第34話 第九章 休息(5/5)

【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイと貧乳のナイと一緒に、手に入れれば生き延びられるという宝を探すことになる。火山、川、平地を経て、ミミズがつまった横穴を抜けて、洞窟までやってきた。パイとナイはミミズによって能力と知識を思い出し、髪は金色となり、赤と青の紐が頭から生えた。ジュビとマラカが加わって歓談していると、パイが大鷲の羽を見せびらかす。それだけで鷹大はハズ目になるのだった】



 マラカが気付いた!

「あっ、鷹大がハズ目になってるわ。白い羽を見てるだけなのに……」

 身をのけぞらせた。


 パイの毛を思い出したのだ。

 たったそれだけで、鷹大はハズ目になってしまった。


 このままでは毛の話題に及んでしまう。

 ナイは避けたかった。


「きっと、こうすれば、ハズ目は治りますわ!」


 ドンッ!

 ナイがジュビの体を、鷹大の前に引き倒した。


 ジャブン

 ジュビが持っていたコップの中身が、しぶきとなって飛び散る。


「こ、こぼれるのさ! ナイ! いきなり、ひどいのさ!」

 ジュビには突然の迷惑。


 ナイが鷹大を指差す。

「ほら、ハズ目が治りましたわ!」

「あっ! マジでが治ってるわ!」

 マラカがびっくり!


 パイには心当たり。

「ナイ、これが、薬だな!」

「ハズ目は男に弱いのですわ! 男を寄せるとハズ目は治るのですわ!」

 ナイは知見を披露した。


 ハズ目になったくせに、鷹大も迷惑顔。

「ひどいよナイ、薬なんて……」

「ハズ目は許せませんわ!」

 ナイに睨まれたので、鷹大は肩をすぼめた。


 パイはまだ羽を持っていた。

「鷹大はハズ目になるが、この羽はきれいなだけではないのだ。持っていると怖い動物に襲われないのだ」


 またまた、マラカがびっくり。

「どういうこと? みんな猛獣からは走って逃げたのよ!」


 自分から話を振ったパイだったが、うまく答えられないので、鷹大の後ろへ回って背中をつついた。

「俺も詳しくは分らないけど、羽を持つことで白い猛獣の仲間と、勘違いしたんじゃないかと思うんだ。きっと、白い猛獣同士は闘わないんだよ」


「あんなに大勢殺されたのに、羽1本で助かるなんて……」

 マラカはやり切れない様子だった。


 鷹大は改めて思う。

「にしても俺たちが、羽について人に話す場面が来るとは、思わなかったよ」


 パイは満足そう。

「オリには先見せんけんめいがあるのだ! ナイは人に言う機会などは、ないと言っていたぞ」

「そうですけど、ここで休息があると、思い出していなかったからですわ」

「でもよかったのだ! 羽がいい証拠になったのだ」


「よかったね、パイ」

 鷹大がパイの頭を撫でてやる。


 いい子いい子


 幸せそうなパイ。


 見ていたマラカも撫でて欲しくなった。鷹大にねだる。

 パイは反対したが、鷹大は平等がいいと思った。と、言うより、好みの体型であるマラカの頭を撫でたかった。


 いい子いい子


 マラカもスベスベして何の引っ掛かりもない。あの石鹸水を撫でる感覚だ。


「フニャ~ン」

 スリスリ


 マラカは飼い猫のように、自身の体を鷹大にこすり付ける。

 体が引き締まっているので、パイやナイほど柔らかくない。でも、好みの肉体であるし、鷹大にはマラカの体温が心地よかった。


 パイが抱きついてくる。

「オリも、オリも!」

 鷹大は拒まない、撫でてやる。


 いい子いい子


「私もですわ」

 ナイも擦り寄る。


 いい子いい子


 ツルツルのスベスベだ。

 撫でる鷹大も、手に感じる石鹸感覚が、たまらなく心地よかった。


 パイはもう、縁側の陽だまりに寝そべる猫のよう。

「いい気分なのだ。ずっとこのままだと、目的を忘れてしまいそうだぞ」


 ナイも似たようなものである。

「パイの言う通りですわ。幸せ過ぎて、これで一生が終わっても、いいって気分になりますわ!」

 気が抜けてしまっている。


「それはいいのだ~! ライバルが1人減ったのだ~! オリが1番なのだ~!」

「そんな気になっただけですわ~! 私の目的は1番に宝を手に入れいることですわ~! それは変わりありませんわ~!」


「残念なのだ~~」

 パイもナイも、撫でられているためか、喧嘩にならない。


「アタシだって、1番を狙っているわ! 生き残るのはアタシなのよ!」

 マジなマラカの声に、パイもナイも目が覚める。

「オリが1番なのだ!」

「私ですわ!」


「ボクも1番を狙っているのさ! 男は足が速いのさ! 女より有利なのさ!」

 ジュビも入れて、みんなで1番争いを始めた。



 マラカは首をかしげる。

「ねー、鷹大は1番って言わないわね。宝が欲しくないの?」

 1人、鷹大だけが1番争いに加わってなかった。


「俺はパイとナイを助けたいんだ」

 始めから思っていたことを、率直に答えた。


「宝を手に入れないと死ぬのよ。死んでいいの? みんな生きるために、1番になりたがっているのよ!」

 パイもナイも、似たようなことを言っていた。


 鷹大は、体の大きさや、服を着ているところや、髪の色に変化が無い様子をマラカに言った。


 鷹大は違う人間とマラカも理解した。

「分かったわ。鷹大は、この2人を助けることを、生きる目的にしたってことね」


 鷹大は『生きる』というところが、違うと思った。

「そうなんだけど、俺は生きているように見えて、もう死んでるんだよ。死んでこの地獄に来たんだ。もう、生きてないから、生きる目的もいらないんだよ」


 マラカは気に入らない。

「鷹大って馬鹿ね! もう、死んでるですって! 今だって、話してるじゃない! 死んでるとかアタシに反論したじゃない! いい子いい子もしてくれたし、飲み物も飲んだし、ハズ目だってしたわ! 立派に生きてるわよ!



 鷹大は死んでなんか、ない!



 生きている以上、目的を持って生きる! それが人間だわ!」

 矢継ぎ早に繰り出される言葉の弾丸。


「だから、俺は終わってんだって! 死んでしまったんだよ!」


「もう、死んでいるなんて、馬鹿馬鹿しくてたまらないわよ! 鷹大は生きたくて、生きたくて、仕方がないのよ! 生きたいから、火山から逃げたんでしょ? 生きたいから、鳥の羽をむしったんじゃないの?」


 地面を打ち付ける火山弾、人間を融かし流れくる熱い溶岩、ナイをつかんで持ち上げる大鷲。


 そうだった!

 俺は、死にたくなくて火山弾から逃げた! 俺は、3人で生きるために、痛い思いをしても大鷲をやっつけたんだ!


 死んでいたとしても、心は、まだ生きてるんだ!


 …………


 スッと、その心があるべき場所に納まった気がした。


「……ああ、俺って生きたかったんだな」


「そうよ! 鷹大だって、生きたいのよ! だから、生きて、生きて、生き抜く! 憶えておきなさい!」

 マラカは女教師に顔になっている。


「うん、分かった。俺は生きたい、だから、生きて、生きて、生き抜くよ」

「よし! それでいいわ!」

 マラカは一息つく。

 濁流を渡りきったほどの達成感に浸っていた。



 ナイが会話についていけなかった者たちの代表者となった。

「私は驚きましたわ! マラカは違う人間の鷹大でも、容赦しませんのね!」


「当然よ! アタシは差別なんてしないわ!」

 爽やかに言ってのける。


「ありがとう! そういうの、俺も好きだよ」

 鷹大は体当たりしてくれたマラカが嬉しかった。


「なら、いい子いい子して!」

 マラカは気に入ったようである。


「うん」

 いい子いい子


「幸せ~~!」

 鋭いやいばが、とろけたチーズになった。


 撫でる鷹大だってとろけてくる。


「鷹大、オリもだ!」

「私もですわ!」

 パイとナイが飛んできた!


「はいはい、ほら」


 いい子いい子 いい子いい子


 3人とも同じように撫でてやる。撫でる側も撫でられる側も心地いい、幸せ空間が広がっていく。


「男は仲間はずれさ」

 1人、寂しそうなジュビ。


「俺は男は撫でないよ! 断じて撫でないよ!」

 男なんて、撫でたくないに決まっている。


「別にいいのさ! 人の声がする、ボクはその近くにいられれば、それでいいのさ」

 ジュビは強がった。




 その後、しばらく歓談したが、鷹大は気付かない内に眠ってしまった。




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