第32話 第九章 休息(3/5)

【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳パイと貧乳のナイと一緒に、手に入れると生き延びられるという宝を探すことになる。火山、川、平地を経て、大ミミズがつまった横穴を抜けて、洞窟に来た。そこは休息場所で、壁から生えている動かない大ミミズから飲み物を飲めた。また、パイとナイには知識と能力が備わったらしい。知識とは、ここには宝は無く、いずれやってくること、能力とは、頭から新たに生えた紐によって、宝の入れ物を壊す能力だった。そこへ男がやってくる】



「ねー、あんたら! 何で集まってんのさ?」

 男の声! チャライ声だ。


 鷹大が振り向くと、男が立っていた。


 黄色い派手なビキニパンツを履いた男だ。

 ウェーブのかかった金色の長髪、体格は細めって感じだが、ガリガリではなく筋肉質に見える。

 海水浴場にやって来たロックシンガーのようだ。


 地獄で話しかけられるなんて、男女ともに初めてのことだった。

 パイとナイには、鷹大から話しかけたのである。



 パイが立ち上がり警戒する。

「誰だ? お前は?」


 ビキニパンツの男には、そんなパイに臆するところはない。隣のクラスのやつと話すくらいの顔をしている。

「人が集まっているなんて、珍しいなって、聞いてみたわけなのさ」


 パイは不満。

「だから、お前は誰だと聞いている!」

 厳しい口調だ。


「ボクか? ボクの名前はジュビ! どう? カッコいいのさ!」

 ジュビは、ポーズをつけて長い髪をかき上げる。


 でも、パイには何の効果もない。

「カッコなんて、どうでもいい! 何の用だ!」

 それどころか、敵対心がむき出しだ。


 それでも、ジュビは臆さない。

「ねー、ねー、あんたらも名前を教えてほしいのさ」


「オリはパイ! こいつはナイ! その大男が鷹大だ。それで何の用だと聞いている!」

 パイの態度は一貫していた。


「用なんてないさ。あんまり静かなんで、声のする方へ来たのさ」

 ジュビは再びカッコつけたポーズから、


 ニカッ キラリッ


 微笑んで八重歯まで光らせて見せた。


 とにかく、パイには効かない。

「あっちへ行け! オリたちには、用はない!」

 シッシッ と、手を振った。


 ガクッ!

 ジュビの笑みが、顔から外れて落ちた!


 でも、めげない。

「連れないのさ! 仲良して欲しいのさ!」

 懇願する。


 そんなジュビに、パイは怒りが湧き上がる。

「バッカもん!! オリたちはライバルだ! 競う相手だぞ! 仲良くなんて、できるはずがない!」

 雷親父かみなりおやじが怒っているみたいだ。


「だって、あんたらは仲良さそうなのさ! だからボクも混ぜてほしいのさ」

 捨て犬みたいな顔をする。


「オリたちは火山から一緒なのだ! そうでないやつと簡単に仲良くなどしない! オリはお前など蹴落として宝を手に入れるのだ!」


 ドンッ! プルルンッ!


 足を1つ踏み鳴らす。プルルンッと揺れた胸も怒っていた。


「じゃあ、さあ、宝が来るまででいいからさ、一緒にいさせてほしいのさ。ボクはずっと1人で寂しかったのさ」

 もう、すがるようだ。


 ナイが寛容さを見せる。

「かわいそうだから、よろしいんじゃなくて。ただし、宝が現れましたら容赦いたしませんわ!」


「いいさ、いいさ、それでいいさ。んで、そこの大きな人はどんな人なのさ?」

 ジュビはすっかり立ち直っている。

 加えて、厚かましく聞いてきた。


「ナイは甘いのだ。そこの鷹大は、たぶん違う世界からきた人間だ! オリにぶつかったのだ」

 パイは扱いに困った顔をしたが、根が素直なのか答えてやった。


 鷹大に注目が集まる。言わざるを得ない。

「俺は死んだ人間だよ。死んでここに来たんだ」


 走馬灯と思い出して、伏せ目がちである。


 今度は、ジュビの方が捨てられた子犬を見るような目を向ける。

「かわいそうに、あんたは死んだのか。でも、大丈夫さ。ここではまだ生きているのさ!」

 元気付けてきた。


 言われてみれば、そうである。

 岩壁から落ちたのだが、パイとナイと会って、色々な地獄を経てここまで来たのだ。


 ここでは、生きているのと変わらないかな? と考え直した。


 鷹大は、なんかよく分からないが、気分が上向いた。

「まあ、新しい経験もしたし、ここでは生きてると言ってもいいかな? ……。あっ、君も座ったら」


 実のところ、鷹大は男のジュビなんて、どうでもよかった。


 だが、地獄へ来て初めて、『生きている』って言われたのだ。自身も生きていると、気付かされたのだ。


 何か1つ報われた気がした。だから、どうでもいい男でも、座に加わるのを許したのかも知れなかった。


「じゃあ、遠慮なく座るさ」


 ヨッコイショ(ーイチ)

 ジュビが鷹大の隣に座った。




「ねー! 君たち! どうして集まってんの? ここで何かあるの?」


 女の子の声だ!


 ビュンと、鷹大が振り向く。

 今度は、女の子が立っていた。


 鮮やかな赤いビキニを着た女の子。

 体は引き締まっており、ショートカットの髪と合わせてスポーツ選手のようだ。


 でも顔は、さわやかな若猫わかねこちゃんのようで、とってもかわいらしい。


 ただ、残念なことに、ナイほど顕著ではないが、胸は貧乳に分類されも仕方がなかった。


 でも、鷹大は、そんなことは気にしない。

 早速立ち上がる!


「君は、いい体だね! 運動してたの?」

 鷹大は引き締まった体に、心がときめいていた。


「そんなのは、後でいいから! ねー! 大きい君、名前は?」

 その通り、まずは名前である。


「あっ、俺は弥陀ヶ原みだがはら鷹大だよ。この子たちは鷹大と呼んでいるから、そう呼んでよ。そして、その子がナイで、この子がパイ、黄色の男がジュビと言うらしい」


 赤ビキニの子はキュッと安心したように笑う。

「ありがとう、アタシの名前はマラカ、鷹大の言う運動は、よく分かんないかな?」


 それでも、鷹大は運動に突き進む。

「こんなにいい筋肉なんだから、足が速いんでしょ?」


 走馬灯に出てきた初恋の子、愛美ちゃんも足が速かった。足の速さは鷹大にとっては1つのステータスなのだ。


 マラカはすまなそうな顔。

「みんなと変わらないかな」

「? そうなの?」

 ちょっと、がっかりしたが、マラカは親しみやすい同級生みたいで、鷹大は話していて心地よさを感じていた。


 パイは黙っていられない!

「おい! お前、マラカと言うやつ! 馴れ馴れしいぞ!」

 鷹大の腕をつかんで引き寄せ、マラカとの距離を取らせた。


 マラカだってムッとする。

「パイだっけ、君は鷹大の何よ?」


「オリは鷹大の仲間だ! 火山からずっと一緒だったんだぞ! お前なんか後から来て鷹大と仲良くするな!」

 子供っぽい嫉妬心が丸出しだ!


 あまりの直球に、マラカも率直に聞く。

「妬いてんの?」


「そ、そうだ! オリの仲間と馴れ馴れしくしてはいけないのだ!」

 パイは臆面もなく鷹大に抱きついた。


「パイだけズルイですわ! 私もですわ!」

 ナイも立ち上がって抱きついてきた。


 マラカはあきれた顔。


 まずい! せっかく会いに来てくれたのに、嫌われてしまう。鷹大はパイとナイを落ち着かせようとする。

「2人とも安心していいよ」


 いい子いい子 いい子いい子


 鷹大は抱きついている2人の頭を撫でやる。

 パイは気持ち良さそうな笑顔、ナイも片目をつぶって思いを受け止めてる。

 金髪になっても撫でるたびに、髪がツルンツルンとして心地いい。


 パイもナイも柔らかい表情。

 鷹大が離れるようにお願いすると、いい子いい子に気分を良くしたのか、安心して離れてくれた。


「2人とも、ありがとう」

 そう言うと、鷹大はクルッと背中を向けて、マラカに近づいた。


 パイが再び声を上げそうになったが、鷹大は気付くことなく、ビキニでしか隠していないマラカの体を、上から下まで、じっくりと真剣に眺めたのである。





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