第31話 第九章 休息(2/5)

【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイと貧乳のナイと一緒に、宝を探すことになる。火山、川、猛獣がいる平原と、大ミミズがつまった横穴を抜けて、洞窟へたどり着いた。2人はお腹が経ているらしく、洞窟の壁に垂れ下がっている大ミミズから液体を絞って飲んだのだった。(ごめんなさい。この回は文字数が多いです)】



 パイはどんどんと、コップを傾けていく。


 グイーーーーッ!

 全部飲んでしまった!


「クーーーー! うまい! 五臓六腑に染み渡るぞ!」

 大人がビールを飲むと、こんな顔をする。


 鷹大には当然こう見える。

「お酒なの?」


「違いますわ。でも、おいしいですわ」

 ナイは女性らしく、コップの底を左の手に乗せ、右手を横に添えて、上品に飲んでいる。


「うまいぞ! 鷹大も飲んでみるといい!」

「鷹大も飲むのですわ」

 パイにもナイにも勧められた。


 検尿のイメージは払拭できないが、お酒ではないし、おいしそうに飲んでいるので鷹大も興味が湧く。


「それなら、俺も1杯いただくよ」

 鷹大も同じように大ミミズからコップを作り液体を注ぐ。


 ギュッ! ジョロ ジョロ


 1杯目なので、コップの半分くらいで止めた。


 コップを持つ指が人肌くらいに暖かい。さらに、透明な液体であるが、僅かに波立っている。

 やっぱ、検尿のイメージである。気になるのはにおいだ。


 クンクン

「臭いは、……ないか」


 恐る恐る口をつけ、少量を口に含んだ。

 人肌の生暖かさ。


 2人はおいしいと言っていた。

 舌の上で入念に転がして味わってみる。


 鷹大は難しい顔。首をひねってから、ゴクンッと飲み込んだ。

「味がほとんどないよ。これがおいしいの?」


「うまいぞ!」

「おいしいですわ!」

 2人とも驚いた顔を向けている。


「うーん、少しは甘い気がするけど、トロッとして味がなく生暖かいシロップって感じだな」

 鷹大は手放しで2人に賛同できなかった。


 ナイは不思議な表情。

「こんなにおいしいですのに、分からないなんて、もったえないですわ」


 パイは少々怒ったような顔。

「そうだぞ! 鷹大は損している! こんなにうまいものが分からんとは、今までどんな人生を歩んできたのだ! 楽しいことなど一度もなかったんだろう?」

 酔っ払いになって絡んできた。


 鷹大は真面目に生前を思い出す。

「楽しいことくらいあったよ。短い人生だったけど、それなりによかったと思うよ。

 新しい歯車が人生に加わったばかりだったんだ。これから一緒に、高校生活を送るつもりだったのに……。これからって時だったのに、……。

 こんなことになると、人生をやり直したい気分になるよ……」

 ゲームならセーブポイントに戻れるのに、リアルって辛いと心で嘆いた。


 パイは人生の先輩って顔。

「しんみりするなって! 嫌なことは、飲んで、パーッと忘れるんだ!」

 大きく両手を広げている。


 先輩なんてとんでもない、やっぱ、酔っ払ったおじさんだ!

 でも、そこが鷹大の救いになった。気分を変えて行こうと思った。


「さあ、鷹大も飲むのだ! こいつは、まだまだたくさん出るぞ!」

 パイは手酌で、どんどんといく!


 大人なら、一緒になってお酒を飲む流れだろうけど、鷹大はお酒を飲んだことがないし、これはお酒でもない。それに、ほとんど味を感じない。

 とても欲しいとは思えなかった。


「俺はもういいよ」

「そうか? 飲んだ方がいいぞ! 力も出そうだ! 飲まないなんて、もったいないぞ!」

 パイは3杯目もグイグイと一気に飲み干す。


「今はお腹が減ってないから、後にするよ。この液体、いや飲み物はまだ出るの?」

 飲みたくなるかも知れないので聞いてみた。


「ここにいるやつらは、みんな飲んでいるぞ! それも飲み放題だ! もっと人数が増えるかも知れない! それでも無くならないほどの量があるのだ!」

 嬉しそうだ。


「そうですわ! たくさん飲んで、生き長らえて、宝を待つのですわ」

 ナイはズズズと、すすりながら飲んだ。


 宝!


 鷹大は思い出した。

「そうだよ! 宝だ! 飲み物に気を取られて忘れてたよ! 宝に関して身についた能力とか、知識とかを教えてよ。思い出したとか言ってたけど、どういうことなの?」


 2人とも、これまでと違い、宝を探しに1番、1番と言わなくなったし、のんびりした調子である。鷹大には不思議だった。


 落ち着いて飲んでいるナイが答える。

「私たちには、もともと能力も知識もあったのですわ。大ミミズにヌルヌルしてもらって思い出したのですわ!」


「何を? 何を思い出したの?」

 パイが、ペチペチと白ピンクの地面を叩く。

「先ず、宝はここにはない、ということだ」


「じゃあ、どこにあるの?」

 当然の疑問だ。


「それは知らん! 知らんが待っていれば、この近くに来ることは知っているのだ。それを思い出したのだ!」

 パイは、知らなくても問題にしていない顔だ。


 ナイが安心させるように付け加えた。

「これまでの匂いは、この場所の匂いだったのですわ。でも、宝はこの近くに来るのですから、心配なんて1つもございませんわ」


 鷹大が辺りを見渡す。


 大ミミズが壁と天井にびっしりと生えている洞窟である。確かに、岩や砂礫と比べれば、これまでとは違う。

 他の人たちも静かに休んでいるし、特別な場所っぽい。


「今まで、この場所を目指していたのか……。飲み物のことも思い出したの?」

「そうですわ」

「それじゃあ、宝がどんなものかも、思い出したの?」


 鷹大が火山の頃から持っていた疑問である。


「存知ませんわ」

 ナイは自信たっぷりに答えた。


 パイが付け加える。

「宝が何か分からんが、この髪が金色になれば、どれが宝か、匂いで分かるようになるのだ。宝が近くに来たら、そのいい匂いをたどるのだ」

 探す手法は、これまでと同じようだ。


 鷹大は髪の色で思い出した。パイとナイが茶髪と気付いた時に聞いたことだ。


「そう言えば、金髪になれるのは、『資格がある者』のみとか言ってたよね。その資格って、何?」

 看板にあった資格のことである。

 それは、大ミミズがつまっていた横穴の手前に立っていた。


 ナイは少し上を見て答える。

「たぶんですけど、能力と知識を思い出す資格だと思いますわ。私たちに始めから備わっていた資格ですわ」


「始めから資格がない人は、ここまで来れないってことか……」

 鷹大はブーメラン男を思い出した。彼はあの場所までがんばったのに、始めから生き延びられなかったのだ。

 男だったが、切なくなる。でも、まあ、ちょっとだけだ。


「それで、知識は聞いたけど、もう1つの能力って何なの?」

 なんか、知識とセットになっているように思える。


「たぶん、これだ」

 パイが後ろに束ねていた髪の束を、前側に回して手に持った。


 その束は、茶色い髪の毛だけじゃない!


 赤と青の紐がそれぞれ複数本、束になった茶髪に添えられていた。一緒に束ねられていないようだ。


 その紐はどれも5ミリくらいの太さで、頭から生えているようで、肩より少し下くらいの長さである。

 ナイも見せてくれた。ツインテールなので、髪と一緒じゃなく、背中へ垂れているだけのようだ。


 なら、他の人は?

 鷹大は慌てて辺りを見た。これまで以上に目を凝らす。男にも女にも、その2色の紐が数本ずつ頭から生えている。髪の毛に混じっている者もいる。


 髪が変化したのだろうか?

「髪の毛が一部、紐になったの?」


 ナイが答える。

「パイも私も髪を束ねていますわ。これらの紐は束ねた外ですわ。ですから、髪からの変化ではなく、新たに生えたと思いますわ」


 その紐の1本を軽く持ち上げて、どの辺りから生えているのか教えてくれた。後頭部か、頭頂部辺りから生えているようだ。


 心配になって、鷹大も自分の頭を探る。いつも通りの短い髪だ、そんな長い紐は生えてなかった。

 やっぱり、鷹大はここの人たちとは違うようだ。


 しかし、紐と能力と、どんな関係なのだろう?

「その2種類の紐って、何の能力なの?」


 パイが赤青両方の紐を1本ずつ手に取った。

「宝に近づく時に、この紐を引っ張って、宝の回りにあるモノを壊して、宝に近づくのだ」

 かなり詳しく思い出しているようだ。


「壊す? 宝の回りには何かあるの?」

「よく分からんが、宝はむき出しではないらしい。入れ物か何か回りにあって、それを壊さないと、宝を取り出せないのだ」

 宝は何かに入っていて、入れ物を壊す必要があるようだ。


 鷹大は身を乗り出した。壊す方法が気になったのだ。

「それで、その紐を引くと、具体的にはどうなるの? やって見せてよ!」


 パイは鷹大から目をそむけ、それまで見せていた紐をポンと後ろへ回した。

「ダメなのだ! 宝が来ていない時に引くものではないのだ。宝の匂いがしてない時には、おそらく使えんと思うぞ!」


 鷹大が思うより、匂いの存在は大きいようである。


「また匂いか……、それなら、どうして、赤と青の2種類あるの?」

 意味がありそうに思えた。


「たぶんだが、宝の入れ物が二重になっていると思うのだ。その時が来たら匂いに従って紐を引くのだ。どっちの色が先かは、匂いをいでみないと分からんのだ」


 匂いに支配されているようだ。


「他の人たちも、その宝を狙っているんでしょ。1番になれそう?」


 その質問に、ナイは少し視線を外す。

「たぶんんですけど、入れ物は大勢で壊さないと、壊れないと思いますわ」

「頑丈なんだ」


 視線を外したままナイが続ける。

「みんなで入れ物を壊して、中の宝が見えるほど壊れた所で、その近くにいる人が1番なんですわ、きっと」

 1番にたどり着いても1番になれるとは限らないようだ。


「それじゃあ、運もあるの?」

「そうかも知れんな」

 パイは否定しなかった。


 鷹大は納得した。

「それで、この洞窟に来てから、1番、1番って言わなくなったのか」


 パイに力が入る。

「それが理由ではないぞ、まだ宝が来ていないと分かったからだ。宝が来れば、1番は絶対に譲れんのだ! オリが1番だ!」


 ナイだって負けていない。

「1番は私ですわ! とは言っても今は何もできませんわ。宝が現れてからが勝負ですわ!」

 しかし、トーンはすぐに低下する。

 宝が無いうちは、本物の闘志は湧かないみたいだ。


「それなら、宝が来るまで、どうするの?」


「飲んで、寝るのだ!」

 パイは、グビッとコップに残っていた分を飲み干した。


「寝て待つのですわ。それに、飲んで力を蓄えておかないと、宝に立ち向かえませんわ。入れ物を壊す力にするのですわ」

 入れ物を壊すには体力がいるみたいだ。


 パイの顔もゆったりとしている。

「だから、オリたちはそれまで飲んで寝ていればいいのだ。ここにはたぶん、あの怖い動物も来れんしな」


「あの大ミミズが通さないってことか」

「たぶん通しませんわ」

「安心して、ここで宝を寝て待つのか」


 鷹大はこれまでのことを思い出す。


 火山弾や熱い溶岩から逃げた火山地獄、

 人柵じんさくを飛び越え、迷路と急流を遡った川地獄、

 怖い動物から逃げ、闘った猛獣地獄、


 それらの地獄を生き残って、大ミミズの閻魔えんま様に選ばれて、やっとここまで来たんだ。


 その苦労が報われて、宝が来るまでの休息なのか……。


 思い返せば、鷹大は火山から逃げた時から、パイとナイを助けたいと思っていた。川地獄も、猛獣地獄もそれに従ってきた。


 だから、これからも、2人を助けたいと思った。

 あの柔らかな手の温もりを守っていこう。

 火山から逃げる時に握った2人の手のことである。


 2人のどちらかが1番になれますように。


 鷹大は想いを新たにしたのだった。

 パイとナイを見る。


 金髪化している。

「2人とも! 髪の色がさらに薄くなって、茶髪から金髪になったね」


「どうだ! カッコいいだろう」

 パイは、後ろに結んだ髪の毛を手にとって、自慢げに見せた。


「毛が逆立ってないけど、金髪になったから、『スーパー何とか人』みたいだね」

 古い漫画のキャラである。


「何だ? それは?」

「何ですの?」

 全く通じていない。


「そうか、知らないよね。何でもないよ」

 やっぱり2人は知らなかった。




「ねー、あんたら! 何で集まってんのさ?」

 男の声! チャライ声だ。


 鷹大が振り向くと、男が立っていた。




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