第八章 大ミミズ

第26話 第八章 大ミミズ(1/4)

【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイと貧乳のナイと一緒に、宝を探すことになる。宝の匂いをたどって、火山、川を経て平地に出た。そこで、大鷲を含む白っぽい猛獣たちに襲われるが、3人で大鷲の羽を持つことで猛獣たちの攻撃を回避できたのだった】



   第八章 大ミミズ


 鷹大、パイ、ナイの3人は湿った砂の平地を、宝の匂いがする方角へと歩いていた。


 モヤは相変わらず健在であり、遠方の視界はない。進まないと先の様子が分らなかった。


「岩壁だ! また岩壁だよ」

 遠くに垂直のような茶色の岩壁が見えた。

 近づくことでモヤが薄まり、岩壁がぼんやりと見えたのだ。


 火山弾や溶岩に追われた時に見たのと、よく似た岩壁だ。左右に広がり、行く手を塞ぐ壁のようだ。

 でも、鷹大が落ちた岩壁とは違っていた。


「あの岩壁の近くに宝があるの?」

 鷹大は状況に変化があると、すぐに宝と思ってしまう。


「よく分からんが、あの岩が窪んだ所から匂うぞ!」

「そうですわね。壁がへこんだ辺りから匂いますわね」


 以前に人柵じんさくの所で見たような裂け目がない代わりに、岩壁の高さの半分くらいに大きい凹みが、地面付近に1つあった。

 

 凹みの形状は、岩壁でも地面の高さより上にある岩塊から、スイカの4分の1の形をした岩を、巨大なスプーンによって、ごっそりとえぐり取ったようであった。


 遠過ぎて、詳しい大きさは分からないが、左右中央の地面付近が最奥となっているらしい。


 その最奥は、凹みの高さと同じくらいの奥行きがあって、風雨の心配がない。縄文遺跡でもありそうな特別な場所のように、鷹大は感じていた。


「2人して匂うんなら、あの凹みに宝があるのかな?」

「きっとそうだ! オリが1番だ!」

 パイが走り出す。


「私が1番ですわ!」

 ナイも負けじと走る。


 でもと言うか、しかしと言うか、やっぱりと言うか、2人とも走るのが遅い。


 鷹大なら余裕で追い抜ける速さだ。なので、2人より先に宝を見物できそうだが、これまでの苦労を思うと、とてもできなかった。





 壁に気づいてから半分くらい近づくと、凹み周辺の平地に、何人かの男女がいるのに気付いた。


 でも、おかしい。

 どの人も単独であるのだが、岩壁の凹みに向かって歩いていない。それぞれが異なった方向へ歩いていて、統一性がなかった。


 その男の1人が鷹大たちの進行方向を横切って、明後日あさっての方角へ歩いていく。


「あいつはどうしたんだ? 匂いが分からないのかな?」


 ギロッ!


 つぶやいた鷹大が睨まれた! 黙ってがんを飛ばされたのだ。でも、それだけだった。近寄ってきたり、何かを言ったりはなかった。

 

 目付きが悪い印象を残して去っていった。


 なぜ、違う方向に行く人たちいるのか分からない。

 鷹大は疑問に思ったが、どうせパイもナイも知らないと思い、特には聞かなかった。


 ザッ! ザッ!

 背後から足音!


 鷹大が振り向くと、1人の男が追って来る!


 黒っぽいブーメランパンツを履いたスポーツ狩りの色黒な男で、夏の甲子園を狙う野球部員のようだ。でも、身長はパイやナイと大きく変わらない。

 地獄でも、リアルでも、鷹大が見たことのない顔だった。


 ザッ! ザッ! ササッ! サッ! サッ!


 黙ったまま、真剣な顔を見せて3人を抜き去っていった。

 同じ方向、岩の凹みへ向かっている。


 パイとナイにとっては由々しき事態だった。


「先を越されたのだ! 宝を取られてしまうぞ!」

「急ぐのですわ!」

 2人は加速を試みる。


「うーん!」

 パイは目をつぶって、力の限りに手足を大きく振り出す。


 ナイも懸命に走ってるようだが、2人とも目立った加速はなかった。

「ダメですわ! あの男には追いつけませんわ!」


「ねー、俺が抱えて走ろうか?」

 鷹大が申し出た。生き延びれるかどうかの競走なのだ。


「断る!!」

「嫌ですわ! 自分の力で勝ち取るのですわ!」

 即断! 2人とも鷹大の申し出を跳ね除けた。


 始めから自身の力や知恵にこだわっていた。切羽詰せっぱつまっても変わらないようだ。

「ゴメン、俺は後ろから見てるよ」


「それがいいのだ。でも、まだ分からないのだ! オリは最後まで諦めんぞ!」

 パイは去り行くブーメラン男を凝視しながら、足の運びを緩めない。


 ナイのスピードも変わらない。

「私もですわ! 諦めませんわ! あの男が今にも転んで走れなくなるかも知れませんわ! 自ら希望を破り捨てたりしませんわ!」


「そうだ! 不利に逆らうのもオリの自由だ!」

 2人とも鷹大の力は借りないが、あらゆる可能性にしがみついてまで、宝を目指してるのだ。



 岩壁が近づいてきた。


 凹みの大きさが分ってくる。思ったよりもずっと大きい。

 2階家の一戸建て住宅が、屋根まですっぽり入りそうな高さがある。奥行きも高さと同じくらいだ。


 抜いて行ったブーメラン男がいる! 凹んだ最奥の壁面よりも少し手前で、なぜか立ち止まっている。


「ブーメラン男が突っ立ってるよ! 何をしているんだ? あれ? 看板がある! あいつ、看板を見てるよ!」

 ブーメラン男は看板を前にして立っていた。


 その看板は、2本の足があって、しっかりと作られた木製である。ここには木が1本も生えていないのに、木製の看板はあるようだ。


「あの男が止まっていますわ! 今がチャンスですわ!」

 鷹大たちは岩壁の軒下に入り、凹みの内側を走る。


 ブーメラン男の横を通り過ぎた。

 パイとナイは看板も含めて全くの無関心。鷹大はちょっと気になるが、宝を先に見たいと思っていた。


 凹みの最奥まで来た。ほぼ垂直の壁面で行き止まりだった。


「何だ? こりゃ? キモイぞ!」

「気持ち悪いですわ! でも、この間から匂いますわね」


 パイもナイも最奥である壁の前でたじろいでいる。異様なモノ過ぎて、鷹大も近づけない。


「大ミミズだ! 大ミミズがいる!」


 直径が5センチくらいもある大ミミズだ。白っぽいピンク色をしていて、ミミズ特有の縞々模様もあり、表面が粘液みたいので照り輝いている。


 そんな1メートルくらいの大ミミズが、3匹も最奥壁際の地面に転がっていた。

 しかし、その3匹の存在は、小さいことに過ぎない。


 行き止まりと思った壁面には、穴の口があったのだ。

 壁面に開いているので横穴のようだ。

 縦長で、鷹大が立ったまま入れそうな大きさがあるのだが、とても入れない。


 なぜかというと、その横穴には隙間がないほどに、地面に転がっているのと同じ大ミミズが詰まっているのだ。横穴の空間が全部、大ミミズで埋まっているのである。


 地面の3匹も、頭を横穴に突っ込んでいる。横穴が大ミミズでぎっしり過ぎて、3匹があふれたと言った方が正しいくらいだ。


 しかし、地面の3匹も、横穴に詰まった大ミミズも、全く動かない。死んでいるのか? でも、粘液が照り輝いている。

 鷹大は死んでいるとは思えなかった。


 それに、白っぽい猛獣たちの仲間かも知れない。


「2人とも、気をつけろ! こいつも人間を襲うかも知れないよ!」


「ミミズは猛獣ではございませんわ! 人間を襲いませんわ」

 ナイは正論を言っているが、とても安心はできない。


「こんなに大きいんだ! 大蛇のように絞め殺すかもしれないよ! それに、毒を持っているかも知れないし、……」

 キモイほどの大ミミズだ。用心するのは当然である。


「もし、そうなら、この先へは進めませんわ!」

「そうだぞ! 鷹大! この穴の口から匂うのだ! 宝はこの穴の中にあるのだぞ! 何があっても進むのだ!」


「この大ミミズが宝じゃないの?」

 その方が話が早い。


「違いますわ! 穴の奥から匂いますわ! この大ミミズをかき分けた奥からですわ! 大ミミズからではございませんわ」

 ナイには自信があるらしい。


「その通りだ! 穴の奥から匂うのだ。でも、心配ない! オリたちには羽があるのだ! 動物には襲われないはずなのだ!」

 パイは腰に両手を当ててにんまりとする。


「そうだったね。それなら羽を持ってない人は宝にたどり着けないってことか」

「そういうことなら、オリたちはラッキーだな!」


 そんなパイを横目に、ナイがチラリと横穴を見る。

「でも、大ミミズがギュウギュウにつまっている穴に入るんですの?」


「この穴から匂っているのだ! オリは匂いの方へ行くだけだ! 迷ったり、キモイなどと言っていられんぞ!」

 そう言う割には、パイも大ミミズの横穴になかなか近づけないでいる。


 そこへブーメラン男が走って来た!


 2人の間をすり抜けて大ミミズの横穴へと突進!

「まずい! 先を越されたぞ!」

 パイも、ナイも慌てた!





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