第32話 第九章 休息(3/5)
【地獄(?)に落ちた
「ねー、あんたら! 何で集まってんのさ?」
男の声! チャライ声だ。
鷹大が振り向くと、男が立っていた。
黄色い派手なビキニパンツを履いた男だ。
ウェーブのかかった金色の長髪、体格は細めって感じだが、ガリガリではなく筋肉質に見える。
海水浴場にやって来たロックシンガーのようだ。
地獄で話しかけられるなんて、男女ともに初めてのことだった。
パイとナイには、鷹大から話しかけたのである。
パイが立ち上がり警戒する。
「誰だ? お前は?」
ビキニパンツの男には、そんなパイに臆するところはない。隣のクラスのやつと話すくらいの顔をしている。
「人が集まっているなんて、珍しいなって、聞いてみたわけなのさ」
パイは不満。
「だから、お前は誰だと聞いている!」
厳しい口調だ。
「ボクか? ボクの名前はジュビ! どう? カッコいいのさ!」
ジュビは、ポーズをつけて長い髪をかき上げる。
でも、パイには何の効果もない。
「カッコなんて、どうでもいい! 何の用だ!」
それどころか、敵対心がむき出しだ。
それでも、ジュビは臆さない。
「ねー、ねー、あんたらも名前を教えてほしいのさ」
「オリはパイ! こいつはナイ! その大男が鷹大だ。それで何の用だと聞いている!」
パイの態度は一貫していた。
「用なんてないさ。あんまり静かなんで、声のする方へ来たのさ」
ジュビは再びカッコつけたポーズから、
ニカッ キラリッ
微笑んで八重歯まで光らせて見せた。
とにかく、パイには効かない。
「あっちへ行け! オリたちには、用はない!」
シッシッ と、手を振った。
ガクッ!
ジュビの笑みが、顔から外れて落ちた!
でも、めげない。
「連れないのさ! 仲良して欲しいのさ!」
懇願する。
そんなジュビに、パイは怒りが湧き上がる。
「バッカもん!! オリたちはライバルだ! 競う相手だぞ! 仲良くなんて、できるはずがない!」
「だって、あんたらは仲良さそうなのさ! だからボクも混ぜてほしいのさ」
捨て犬みたいな顔をする。
「オリたちは火山から一緒なのだ! そうでないやつと簡単に仲良くなどしない! オリはお前など蹴落として宝を手に入れるのだ!」
ドンッ! プルルンッ!
足を1つ踏み鳴らす。プルルンッと揺れた胸も怒っていた。
「じゃあ、さあ、宝が来るまででいいからさ、一緒にいさせてほしいのさ。ボクはずっと1人で寂しかったのさ」
もう、すがるようだ。
ナイが寛容さを見せる。
「かわいそうだから、よろしいんじゃなくて。ただし、宝が現れましたら容赦いたしませんわ!」
「いいさ、いいさ、それでいいさ。んで、そこの大きな人はどんな人なのさ?」
ジュビはすっかり立ち直っている。
加えて、厚かましく聞いてきた。
「ナイは甘いのだ。そこの鷹大は、たぶん違う世界からきた人間だ! オリにぶつかったのだ」
パイは扱いに困った顔をしたが、根が素直なのか答えてやった。
鷹大に注目が集まる。言わざるを得ない。
「俺は死んだ人間だよ。死んでここに来たんだ」
走馬灯と思い出して、伏せ目がちである。
今度は、ジュビの方が捨てられた子犬を見るような目を向ける。
「かわいそうに、あんたは死んだのか。でも、大丈夫さ。ここではまだ生きているのさ!」
元気付けてきた。
言われてみれば、そうである。
岩壁から落ちたのだが、パイとナイと会って、色々な地獄を経てここまで来たのだ。
ここでは、生きているのと変わらないかな? と考え直した。
鷹大は、なんかよく分からないが、気分が上向いた。
「まあ、新しい経験もしたし、ここでは生きてると言ってもいいかな? ……。あっ、君も座ったら」
実のところ、鷹大は男のジュビなんて、どうでもよかった。
だが、地獄へ来て初めて、『生きている』って言われたのだ。自身も生きていると、気付かされたのだ。
何か1つ報われた気がした。だから、どうでもいい男でも、座に加わるのを許したのかも知れなかった。
「じゃあ、遠慮なく座るさ」
ヨッコイショ(ーイチ)
ジュビが鷹大の隣に座った。
「ねー! 君たち! どうして集まってんの? ここで何かあるの?」
女の子の声だ!
ビュンと、鷹大が振り向く。
今度は、女の子が立っていた。
鮮やかな赤いビキニを着た女の子。
体は引き締まっており、ショートカットの髪と合わせてスポーツ選手のようだ。
でも顔は、
ただ、残念なことに、ナイほど顕著ではないが、胸は貧乳に分類されも仕方がなかった。
でも、鷹大は、そんなことは気にしない。
早速立ち上がる!
「君は、いい体だね! 運動してたの?」
鷹大は引き締まった体に、心がときめいていた。
「そんなのは、後でいいから! ねー! 大きい君、名前は?」
その通り、まずは名前である。
「あっ、俺は
赤ビキニの子はキュッと安心したように笑う。
「ありがとう、アタシの名前はマラカ、鷹大の言う運動は、よく分かんないかな?」
それでも、鷹大は運動に突き進む。
「こんなにいい筋肉なんだから、足が速いんでしょ?」
走馬灯に出てきた初恋の子、愛美ちゃんも足が速かった。足の速さは鷹大にとっては1つのステータスなのだ。
マラカはすまなそうな顔。
「みんなと変わらないかな」
「? そうなの?」
ちょっと、がっかりしたが、マラカは親しみやすい同級生みたいで、鷹大は話していて心地よさを感じていた。
パイは黙っていられない!
「おい! お前、マラカと言うやつ! 馴れ馴れしいぞ!」
鷹大の腕をつかんで引き寄せ、マラカとの距離を取らせた。
マラカだってムッとする。
「パイだっけ、君は鷹大の何よ?」
「オリは鷹大の仲間だ! 火山からずっと一緒だったんだぞ! お前なんか後から来て鷹大と仲良くするな!」
子供っぽい嫉妬心が丸出しだ!
あまりの直球に、マラカも率直に聞く。
「妬いてんの?」
「そ、そうだ! オリの仲間と馴れ馴れしくしてはいけないのだ!」
パイは臆面もなく鷹大に抱きついた。
「パイだけズルイですわ! 私もですわ!」
ナイも立ち上がって抱きついてきた。
マラカは
まずい! せっかく会いに来てくれたのに、嫌われてしまう。鷹大はパイとナイを落ち着かせようとする。
「2人とも安心していいよ」
いい子いい子 いい子いい子
鷹大は抱きついている2人の頭を撫でやる。
パイは気持ち良さそうな笑顔、ナイも片目をつぶって思いを受け止めてる。
金髪になっても撫でるたびに、髪がツルンツルンとして心地いい。
パイもナイも柔らかい表情。
鷹大が離れるようにお願いすると、いい子いい子に気分を良くしたのか、安心して離れてくれた。
「2人とも、ありがとう」
そう言うと、鷹大はクルッと背中を向けて、マラカに近づいた。
パイが再び声を上げそうになったが、鷹大は気付くことなく、ビキニでしか隠していないマラカの体を、上から下まで、じっくりと真剣に眺めたのである。
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