第25話 第七章 怖い動物たち(8/8)
【地獄(?)に落ちた
まだ遠い。
白熊は横を向いてゆっくりと歩いている。薄茶色でなく、真っ白な白熊だ。こっちには気付いていなかった。
鷹大はさっさと逃げたい。
「こっちに気が付いていないみたいだ。このまま死角へ回って通り過ぎよう」
「試してみたいぞ! ナイ! 近づいてみろ!」
パイは自信満々だった。
「嫌よ! 怖いですわ!」
ナイは鷹大の後ろに隠れる。
「2人とも声が大きいって! 先を急ぐんだろう。誰かに宝を取られるよ」
「うーん、そうか、宝の方が大事だな!」
パイだって、考えるまでもない。
「そうそう、急ごう!」
3人は知らない振りして、遠巻きに白熊をやり過ごそうとした。
ビチャ ビチャ!
「き、来ましたわ!」
それでも、白熊は気付いて、湿った地面の上を走ってきた!
体重にして、鷹大5人分はありそうだ!
逃げたら追いかけられる勢いを感じた。
3人とも動けない。
白熊は、もう数メートルってところで一旦止まって、長い首を伸ばし鼻を突き出しながらズリズリと寄って来る。
牙をむき、目が吊り上がってる!
至近で止まった! もう、その鼻先まで1メートルもない!
「鷹大! 来たぞ! どうしよう!」
パイが鷹大の背中にしがみ付く。
ナイも片手で鷹大のTシャツを握っていた。
「だ、大丈夫だよ、きっと」
鷹大だって、羽を完全に信用してなどいない。白熊の白い牙と怖い目にビビっている。
パイは白熊の迫力に、一瞬羽を忘れてビビっていたが、羽も襲われない実績も思い出して、1人、気を楽にした。
「オリはきっと大丈夫だ! そうだ、ナイ! 試してみろ! 鷹大から離れて熊をバカにしてみろ!」
「嫌ですわ! わざわざこっちから挑発なんてできませんわ! 怖いですわ!」
白熊は近づくでなく、こちらのやり取りを睨んで見ている。
「ほら! ナイ!」
ポンッ!
パイが、Tシャツをつかむナイの手をはらって、背中を押した。
不意を突かれたナイは、半歩前へ出てしまう!
「こ、怖いですわ! パイ!」
ナイは身をすくめる。大きな動きをすると、襲ってきそうで怖い! 後退りもできないでいた。
白熊はナイを睨むだけ。
白熊に動きがないので、パイは調子に乗ってナイの背中を再度押す。
ポンッ!
「きゃーーーーっ!」
すると、睨んでいた白熊の目が優しくなった!
プイッ
長い首から横を向き、関係ない方向へ行ってしまった。
「やったー! 熊は襲わなかったぞ! どうだ、ナイ! 羽のお陰で助かったのだ!」
パイは両手を挙げて喜んだ。
ナイは小さな胸に手を当てて、しゃがみ込む。
安堵の思いを受け止めた。
「そのようですわね。私の仮説が正しいと証明されましたわ!」
パイがピクンと反応した。
「えーっ! 鷹大が考えたんだぞ!」
「私でしたわ!」
正義は我にありと、ナイがパイに迫る。
「そうだっけ?」
とぼけるパイ。
「そうですわ!」
ナイは膨れっ面だ。
鷹大が間に入る。
「そうだったね。ナイの仮説だったよ。とにかく俺たちは助かったんだ。パイが羽を拾ってくれたお陰だね」
「そうだ! オリの手柄だぞ! ナイ! どうだ! 巨乳の勝ちだぞ!」
誇らしげに巨乳を向けるパイ。
ポンッ!
「違いますわ!」
ナイは巨乳に触りたくないので、パイの肩を押し、真顔で反論する!
「何が違う! 鷹大が言ったように、オリが羽を拾わなかったら、できなかったぞ!」
「鳥が襲ってきたのは、私たちが人の列に入らなかったからですわ!」
ナイは的外れなことを言い出した。
「それがどうした! 何の関係がある!」
パイも意味が分からない。
「私が泳いで川の真ん中を登り切ったからですわ!
他の人たちと一緒に川の端を歩いて登っていたら、きっと鳥よりも先に他の動物が来ていましたわ!
地上の動物が人の列に気を取られているうちに、鳥が列を飛び越して、1番に私たちの所へ来たのですわ!
鳥でなければ、羽は手に入りませんわ!
他の人がいない場所に私が2人を導いたからですわ! だから、私の手柄ですわ!」
勢い込んで言い切った!
そんな考え方もあるのかと、鷹大は感心する。
ナイに圧倒されつつ、パイも負けてない。
「そ、そんなことないぞ! ナイも鷹大につかまって真ん中を歩けば同じだったぞ! 鷹大がどこを歩くかで決まっていたかも知れんのだぞ!」
「でも、私が列と列の真ん中に2人を連れて来たのですわ! 1番に川を登り切ったのは私ですわ! だから、私の手柄ですわ!」
ナイは勢い余って、パイにつかみかかりそうだ。
ここまで熱くなるのか? パイはたじろいでしまう。
「分かった! 分かった! もう、いいぞ! ナイ、そういうことにしておいてやるぞ!」
「『しておいてやる』ではなくて、そうなんですわ!」
ナイは手柄を譲る気がないようだ。
「でも、鷹大がいなければ、鳥の羽は手に入らなかったぞ!」
ナイの強気に、パイは1番の刀を抜いた。
「そ、それはそうですけど、……」
途端にトーンが下がる。ナイとパイだけでは絶対に羽は手に入らないと、ナイも分かっているのだ。
ここは鷹大がまとめるしかない。
「3人の合わせ技だよ! 誰1人足りなくても、こういう結果にならなかったんだよ。仲間の勝利だよ。仲間の手柄なんだ」
ポン ポン と2人の肩をたたいてやる。
「そうですわ! そういうことにしましょう。1人の手柄と考えるから、よろしくないのですわ」
「まあ、そうだな、ナイ1人じゃないし、オリ1人でもない。3人一緒にいたことの手柄だな!」
仲間の絆が深まった!
よし! いい傾向だ! まとまったところで鷹大は話を進める。
「それなら先を急ごう」
「そうだな。宝はこっちだぞ! 鷹大!」
パイを先頭に、3人は歩きだした。
その後も、白っぽい猛獣と何度か遭遇したが、睨まれるくらいで、すぐにどっかへ行ってしまったのである。
羽の効果は絶大であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます