しいとは思わない。


 むしろ、宝はパイかナイが手にして欲しい。


 ――なんだ、簡単じゃないか。

 パイとナイ、そうだな、マラカも同じく助けよう! それが俺の『生きたい』だ! まだ、3人が死んだって訳じゃないからな」


 鷹大は気持ちを取り戻し、喪失感は去っていった。


 助けるには状況を把握したい。

 鷹大は改めて球体を見る。

 相変わらず人間たちが群がっている。

 誰も声を出していないためか、乾いた爆発音だけが寂しく続いている。


 しかし、球体はすでに球体ではなかった。

 爆破によって形が崩れ、扁平した白とピンクの塊になっていた。


 大きさも3メートル強にまで小さくなり、飛び散った肉片のような欠片かけらが地面に堆積して、転がる動きも停止していた。


 よく見ると、塊の高い位置に大きく部分がある。どうやら、1箇所を狙って爆破しているようだ。


 誰もしゃべらず、統制を取る者がいないのに、攻撃はある程度集中的に仕掛けられていた。

「そうか、誰も、匂いを頼りに宝を探していたんだ。あれは宝そのものじゃない。入れ物だ。外から匂いを強く感じる場所を選んで爆破したんだ。それで、よじ登っていたのか」


 もっと、えぐれた部分を見るために位置を移動すると、その奥に白っぽい何かが見えた。


「あの白いのが宝なのか?」


 群がっている中にいた2人の男が、他人を踏み台にして、えぐれた部分に、ほぼ同時に頭を突っ込んだ。


 バン! バン!


 連続爆破!


 ゴロロッ ゴチンッ! ギャチャンッ!


 金属っぽい音を立てて、中にあった白いのが、白ピンク色の地面に落ちた。

 重量感たっぷりに転がっている。


「鎧騎士? 白い西洋風の鎧? 甲冑かっちゅう? 白い鉄仮面をかぶった白騎士が、宝だったのか?」


 入れ物である白とピンクの塊から出てきたのは、白い鉄仮面をかぶった白い西洋甲冑の人型ひとがた、白騎士であった。


 武器は身につけておらず、体は鷹大よりも小さい。でも、ここの人間たちよりは大きかった。


 動いた!


 白騎士は自分で立ち上がり、鷹大へ向かって歩いてくる?

 中に誰かが入っているのか? それとも生きている鎧なのか?


 群がってた人たちは、白とピンクの塊なんて、もう、目もくれない。

 代わりに白騎士に群がった。


 腰から上体を直角に曲げて、頭や肩から突っ込むので、白騎士にタックルしているようだ。

 誰もしゃべらないのは変わらないが、集中せずに全方位的にタックルを仕掛けている。

 そして、それぞれの頭が接触すると、今度は赤い紐を引き出した!


 バンッ! バンッ! ババン! バンッ!


 青紐と同じように、頭から生えている自分の赤紐を引いて、その頭を爆発させたのだ。引いた本人は吹き飛び、どんどんと黒煙が立ち昇っていく。


 ビキッ!


 爆発で甲冑にヒビが入った。


「せっかく出てきた宝を殺す気か?」

 と、鷹大が思わず口に出したところで、パイやナイが言っていたことを思い出した。


「……いや、違うぞ! 入れ物は二重と言ってたな。白騎士の甲冑は宝を守る最後の入れ物なんだ」


 白騎士だって、やられっ放しじゃない!


 腕を振り回して、前側にいる人たちを、声も無くはらい始めた。

 白とピンクの塊と違い、威嚇の声は無いものの、抵抗を示したのだ。


 抵抗によって、群がっていた人たちは2、3メートルほどの遠巻きになった。

 白騎士の隙を見てのタックル&爆破となる。すると、あまり掃えない横や後ろが中心となっていった。


 また、遠巻きになったため、白騎士に歩みが戻った。

 なぜか、鷹大に向かって一歩一歩、ゆっくりと進んでくる。


 バァンッ! ボバンッ! ババンッ!

 白騎士に移動があっても、同様にタックル&爆破は続いている。


 爆破すれば爆破した本人は、自らの爆風により吹き飛ぶ。でもすぐに、復帰してタックルの機会をうかがった。


 青紐の時と変わらなかった。赤紐が頭に残っていれば、大きなダメージもなく爆破活動を続けられるようだ。


 でも、白騎士は塊(球体)よりも小さいし抵抗もする。爆破の衝撃が効率的に伝わっていない。


 甲冑や鉄仮面に彼らの頭が接触していれば、ヒビを入れられるが、掃われたりして接触できなければ、爆発が役に立たない。むしろ、赤紐を失った分、損している。


 爆損ばくそんだ。


 もし、青紐と同じなら、頭の赤紐が全部無くなれば、その人は死んでしまう。

 鷹大は、人が死ぬなんて嫌だったし、パイやナイやマラカが、その中に入って欲しくない。


 幸い白騎士は武器を持っていない。鷹大が腕を封じれば、爆損は減る。死ぬ確率が下がり、3人の助けになると思った。

 噛まれた腕の痛みもなくなっていた。普段どおりの握力がありそうだ。


 鷹大は正面から白騎士へ突進する。


 シュッ!

 白い鎧腕よろいうでが伸びる!  白騎士の抵抗だ。


 フェイント!


 横へ回って回避! その腕を、正確には手首をつかみ取る。


 グイッ!


 腕の動きを押さえた。でも、文化部の女子ほどの腕力しか感じない。

 思ったより力は弱かった。


 なら、もう1つ!


 ハッシッ!

 もう一方の手首も、つかみ取った!


 鷹大が正面から向かい合うように立ち塞がったので、足の動きも制した!

 これで白騎士は人を掃えないし、前進もできなくなった。


 バァンッ! ババァンッ!


 みんなが群がって爆破する! 無防備な隙をすぐに突いたのだ。


 連続する爆風。爆破した本人は吹き飛ぶが、鷹大には大きな衝撃はない。やはり、頭が接触していなければ、受ける衝撃は小さいようだ。


 これなら、長くつかんでいられるぞ。

 鷹大はできるだけ白騎士の手首をつかんでいようと思った。


 バンッ! ババンッ!


 爆破は白騎士の背面と側面に集中する。

 甲冑の胴部だけでなく、鉄仮面の頭部にまでヒビが及んでいった。


 バンッ ドタッ!


 シュヮ~~ッ!

 水となって消える者も出始めた!


 早くしないと、死ぬ人が増える。

 パイ、ナイ、マラカが危ない!


 鷹大が3人を探そうとするが、みんな顔も頭も黒くて見分けがつかない。


 そうだ! 体格とビキニの色が、手がかりになるハズだ。

 パイは巨乳のピンクビキニ、ナイは貧乳の青ビキニ、マラカは鷹大好みの筋肉質に鮮やかな赤ビキニである。


 3人とも蹴り飛ばしてでも、白騎士に近づけたくなかった。

 しかし、学校の2クラス分の人数が入れ代わり立ち代わりで、タックル&爆破の攻撃を仕掛けて来るのだ。

 なかなか3人を見つけられない。


 そんな中、鷹大は赤色のビキニを見つけた。遠巻きになっている人たちの中だ。

 足を引きずりながら体勢を低くして、白騎士へタックルするタイミングを狙っていた。






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