第十章 宝
第35話 第十章 宝 (1/4)
【とうとう、『宝』が登場する第十章に突入です! セルフレイティングの残酷にチェックを入れた1番の根拠となっている章です。気を付けてお読みください】
【地獄(?)に落ちた
第十章 宝
ユサユサ!
「鷹大! 起きるのですわ!」
「起きるのだ! 鷹大!」
どこか遠い場所から、ナイとパイの声が聞こえている気がした。
ユサユサ!
鷹大は、体が揺すられてるのだと気付いてくる。
目が覚めてきた。
鷹大は目を
「おはよう、ナイ、パイ。俺はいつの間にやら、眠っていたんだね」
鷹大が2人の顔を見ると、見つめているその瞳は、いつになく真剣である。
「早くするのだ! 鷹大! 宝が来た! 宝の匂いだ! みんな行ってしまったぞ!」
「私たちが最後になってしまいましたわ!」
パイからもナイからも、不安が
「えっ! 最後?」
鷹大は慌てて立ち上がって辺りを見渡した。
ガラ~~ン
パイとナイだけしかいない。他には気配の欠片もない!
「学校の3クラス分はいたのに! 1人もいないぞ! 宝って、ここに来るんじゃないの?」
鷹大は勘違いをしている。近くと言っていたが、ここではない。
「ずっと奥から匂いますわ!」
ナイは洞窟の果てを指差している。
鷹大は、勘違いに気付き状況を理解した。
「宝は、もっと奥か、それで全員が行っちゃったんだね」
「急ぐのですわ!」
ナイがすがってくる。
鷹大は2人を助けたい。
「ごめん、俺のせいで遅くなったね。2人とも抱えて走るよ」
「そうしてほしいのだ! 鷹大の足が頼りなのだ! 他のやつらに追い着いて、追い抜くのだ! 抜いて抜いて1番になるのだ!」
パイが鷹大のTシャツをつかんでクイクイと引っ張る。
「ああ、陸上部で鍛えた俺の全力を、他のみんなに教えてあげるよ!」
鷹大は柔軟体操を始める。
「早くするのだ~~っ!」
パイは焼きつくほどに焦ってくる。
「寝起きなんだ。もうちょっとね」
鷹大は全力を出したい。準備運動は必須だった。
しかし、鷹大を待つ2人の顔を見ていると、身につまされてくる。
早々に終わらせた。
「さあ、2人とも、こっちにおいで!」
鷹大は両脇に、パイとナイのお腹を抱えて持ち上げる。
溶岩から逃げた時と同じ体勢だ。
相変わらず、2人とも軽い。
腕を振れない縛りがあるものの、全力を出したい!
ブルッと身震い。
みなぎる魂! 溢れる筋力!
「行くよ!」
ドグァァァァン! ダダッ! ダッダッダッ! ダッダッダッダッダッダッ!
地面をひっくり返すほどにダッシュ ダッシュ ダッーーーーシュッ!
鷹大超特急が発進した!
ビュィィィィィィン! ズンズンズン ズンズンズン
電線の中を電気が走るがごとく、白ピンク色の洞窟を、駆けて、駆けて、駆け抜ける。
それでも、鷹大の走行は安定している。揺れるのはパイの胸くらいである。
2人ともグリーン車に寝そべるくらいに快適だった。
相変わらず洞窟内は普通に明るい。平地の時と同じくらいによく見えた。
走るにつれて、洞窟の幅も高さも、どんどんと大きくなる。
そこが洞窟というのは変わらないが、体育館なんて目じゃないってくらいに広くなった。
さらに数分もすると、プロ野球のドーム球場が、いくつも連なったくらいの空間が、ドカンと目の前に口を開けた。
思っていた以上に広い!
加えて、これまでと同じように、遠くが白くモヤってよく見えない。
奥という情報だけでは、方角が心もとなくなってくる。
鷹大の走るスピードが
羅針盤が欲しい!
「広くなって、迷いそうだよ。宝の方角を教えてよ!」
「あっちだ!」
「あっちですわ!」
2人ともピッチリと同じ方角を指差した。
「よーし!」
ズビュゥゥゥゥゥゥン!
鷹大は再加速!
時間を巻き取ってしまうくらいに、加速! 加速! 走る! 走る!
足が遅い女の子たちが1人2人と、視界に入ってくる。
最後尾に追いついたのだ。
さっそうと追い抜いて、鷹大の速さを教えてやった。
次々に現れてくる人、人、人。
そいつらを切り裂く風に混ぜ込んで、視界の圏外へと
鷹大は、突き進んで、突き進んで、突き進んだ!
あっという間に、1クラス分の人数を抜き去った。
次に見えるノロマ集団も、ごぼう抜きの勢いである。
「マラカが走っていますわ!」
ナイが、ノロマ集団の中に見つけたようだ。
「鷹大! アタシも便乗させて!」
抜かれたマラカが、後ろから声の
パイは指を1本、前方へ
「急ぐのだ! 鷹大! マラカなんぞ、相手にしている余裕はない!」
ピシッ ピシッ!
人差し指で行き先を何度も差す、差す。
しかし、鷹大の足は止まってしまう。
「急ぐのですわ! 鷹大を置いて行った女ですのよ!」
ナイも
でも、鷹大はマラカを放っておけない。
「昨日一緒だったじゃないか、助けたいよ。ほら、マラカ! 俺の背中に乗っていいよ!」
パイとナイを抱えているので、手振りもできない。首をクイッと曲げて合図した。
「ありがたいわ!」
タタッ ピョ~~~~ン。
鮮やかな赤いビキニが、鷹大の背中に飛び乗った。
でも背中に、しがみついたりなんてしない。
鷹大の胴体を両足で挟んで、足首でロック。
左手を鷹大の肩に乗せて体の位置を固定。
マラカは鷹大より体が小さいのでピッタリとくる。
それから、右腕を後ろからグルッと大きく1つ回して、ビシッと進む方角を指差した。
「さあ! あっちへ、走って!」
昨日と同じく、マラカは遠慮なんて知らない。
でも、鷹大はマラカの態度なんて関係ない。
「落ちないでよ!」
快足、猛ダッシュ!
ギュッギュッギュッ! ギュィィィィィィン!
全力加速!
それは、マラカの予想を超えていた。
背中が、後ろへ大きく反ってしまった。
鷹大の肩につかまったてい左手は
マラカは挟んだ足で、自身の体を支えるのが、精一杯。なんとか加速をしのいだのだった。
鷹大の肩をつかまり直したマラカを、抱えられているパイが、不愉快な眼差しで見上げる。
「マラカはズルイのだ! 先に行ってしまったくせに、鷹大の背中に乗るなんて!」
マラカには悪びれた風はない。
「ごめんね、いても立ってもいられなかったのよ。この匂いって、心が踊っちゃうでしょ! 行きたくて行きたくて、たまんなくなっちゃったの! 待つなんて、とっても無理だったわ!」
ナイだって面白くない。
「鷹大を置いて1人で行ってしまったのですわ。待てなかったのですから鷹大を頼らずに、最後まで1人でやり遂げるべきですわ! マラカには誇りはございませんの?」
マラカは何の
「ないわ! 手を借りて有利になるなら、それがいいに決まっているわよ! アタシは誇りとか、恥とかは持ち合わせていないの。今の目的は自分の外にあるわ。目的を遂げたいのなら、自分を目的に合わせるだけよ!」
目的に焦点を合わせたシンプルな考えである。
「それでも、ズルイですわ!」
シンプルな理論ほど反論が難しい。ナイは、それ以上何も言えなかった。
一方、鷹大はマラカの便乗が嬉しかった。
「俺はちっとも構わないよ。昨日、みんなに勧められて、あの飲み物を飲んだから、元気いっぱいなんだ、ありがとう! それに、みんなの体は軽いから、1人くらい増えたって、俺の速さは変わらないよっ!」
女の子たちに走りで頼られる。陸上部の男子には、それだけで極上の喜びなのだ。
鷹大は、どんどんとライバルたちを抜いていく。
パイはもう、マラカのことなど忘れて、走る振動で胸を前後左右に揺らしながら、現れては消えていくライバルたちを、優越感に浸りながら眺めていた。
「見えたわ!」
マラカの声が
思わず前傾姿勢となり、鷹大の頭にマラカの上体が乗っかった。
鷹大はバランスを少し崩したが、ペースは乱さない。高速を維持する。
そして、バランスを立て直した鷹大の目に、それは写った。
表面がモコモコした肉団子のような球体である。
肉団子と言っても調理前であり、白とピンクのマダラ模様をしている。まだまだ遠いようで、ピンポン球くらいの大きさにしか見えない。
そんな物体が、薄れそうなモヤの向こうに
鷹大のイメージとは違う。
「あれが、宝なの?」
宝というほどには、
「あれだ! 間違いない! 強烈に匂うぞ!」
パイは待ちきれないのか、両手を宝へ向けていっぱいに伸ばし、何度もつかむ仕草をする。
「あれが宝か……」
とうとう、鷹大は宝を
さらに2分ほど走ると、球体の周りに人間がいると気付いた。
人間から、鷹大は球体の大きさを推測できた。
「大きいなあ。直径5メートルはありそうだ」
クラスで言えば半分くらいの人数が、その球体に群がって取り付こうとしているように見える。他人に乗って高い位置に取り付こうとする人までいる。
鷹大は、もう1つ気付いた。
「
宝は球体と言っても、表面がモコモコしていて凹凸がある。
ガタンッ ガクンッ
と、不規則な速さで、ゆっくりと転がっていた。
「転がっているかなんて、どうでも、よろしいですわ! 早く近づくのですわ!」
ナイは足を振って急かした。
ダッ ダッ ダッ!
さらに近づくと、群がっている人たちの様子がよく見えてきた。
煙? が見える。
筋のような黒い煙がいくつか、人間の間から立ち昇っている。
「ねー! 群がっている人たちの間から黒い煙が出ているよ。どういうことだ?」
誰も知らないのか、答えがない。
そして、音が聞こえてきた。
ボンッ! ボボンッ!
「ば、爆発? ひ、ひ、人が爆発してるの?」
信じられない光景に、鷹大のスピードがガクンと落ちた!
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