第24話 第七章 怖い動物たち(7/8)

【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイと貧乳のナイと一緒に、手に入れれば生き延びられるという宝を探すことになる。宝の匂いをたどって火山と川を経て、平地に来ると、白い大鷲にナイが襲われる。鷹大が羽をむしって退けるも、次々に白っぽい猛獣たちに遭遇、とうとうナイが白狼に食いつかれてしまうが、これもなんとか退けた。しかし、パイは一度も襲われない。その原因を白い大鷲の羽を持っているからと、ナイは仮説を立て、余っている羽をパイから受け取ろうとしたが、その羽にはパイのあの毛が付着しており、吹き飛ばしたものの、ナイは不潔と言い、持てないでいた。そこへパイの言葉、ナイは希望の光を得たのであった】



 パイには、もどかしい。

「ナイ! 自分でやると言ったのだ! 鷹大も羽を持っているから襲われないのだぞ! 早くするのだ!」


「それよ! それですわ!」


 ナイが放っていたマイナスの気が、プラスに反転した瞬間だった。


「何だ? いきなり、どうしたのだ?」

 パイはナイの変化についていけない。


「鷹大も羽を持っているのですわ!」

「だから、襲われないのだぞ!」


「違う! 違いますわ! 鷹大の羽を私が持って、今パイが持っている羽を鷹大が持てばよろしいのですわ!」

 ナイは妙案とばかりに披露した。


 鷹大が履く短ズボンには、太腿の外側に蓋が付いた大きめのポケットがある。そこに鷹大の羽が入っているのだ。


「そして、この羽を鷹大にか、まあ、それもアリだな!」

 パイは即理解できた。


「えっ? 俺がパイのあの毛がついていた羽を持つの?」

 降って湧いたような幸運! 鷹大の想像力が膨らんでいく!


「おいおい! 鷹大がハズ目になったぞ! 今度はナイのせいだぞ!」

 またまた、パイが後退あとずさり。


「私のせいでも、なんでも、構いませんわ! 鷹大! 持っている羽を渡すのですわ!」

 ナイは鷹大に近寄りたいが近寄れない。ナイも鷹大のハズ目が嫌いなのだ。


「お、俺がパイの毛を……」

 鷹大はおのが世界に入っていた。

 助平な想像力が頭をめぐっている。


「もう! 鷹大ったら、ハズ目になってほおけていますわ! 仕方ありませんわね」

 ナイはハズ目から目を逸らし、怖いのを我慢して鷹大に近づき、短ズボンのポケットから羽を取り出した。


 さっと離れる。


「私がこれを持てば、解決ですわ!」

 その羽を自分のボトムビキニに入れた!


「やりましたわ!」

 ナイは勝者の笑みをパイに見せつける。


 パイには何てことはない、普通どおり。

「すると、この羽は鷹大が持つしかないぞ!」

 羽を鷹大へと差し出した。でも、ハズ目が怖くて近づけない。


「こ、これが、パイの中に、中の毛がついていた羽……」

 鷹大は、興奮のあまり指が震えている。


「鷹大! ハズ目がスゴイぞ!」

 ハズ目のいやらしさは最高潮である。

 パイは近づくどころか、羽を持ったまま後退りだ。


 2人のこう着状態に、羽を手に入れて気分のいいナイが指示を出す。

「鷹大がパイの羽に触ったら、もっとハズ目になりますわ! パイが鷹大の服にその羽を入れるのですわ! それまで、鷹大はじっと立っているのですわ!」


 パイはびびった。

「オリが鷹大の服に入れるのか? ハズ目に近づくのは怖いのだ!」


「我慢するのですわ! 私だって羽を出せましたわ! パイだって羽を入れられますわ! その間、鷹大はじっとしているのですわ!」


「お、俺だって、その羽に触りたいよ」

「ダメーーーーーーっ! ダメですわっ! 絶対ダメですわっ! ハズ目がひどくなりますわっ!」


「そんなー!」

 物欲しそうな鷹大を、ナイは睨みつける。

「ダメですわっ! 鷹大は枯れた立ち木のようにじっとしているのですわ! 絶対に動いてはなりませんわっ!」

 食いつかんばかりだ!


「うう! わ、分ったよ!」

 鷹大は恐れをなした。


「そうですわ、鷹大はじっと立っているのですわ! その間に、パイが持っている羽を鷹大の服に入れるのですわ!」


「ハズ目には近づきたくないぞ!」

 強力なハズ目に、尻込みするパイである。


「私もできましたわ! きっとパイもできますわ! お願いですわ! 我慢するのですわ!」

 言葉とは裏腹に揺るぎない迫力!


「し、仕方ないのだ! やってみるのだ」

 パイは鷹大の顔を見ずに、短ズボンだけを見ながら恐る恐る近づいて、ポケットに羽を入れ、蓋を閉めてボタンをかけた。


 走って離脱する。


「やった! オリもできたぞ!」

 階級が上がったくらいに嬉しそうだ。


 ググググッ!


 鷹大の首が傾き、ハズ目の視線がポケットへと向く。

 ナイには、助平魂がターゲットを捕捉したように見えた。


「ダメーーーーっ! ダメですわ! 鷹大は羽を見ても触ってもダメですわ!」

「どうして? この羽は俺の分だよ。よく見たいよ!」


「もっと、ハズ目になるからダメですわっ! もう忘れるのですっ! 鷹大は羽のことを忘れるのですわっ! ハズ目にならないためですわっ!」

 ナイが鷹大を思いっっっっ切り睨みつける。


 名のある研ぎ師が研いだばかりの名刀を、スッと鷹大の首元に突きつけたようだ。

 ナイの目が怖いと、鷹大は初めて思った。ハズ目も治まる。


「わ、分かった! 分かったよ。触らないよ。見ないよ」

「約束するのですわ!」

 もっと、もっと、睨みつける! その刀の鋭さが増している! もっと、鋭くなるかも知れない。鷹大は逆らえなかった。


「約束するよ。でも、思い出すくらいはいいだろう?」

 僅かでも見返りが欲しい。


「ダメですわっ! ハズ目になりますわっ!」

「そうならない程度に思い出すからさ」

 鷹大は、おこぼれでも欲しかった。


「そんなこと! 鷹大にはできませんわ!」

「できる! できるよ!」


 ナイはとても信じられないと思ったが、このままでは拉致が開かない。

「仕方ないですわ。思い出すくらいは許しますわ。その代わり、羽のためにハズ目にならないこと! よろしいですの?」


「分かった! 分かったよ」

 そう言いながらも、パイの水着に入っていた羽を、手に入れた鷹大である。

 笑みを必死に隠すのであった。



「これでオリたちは動物に襲われないぞ!」

 パイはふんぞり返る。


「まだ決まったわけではございませんわ。私たちが考えた通りとは、限りませんわ!」

 あれだけ騒いだ割には、ナイは慎重だ。


「きっと、大丈夫なのだ! 動物よ! 出て来い! 襲えるもんなら、襲ってみろ!」

 パイが両手を腰に当て、胸を張って叫んだ。


 プルンッ!


 その胸は、得意げに1つ跳ね、気持ちよく上を向いた!


 パイの声に鷹大は心配になる。

「声が大きいって! そんなこと言ってると、本トに来るよ! 動物に会わないに越したことは、ないんだからね」


 ナイも心配だ。

「鷹大の言う通りですわ。ほら! 知らないうちに、あそこに白熊が来ていますわ!」


 まだ遠い。

 白熊は横を向いてゆっくりと歩いている。薄茶色でなく、真っ白な白熊だ。こっちには気付いていなかった。


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