第九章 休息

第30話 第九章 休息(1/5)

【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイと貧乳のナイと一緒に、宝を探すことになる。宝の匂いをたどって、火山、川、平原を経て、大ミミズがつまった横穴を通って、洞窟に出てきたところだった】


 

   第九章 休息


 鷹大とパイとナイの3人は、大ミミズがつまった横穴を抜けて、洞窟へと出てきた。


 大ミミズがパイとナイの体を這ったり、その粘液にテカテカしたり、大ミミズを外すために親密になった2人を見たりで、鷹大はハズ目となっていた。


 そこへ、粘液に肌をテカテカさせた筋肉男が、横穴から出てきたのである。

 それを見た鷹大は、ハズ目が一気に治ったのだった。


 その筋肉男は、鷹大たちを気にかけることなく、洞窟の奥へ行ってしまった。

 パイもナイも、黙って見送る。


 鷹大の方が焦った。

「急がなきゃ! 宝を取られてちゃうよ!」


 慌てる鷹大をよそに、2人とも平常心以上に落ち着いている。

「宝は、まだないのですわ」

「そうだぞ、鷹大」


 鷹大は目的を見失ったかのようだ。

「宝がないって、どういうことだよ!」


「心配するな、大丈夫だ! 今はまだ宝は来ていない、その時ではないと言うことだ。でも、じきに来るぞ! それまで待つのだ」


 パイからゆとりを感じる。今までと印象が変わった。先読みのできる大人になったかのようだ。


「待つって、宝はどうなったの?」

「だから、今は宝がないのだ。……もう少し奥へ行けば、待つ場所がある。そこで宝を待つのだ」

 パイが洞窟の奥を指差す。何もかも知っているような口ぶりだ。


「奥へ行ってみるのですわ」

 ナイも知っているみたいだ。


「2人とも、何でが分かるの? そんなこと、今まで一言も、言ってなかったよ!」

 ずっと一緒だったのに、鷹大だけが知らない。


 ナイがさわやかに言う。

「能力が付いたのですわ。私たちには宝を手に入れる能力が備わったのですわ。その能力と一緒に知識も付いたのですわ」


 鷹大は何が何やら分からない。

「能力と知識が、どうやって付いたの?」


 パイが年上の顔で答える。

「オリたちは、大ミミズにヌルヌルされて目覚めたのだ!」


「ヌルヌルされてHな感じになって、目覚めるのは別のことだと思うけど……」

 漫画の触手的展開なら、こっちが順当なハズである。


 パイに分かるはずもない。

「何、訳の分からんことを言っている!」


 ナイもあきれる。

「そうですわ。あのヌルヌルは、鷹大のサービスタイムではなかったのですわ! 私たちは大ミミズの刺激を受けて、能力と知識を思い出したのですわ!」

 ナイもサービスタイムと思っていたようだ。

 でも、思い出したと言われただけでは、鷹大には分からない。


 パイも説明には、時間がかかると思った。

「立ち話もなんだ! その待つ場所へ行くぞ、鷹大! 腹も減ってるし、そこで話そう!」

 洞窟の奥へ誘ったのである。


 でもまた、鷹大には新しいキーワード!

「腹が減った? 今まで1回も言ってなかったよ。ここでもお腹が減るの? 俺は全然減ってないよ」

 鷹大は死んだのだから、腹が減るハズがなかった。


「動けば腹が減るのは当然だぞ。やっぱり、鷹大はオリたちとは違うのだな」

 パイもナイも、鷹大は違う人間と改めて意識し、納得したようだった。


 パイの言うとおり、能力と知識は待つ場所で話そう、ということになった。



 3人は洞窟の奥へ歩きだす。


 洞窟は乗用車がすれ違えるくらいの幅があり、大型バスが通れない高さである。

 その壁や天井には、動かない白ピンク色の大ミミズが垂れ下がっている。地面も白ピンク色だが、ほぼ平らだった。

 そんな洞窟の真ん中を歩いた。


 進むにつれて、洞窟は幅・高さともに、だんだんと拡がっていった。左に緩くカープしているので、奥が少しずつ見えてくる。


「人がいる!」


 横穴から、ほんの3分ほど歩くと、水着を着た人たちが見えた。両側の壁際に分かれて、座ったり寝転んだりしている。

 リラックスするくらいに休んでいた。



 洞窟の幅は10メールくらいに広がり、天井も学校の教室よりも、ずっと高くなっていた。

 その天井と壁には、これまでと同じように、大ミミズがぎっしりと生えている。

 特別っぽく感じない、ただ広くなっただけである。


「ねー、ここが待つ場所なの?」

「そうだ、鷹大。この辺りが休息場所のようだな。でも、もう少し奥へ行ってみるのだ」

「ここは人が多いですから、それがよろしいようですわね」

 2人とも人が少ない場所が好みのようだ。


 奥へ向かって、洞窟の真ん中を歩く。

 人は大勢いるのだが、話し声が1つも聞こえない。

 誰も黙っている。


 なので、声は3人だけなのであるが、洞窟特有の反響音はない。声の音波は天井や壁から垂れ下がる大ミミズに吸収されていた。


 歩きながら見ていると、リラックスが過ぎて、鷹大が通る側に足を投げ出している女の子もいる。

 ビキニなので、凝視したくなるくらいにヤバイポーズだったが、3人で歩いていたので、すぐに通り過ぎてしまう。

 鷹大のハズ目は僅かな時間ですんだので、2人には気付かれなかった。


 にしても、左右の壁際には思った以上の人数がいる。

 学校のクラスでいえば3~4クラス分くらいだろうか? 鷹大は100人以上はいると思った。


「オリたちも同じように休むのだ。あの壁の辺りでいいだろう」

 パイは休んでいた人たちが途切れた壁際を指差した。洞窟はまだ続いているが、さらに奥には行かないようだ。

 パイが指差した壁にも、ダラリとした大ミミズが、折り重なるように垂れ下がっている。


「座れ! 鷹大! こいつらは動かんから安心しろ」

 パイは大ミミズを見ていた鷹大を心配したらしい。


「あれ? パイ! 髪の色が何か茶色だよ。黒かったのに茶髪になってる!」

 鷹大が異変に気付いた。見ると、ナイも同様に茶髪だ。


 パイは、自分の頭をポンポンと軽く叩く。

「これから金髪になるのだ! それで準備完了だぞ!」

 鷹大には意味が分からない。


 聞くと、ナイが答えた。

「宝を手に入れる準備ですわ。看板にあった『資格がある者』が、金髪になれるのですわ」

 看板とは、横穴の入口にあった看板のことである。

 これもヌルヌルされて思い出した知識だった。


 3人は壁際に座る。

 生えている大ミミズにさわれるくらいに、壁に近い。


 パイと鷹大は胡坐あぐらをかいたが、ナイは正座だ。白ピンク色の地べたは、ほんのりと生暖かく、柔らかいので痛そうではなかった。


「まずは、腹ごしらえだ」

 パイが言うものの、食べ物なんて見当たらない。


 鷹大がキョロキョロしていると、ナイがニッコリとして言った。

「飲むのですわ!」

「えっ?」

 でも、飲み物もない。


「鷹大、見ているのだ!」

 パイは壁から垂れ下がっている大ミミズの先端近くを片手でつかむ。直径が5センチもある大ミミズなのだが、何の抵抗もしない。されるがままだ。

 やはり、横穴に生えていたのとは、種類が違うようだ。


 パイは、つかんでいる大ミミズをグイッと引っ張った。


 プチン


「あっ! 先が取れた!」

 大ミミズの先端から10センチほどが取れてしまった。ミミズの横縞が切れ目になったみたいだ。


 体が切れたのに大ミミズは痛がる素振そぶりはない。他の大ミミズにも動きはなかった。


 よく見ると、取れたのは大ミミズの皮だけだ。中身は皮より若干赤く大ミミズの先端として残っていた。


 取った皮の先端部は、ミミズっぽく丸い。パイは掌で押さえて丸い所を平らにした。

「少しすれば、もうちょっと硬くなるのだ。これを湯飲みにする」


 大ミミズ皮製のコップである。


 気がつくと、ナイも同じコップを持っていた。


「それに何を入れて飲むの?」

 コップしかない。


「簡単だぞ! もう、湯飲みは固まってきたみたいだな、やってみるのだ」

 パイは、皮を取ったばかりの垂れ下がっている大ミミズをつかんだ。先端よりも上の皮が残っている部分である。

 コップを大ミミズの先端に近づける。取った皮を元に戻すようだ。


 ギュッ


 パイが大ミミズを握ると、先端から透明な液体が出てきた。


 ジョボジョボ……


 その液体がコップに注がれていく。


 なんだか、鷹大にはイメージが悪い。


 垂れ下がった大ミミズの先端から液体が出ているのだ。

 形こそ違うが、先端の皮もなくなっているし、どうも男のアレを連想してしまう。さらに、注がれるのがコップなのだ。


 まるで、検尿である。


 パイが握った手を開くと注液ちゅうえきは止まった。

 コップには、なみなみとその液体が入っている。


「鷹大、これを飲むのだ!」


 ゴクンッ ゴクンッ ゴクンッ ゴクンッ


 パイはどんどんと、コップを傾けていく。


 グイーーーーッ!

 全部飲んでしまった!


「クーーーーッ! うまいっ! 五臓六腑に染み渡るぞ!」

 大人がビールを飲むと、こんな顔をする。


「お酒なの?」

 鷹大の当然なる反応だった。





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