第36話 第十章 宝 (2/4)
【地獄(?)に落ちた
さらに近づくと、群がっている人たちの様子がよく見えてきた。
煙? が見える。
筋のような黒い煙がいくつか、人間の間から立ち昇っている。
「ねー! 群がっている人たちの間から黒い煙が出ているよ。どういうことだ?」
誰も知らないのか、答えがない。
そして、音が聞こえてきた。
ボンッ! ボボンッ!
「ば、爆発? ひ、ひ、人が爆発してるの?」
信じられない光景に、鷹大のスピードがガクンと落ちた!
頭が爆発した男が、地面に倒れたのだ。
他人の肩に乗って球体に取り付いていた男が、爆発によって地面に落ちた。その頭からは、もくもくと黒煙が立ち昇っている。
「し、死んだの? いや、生きてる! 立ち上がろうとしているぞ。
よかったあ~。爆発といっても黒くなるだけで、ダメージはないみたいだ」
男は黙って立ち上がり、再び球体に取り付こうとしている。
大ケガではないみたいだ。
でも、頭と顔がススか何かで真っ黒である。なので、ケガのほどは、正確ではない。彼の動きから、大丈夫そうに思えたのだ。
鷹大には、髪の毛が爆薬のように見えた。髪の毛が爆発し、そのススで顔まで黒くなっていると思った。
ボンッ! バンッ!
爆発音は続いている。
球体に取りついている誰からも声が出ていないので、際立って聞こえた。
よく見ると、頭から生えた青い紐を、自分で引き抜いた時に爆発している。
横穴を抜けた後、パイやナイたちの頭に生えた紐である。
男も女も、球体の表面に頭を接触させてから、青紐を引く。
すると、髪の毛の爆薬が爆発して、白とピンクの肉片にも見える球体の欠片が、地面に飛び散るのである。
爆発した人は自らの爆風で地面に倒れるが、何事も無かったかのように立ち上がり、爆破活動に復帰していた。
ケガはないようだが、頭が爆発するというショッキングな光景には違いない!
鷹大は、声が出ないままに、球体まであと20メートルくらいという所で、とうとう止まってしまった。
「どうした! 鷹大! もう少しだぞ! 止まるな!」
パイが体を揺すって急かす!
「ありがとう! 助かったわ! アタシは先に行くね」
ピョ~ンッ! タタタッ
マラカは鷹大の頭を飛び越して、球体へと走っていった。そして、群がる人たちに混ざってしまう。
「マラカ!」
鷹大は突然のことに、何もできなかった。
バンッ! バンッ!
爆発音!
人間たちの球体爆破が続いている。
宝は入れ物に入っていると言っていた。その宝を取り出すためとは言え、みんな捨て身だ。
鷹大は悲しくてたまらない。
「人間が、こぞって自爆してる! これこそ、まさに地獄だよ! マラカまで行ってしまった……」
鷹大の目からは涙が
もう、見ていられないと思い、目を
転がる球体の後方へ視線が向いた。
球体が通った後には水着が転々と落ちている。
「えっ? 水着だけ? 何人か全裸になった? ……違う! 火山で見たあの子!」
火山弾が当って死んだ水玉ビキニの子を思い出した。
体が水になってビキニだけが岩の上に残っていた。
ボゥン! ドダッ!
そこへ爆発で1人の男が地面に倒れた。
でも、立ち上がらない。
シュ~~ッ!
と、融けた!
男の肉体は、水となって白ピンク色の地面に浸みていった。
そして、水着だけが残っている。
「し、死んでる! 死んでるじゃないか! 人が死んでいるよ!」
命が散ったのだ。
爆発しても生きている人もいれば、死ぬ人もいる。
でも、爆発は死につながっている!
胸が押しつぶされそうだ。
鷹大は倒れた男の姿を思い出す。頭には赤い紐は残っていたが、青い紐はもう見えなかった。
「もしかして、何本かあった青い紐が、全部なくなると死ぬ? 自分で全部抜いたら死んじゃうの?」
鷹大の腕には、
パイとナイは宝のもとへ行くために、手足を使って、鷹大の腕から逃れようとしていた。
「きっと、そうなのだ! 鷹大の言う通りなのだ! でも、それがどうしたと言うのだ! 宝を手に入れるためだぞ!」
パイは体を揺すりながら、当たり前のように言う。
ナイも逃れようと懸命だ。
「私も早く青い紐を引いて宝を手に入れたいですわ! 紐を引きたくて本能がうずうずして、たまりませんわ!」
2人とも激しく体を揺する!
その振動で鷹大の腕がずれていく。腹を抱えていたはずが、胸辺りになっていた。パイの巨乳が触れているが、鷹大はそれどころじゃない。
青い紐に2人を取られたくなかった。
「そんな! ダメだよ! 青い紐がなくなると、パイもナイも死んじゃうんだよ!」
もう、涙声である。
「宝を手に入れないと結局死ぬのだ! 早いか遅いかの違いでしかない!」
パイに迷いはない!
ナイだって、そうだ!
「その通りですわ、鷹大! 私も行きたいですわ! 早くしないと1番になれませんわ! それに、青い紐を引きたい衝動に我慢できませんわ! 早く手を放してくださいまし!」
ペチッ! ペチッ!
ナイは鷹大の腕を
でも、逆に力は強まる。
2人を死なせたくない!
力を入れたら、鷹大の目が正面に向いた。
大勢の人が群がっている球体が目に入る。
その大勢の1人に目がとまった。
「ジュビだ! 頭が黒いけど、あの長髪、黄色いビキニパンツ! ジュビだ!」
ジュビは、他人の上によじ登って、高い位置に取り付こうとしている。でも、次の手がかりが見つけられない。
ドンッ! ダダンッ!
地面に転がった。
落ちた拍子にジュビの顔が鷹大に向いた。すぐに立ち上がる。
「鷹大! 見ているのさ! 鷹大のために宝を裸にしてやるのさ! 冷たくされたけど、ボクは鷹大が大好きだったのさ! 見ていてくれ、なのさ!」
ジュビは笑ってた。
ススで黒い顔なのに、目と口の動きから、鷹大には飛びっ切りの笑顔に見えた。
そして、初めて会った時に見せた、長い髪をかき上げるポーズを決めてみせる。
半分くらいススけた金髪が、モアッと優雅に跳ね上がった。
「こんな、とんでもない時に、……男に大好きだなんて言われた? 俺は、俺は……」
嫌なはずなのに、鷹大は涙が止まらない。
ジュビは軽く手を振ると、再び近くの人に手をかけてよじ登った!
「やめろ! 登るな!」
鷹大の声は届かない。
ジュビは球体に頭をつけた! その瞬間に青い紐を引く!
バァンッ! ベチャッ ベチョッ ベチャチャッ!
球体から白とピンクの欠片が、何個も吹き飛んだ!
哀れ! ジュビは、力の1つも絞れないままに、重力に引かれて地面へと転がった。
頭から黒煙が立ち昇っている。
赤しか残ってない! ジュビの頭には赤紐しかない。青は最後の1本だったのだ。
ジュビの体は、群がっている人たちに踏みつけらる。
ジュワーーーーーーッ
黄色いビキニパンツを残して、水のようになって消えてしまった。
「ジュビ! 死んだの? ジュビーーーーッ! う、うえっ! うえっ!」
鷹大は、情けない声で泣くしかできない。
金髪をかき上げてカッコつけるジュビ、一人で寂しいと言っていたジュビ、死んだと言った鷹大に『生きている』と元気付けたジュビ、飲み物を勧めたジュビ、ハズ目を嫌ったけど、頼れる先輩のようになだめてくれた時だってあった。
どの記憶も輝いている。
「ううっ、ジュビ……」
鷹大の顔は、もう涙でビチョビチョだ。
鷹大たち3人の
「手を放せ! 鷹大! 遅れを取ってしまうぞ!」
パイもナイも体を揺するのをやめない!
鷹大の抱えている腕の位置はずれて、もう2人とも脇である。鷹大は腕と体に挟むように引き止めていた。
「う、うぇ! パ、パイ! ナイ! ジュビは死んだよ! 放したら、君たちも死んじゃうよ! ううっ!」
鷹大には、パイとナイを放すなんて、とてもできない。力を強めるばかりだ!
パイもナイも体を揺すったり、くねらせたりして
「だから! 宝を手に入れないやつは、みんな死ぬのだ! ここで見ていても、オリは死ぬ!」
「鷹大! 近くに行けば宝を手にするチャンスはございますわ! でも、ここにいる限り、生き延びるチャンスは1つもございませんわ!」
「だって、死ぬんだよ! この手を放したらパイもナイも頭が黒くなって、そして水になって死んじゃうんだよ!」
「分からないのか! 鷹大! ここにいても死ぬのだ! わずかでも希望に向かって努力するのが人間だ! それがこのオリだ! パイだ!」
パイが懸命に、最大級の説得をぶつけてくる。
「私もですわ! 生き延びる希望が目の前ですわ! 今が全力を尽くす時なのですわ! 早く手を放すのですわ!」
ナイも声を振り絞る。
宝を求めて火山・川・平地・横穴と、ここまで苦労してやって来たのだ。鷹大にも気持ちは痛いほど分かる。でも……。
「死ぬって分かっていて、手を放せるわけないじゃないか!」
「わーーーー! もう我慢できんぞ!」
ガブッ
パイが鷹大の腕に噛みついた!
「痛てっ!」
抱えていた鷹大の腕は、ずれにずれて、パイの顔近くだったのだ。
「私もですわ! 鷹大! 放すのですわ!」
ガブッ!
ナイも噛みつき、歯が腕の肉に食い込んでいく!
【申し訳ありません。体調を崩してしまいました。いい場面なのですが、次回の公開が1週間ほど遅れそうです。だとしても、できるだけ早く公開できますよう、がんばります!】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます