第33話 第九章 休息(4/5)

【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイと貧乳のナイと一緒に、手に入れれば生き延びられるという宝を探すことになる。火山、川、平地を経て大ミミズがつまった横穴を通って、洞窟に出てきた。そこでパイとナイに身についた能力や知識を聞きながら休息していると、ジュビ♂に続いてマラカ♀がやって来た。そのマラカの体を鷹大が眺めるのだった】



 パイもナイも柔らかい表情。

 鷹大が離れるようにお願いすると、いい子いい子に気分を良くしたのか、安心して離れてくれた。


「2人とも、ありがとう」

 そう言うと、鷹大はクルッと背中を向けて、マラカに近づいた。


 パイが再び声を上げそうになったが、鷹大は気付くことなく、ビキニでしか隠していないマラカの体を、上から下まで、じっくりと真剣に眺めたのである。

 陸上部員としては、捨てては置けなかった。


「この体と、この筋肉で、平均の速さってことはないよ。コツをつかめば、きっと、誰よりも速く走れると思うよ」

 鷹大は、速く走ってもらいたい。


「ここまで来れば、鍛えて足を速くするなんて、考えようもないわ。宝が来れば、手に入れるか、入れられないか、生きるか、死ぬかなのよ!」


 鷹大は、ここが地獄ということを忘れていた。

 こんないい筋肉を失うかも知れないと嘆くしかできず、それ以上、何も言えなかった。


 黙っていたジュビがマラカに聞く。

「でもさー、敵同士の所に、どうして、マラカは来たのさ?」

 自分のことを棚に上げて、飄々ひょうひょうと聞いてきた。そして、カッコつけのポーズをマラカにも見せる!


 そんなポーズは、マラカも無視だった。

「服を着た大きな男がいたから、近くで見たくなったのよ」


 鷹大に光!

「ありがとう! マラカは俺に会いに来てくれたんだね」

 嬉しさのあまり、マラカの手を取った。


 いい筋肉の同類から、好みの女の子へと、鷹大の意識が変化していく。


「ハズ目だ! 鷹大がハズ目になったぞ!」

 パイが体をのけぞらせる。ナイも距離を取る。


 マラカもパッと鷹大の手を放し、両手をげながら数歩後退した。


「面妖な目になったわね! パイとナイは、こんな目になる男と一緒にいて危険を感じないの? アタシだったら身が引けて、逃げ出してしまうわ!」

 マラカは遠慮を知らない。


 ナイは、ここぞとばかりに余裕を見せる。

「私たちは、その目をハズ目と呼んでいますわ。でも、目だけですわ! それ以上変なことはしませんし、そのうちに治りますわ。私も慣れませんが、今まで何とか付き合って参りましたのよ」

 ナイもマラカに対抗心を持っていた。付き合いの長さで優位に立ちたいようだ。


 鷹大は悲しくなって、ハズ目どころじゃない。

「マラカも俺を危険とか言うの?」


「言うも何も、事実よ。筋肉を褒めてもらったのは、正直に嬉しかったけど、そのハズ目のために鷹大のいい印象は、何もかもなくなってしまったわ」

 やっぱり、マラカは遠慮がない。


 ジュビまで便乗!

「ボクは男だけど、ハズ目は気持ち悪いのさ。あんな目で見られたくないのさ」


 これには鷹大の怒りが湧き上がる!


「失敬な! 男には言われたくないよ!

 男に対して、あの目は絶対にしない! できるわけがない!

 特に水着の男には言われたくないな!

 それどころか、俺は男の水着を見たくないんだ!

 俺はな! 俺はな!

 男の水着が大嫌いなんだよ! 男の裸を見るのが、1番の不快なんだ!」


 鷹大は、怒れる熱で身が溶けてしまいそうだ。


「まあまあ、興奮しないのさ」

 ジュビは部活の頼れる先輩のように、鷹大をなだめる。


 しかし、簡単には鷹大の火は消えない。

「俺は男の裸も水着姿も嫌いなんだ! 大嫌いなんだ! 見たくもないんだ!」


「さあさあ、落ち着くのさ。鷹大は『飲み』が足りないのさ」

 ジュビは穏やかな顔で立ち上がり、鷹大の肩を優しくポンと叩いて、地べたに置かれたコップを指差した。


 おいしくないと、素直に鷹大が言うと、ジュビは長髪を振り乱すほどに驚いた。


「えーーーーっ! おいしくないのさ? それでも、断然、飲むべきなのさ!」

 飲み物を勧めた。


 パイもナイもマラカも、一緒になって勧める。

 これを飲むと、力が湧き、長生きできそうだと、4人が口をそろえて言った。飲んで、宝に備えるんだそうだ。


 鷹大はスポーツドリンクや、サプリメント入り飲料のように思えてきて、地面に座ってコップに残っていた分をグッと全部飲んだ。


いであげるのさ」

 ジュビが横に立ち、垂れ下がっている大ミミズをまたいで正面に持つと、その先端から液体を注ぎ始めた。


 ジョボッ ジョボボ!


 まるで、用を足すポーズ!


 ダンッ!


 鷹大の肩が、ジュビのひざを弾いた!

「とととっ! どうしたのさ!」

「男に注いでもらいたくないな! 特に長い物の先端から出る飲み物を男からだなんて、飲む気が失せるよ!」


 他人の検尿なんて飲みたくない!


「分かったのさ。ボクは遠慮するさ」

 すごすごとして、丸まって座った。


「じゃあ、それ全部飲んで!」

 マラカである。

「アタシが注いであげるわ。体を褒めてくれたお礼よ」

 ハズ目が消えれば平気なようだ。そろえた両膝を地面につき、大ミミズを手にした。


 でも、手つきが違う!


 先端を斜め上に向け、両手で持っている。あたかも徳利とっくりを持つ手つきだ。

 時代劇に見る色っぽい和服美人のお姉さんを連想してしまう。


 鷹大がコップを持って、マラカの隣に座る。

 マラカは、鷹大の肩に密着するくらいに座り直した。時代劇なら、鷹大の顔がポッと赤くなる場面である。

 鷹大がジュビが入れた分を、グイッと飲んでコップを空けた。


「そうそう、そう来なくちゃね」

 キュ~ チョロッ サラサラ……。


 徳利であるかのように、マラカは大ミミズを傾けながら握ってそそいでいく。

 時代劇の居酒屋っぽい大人空間に包まれた。


 パイとナイは我慢ならない。

「次はオリだ! オリもいでやるぞ!」

「その次は私ですわ! 私が1番鷹大に助けられたのですわ。そのお礼ですわ」

 2人が大人空間を、子供っぽく消してしまった。


 マラカには、違和感。

「助けられたって、鷹大が助けてくれたの?」

「そうですわ」

 ナイが顔いっぱいに、嬉しさをたたえて見せた。


 マラカは蹴落とす相手を助けることはないと思っていたらしい。

 パイが、鷹大は違う人間であるし、ライバルではないと言い、胸を張って仲間であると宣言した。


「じゃあ、どうして3人は仲間になったの?」


 パイとナイが、かわるがわる、競うように火山からここまでのことを教えた。


 マラカは、仲良くなった経緯は分かったようだったのだが、火山の噴火も人柵じんさくも知らなかった。

 早い段階には、火山は噴火しておらず、人柵も無かったようだ。もし、鷹大が落ちてこなければ、パイもナイもスムーズに川へ入れたかも知れなかった。


 そして、1番の話題は、やっぱり白い羽だった。


 マラカも白い大鷲については知っており、何人も空から落とされたらしい。


 パイが立ち上がった。

「その羽が、これだ!」

 パイは自慢げに羽をビキニのボトムから出して、マラカとジュビに見せた。


 ナイは『その羽は汚い』と言いたかったが、毛の話題になりそうなので自粛した。


「ホレ見ろ、この輝きを! 美しい白だ! 鷹大がやっつけた鳥の羽だぞ! むしった羽の1本だ!」

 パイは自慢げに羽を見せびらかす。


 マラカが気付いた!

「あっ、鷹大がハズ目になってるわ。白い羽を見てるだけなのに……」

 身をのけぞらせた。


 パイの毛を思い出したのだ。

 たったそれだけで、鷹大はハズ目になってしまった。





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