第23話 第七章 怖い動物たち(6/8)

【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイと貧乳のナイと一緒に、手に入れれば生き延びられるという宝を探すことになる。火山、川を経て、平地に出ると白い大鷲に襲われた。退けるも、次々と白っぽい猛獣に出会い、とうとう白狼にナイが食いつかれてしまう。何とか白狼を退けた。だが、パイは猛獣たちに睨まれるだけで、一度も襲われていない。その理由を考えていたナイは、拾った白い大鷲の羽を、パイが持っているからと仮説を立てた。羽はもう1枚あったので、ナイもその羽を持とうした。パイが持っていた羽をナイが受け取ろうとした、その時、なぜか、ナイは悲鳴を上げて、走って逃げてしまったのである。(ごめんなさい。今回は文字数が多いです)】


 白く輝き、鷹大のてのひらよりも長い羽だ。

 パイは、親指と人差し指の2本の指で、羽の真ん中辺りをつまみ、ナイへ向けて差し出した。


「きゃーーーー!」

 ダダダッ!


 羽を見るやいなや、ナイは叫んで、走って逃げだしてしまった。


 ええーーーーーーーーーーっ!

 鷹大は呆気あっけだった。


 パイも意味が分からない。

「どうしたのだ?」

 摘んだ羽を前方に突き出し、パイが追いかける。


 鷹大が1人、ポツンと取り残された。


 いったい何が起きたんだ?

 鷹大は歩いて2人を追いかけた。



 パイがナイに追いついた。

「ナイ! なぜ逃げるのだ!」


 ナイは足を止め、パイの持つ羽を恐る恐る指差す。

「その羽! へ、変な毛が……」

 震えた指先をたどって見ると、黒いクネクネとした毛のようなものが、羽の根元に1本ついている。


 ジンジロリ~ン~!


「何だ、そんなことか、問題ないぞ! フーーーーッ!」

 パイは、その毛を吹いて飛ばした。


 ハラハラ……サヨナラ~。


「取ったぞ! ほら、ナイ、お前も水着の中に入れろ」

 それっ! とばかりに、羽をナイへ向ける。


「き、汚いですわ!」

 横を向いて拒絶する。羽も見たくないみたいだ。


「おーい!」

 やっと鷹大が追いついた。

 離れていたので、2人の会話を聞いていない。

「2人とも何があったの?」


「そ、その羽にアレがついていたのですわ! ふ、不潔ですわ!」

 ナイは羽を見ないままに、羽を小さく指差した。


「アレって、何?」

 鷹大の問いに、ナイは目をギュッとつぶって答えられない。


 パイが代わりに答える。

「毛がついていただけなのだ」


「毛?」

 鷹大には唐突な単語だった。

「羽の根っ子に毛がついていたのだ! 抜いたばかりの羽だったので、湿った根っこに、くっついていたのだ。ホレ、水着の中にある毛だ!」


「水着の中にある毛って? あの毛?」

「そうだ。でも、もう取ったから無いぞ」

「不潔ですわ!」

 ナイは身を縮める。


「あの毛!」


 ブオーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! チャバ チャバ チャバ


 鷹大の鼻から鮮血が噴き出し、湿った地面に飛び散った。


「ハズ目だ! 鷹大がハズ目になって血を吹いたぞ! なんと! おぞましい!」

 パイは羽を持ってない手で、鷹大を指差しながら後退り!


「パイのせいですわ! 変な毛のせいですわ!」

「変な毛ではないぞ! 大きくなると誰もが生える毛だぞ! ナイだってあるだろう?」

「そんなこと、よく平気で言えますわね! み、見るのですわ! 鷹大がさらに重症ですわ!」


 鷹大は両膝りょうひざを地面につけていた。

 頭を前方に突き出し、顔を下に向けて、流血を受け止めようと、両手で鼻と口を覆っている。

 この体勢は、鼻血の被害がTシャツに及ばないための配慮だった。咄嗟の出血に慌てたが、思ったほどには、我を忘れていなかったようだ。


 鷹大が下を向いているので、パイとナイからはハズ目が見えない。

 鼻血を出しながらのハズ目は、どんなだろう?


 怖いもの見たさが、パイをいざなう。

 パイはしゃがんで、下をむいてる鷹大の顔を、見上げるように覗き込んだ。


「わっ! ハズ目だ! 強烈なハズ目だ!」

 パイは後ろへ、すっ飛んだ!


 荒れ狂う助平な想いと、懸命に静めようとする想いが、交互に現るような、喜びと我慢が交錯するようなハズ目だった。


「パイのせいですわ! 恥ずかしいことばかり言うから、鷹大がハズ目になったのですわ!」

「でも、鷹大はオリたちの、どこにも触ってないぞ!」

 なんとも、不思議そうである。


「鷹大はパイの言葉を聞いて、1人で勝手に妄想してるのですわ!」

「オリのせいか? 『誰もが生える』と言うだけでもダメなのか?」


「違いますわ! もっと広い原因によるハズ目ですわ! 毛と言ったところから全部ダメなのですわ!」


「毛と言っただけで、ハズ目になるのか? 毛に触らなくてもか?」

 子供のように実感がないようだ。

「触らなくても、助平が伝わるのですわ!」

 ナイ1人がお姉さんである。


「そんなことより、ホレ、羽だぞ!」

 パイは再び羽を差し出した。鷹大なんて、ほっとけって感じだ。


 ナイは身構える。

「そんな不潔なもの! 持てませんわ!」


「動物に襲われるぞ! 痛いぞ~! 死ぬぞ~!」

 パイは、ナイの不安をかき立てる作戦だ。


 ナイの心は揺らいでいるが、安全よりも毛がついていた事実が上回っていた。

「それでも不潔ですわ!」


「ナイだって、同じだろう? 毛が生えているのは!」

 パイは、いまいちナイの気持ちを理解できないでいる。


「自分のと、他人のとは、違いますわ!」

「じゃあ、羽はいらないのか? それならそれで、オリは構わんぞ!」

 今度は、パイの意地悪作戦である。


 ナイは困ってしまう。

「うー、あんなに痛くて怖い思いは、2度とゴメンですわ! ですけど、不潔なものを水着の中に入れたくありませんわ! いったい、どうすればいいんですの?」

 ナイは身動きが取れなくなってしまう。


 鷹大よ! 鼻血を出してる場合じゃないぞ!


「ナイは、羽を持つべきだよ!」

 鷹大がシャキッと顔を上げた。


 助平な気持ちは一欠ひとかけらもない。

 ハズ目も治っていた。

 鷹大は、キリッとナイを見据えた。


 真面目にナイが心配なのだ。


「ナイが羽を持たないと死ぬかも知れないんだ! 俺はナイに死んで欲しくないよ! 我慢して受け入れてよ! 命には変えられないだろう!」

 鷹大は心を込めて訴えた。


「そんな血まみれの顔で力説されても、心に響きませんわ!」

 顔の下半分は真っ赤なままだった。


 助平な鼻血を拭いてなかった。


「いや、その、これは、……」

 鷹大の勢いは、フニャフニャと地面に落ちる!


 ナイは真剣に悩む。

「私も、仕方ないと思っているのですわ。……そうなのですが、心の底で、拒絶してしまうのですわ!」

 安全と不潔の板挟みに陥っていた。


 フーーーーンッ! チャッ

 フーーーーンッ! チャッ


 鷹大は鼻息を、片方ずつ吹き出す。その勢いで鼻の穴に残った血を掃除した。


 顔に付いた血を掌で拭き、拭いた手を両手でこすってあかと一緒に黒い糸ミミズのようにして、地面にポロポロと落とした。


 それを何度か繰り返し、最後に手の甲から腕を使って、鼻の下から口の周りをぬぐった。ついていた血は、顔の血色に紛れるくらいに、ほどよく取れた。


 鷹大は意を決する。

「それなら、強硬手段だよ」

 ナイの後ろに回った。


 ナイは疑問符を出すほどに、何が何やら分からない。


 そんなナイの両手首を、鷹大がつかみ、グイッと持ち上げた!

 ナイの足がプラプラと浮く! 手首から吊り上げたのだ。ナイの体は軽いので鷹大には楽勝だった。


「いやーーーー! 放してーーーー!」

 バタバタ!


 ナイが足をバタつかせて体を揺する。


 バンザイ状態になったナイは、胸も、どこも、全くの無防備だ! ツルペタビキニのツインテールだから、年齢を誤ってしまいそうで、危ない!


 巨乳であるパイとは異なる次元の、いやらしさが満点となった絵面である。


「何をするんですのーーーー!」


 ナイの悲痛な叫びに、鷹大は答えず、パイに指示を出す。

「パイ! ナイの水着を開けて中に羽を入れるんだ!」


「オリが、ナイのパンツを降ろすのか?」

 パイが、とぼけたことを言いだす。


「ダメーーーーーーっ! そんなこと、してはなりませんのーーーーーーっ!」


 ナイは足をバタバタ! 体はクネクネ! 貞操の危機が迫り来る。


 鷹大にとっても、思いもよらない!

「ち、ち、違うよ! 降ろすんじゃないよ! 水着の中に羽を入れるんだよ!」


 鷹大とナイの慌てた様子に、パイはにんまりとする。


「実は、知っていたのだ。からかっただけなのだ。それで、オリが羽を入れるのか?」


 鷹大はひとまずホッとした。

「そうだよ! 俺がナイを持ち上げている今のうちに入れるんだ!」


「そんなことやめるのですわ! 吊られた上に裸に近い姿で『入れる』なんて言われては、恥ずかしくてたまりませんわ! 手だって痛いですわ! 不潔も嫌ですわ!」

 ナイの顔はもう真っ赤だ!


 しかし、鷹大は譲れない。

「ナイ! 我慢してよ! 動物に襲われないためだよ!」


「今! 襲われていますわーーーーーーーーーー!」

 バタバタ!


 鷹大も赤面しそうだ!

「もう! 人聞きが悪いこと言わないでよ! パイ! 早く羽を入れて!」


 パイが近づいて、ナイのボトムビキニに手をかける。


 まるで嫌がる女の子のビキニを脱がす寸前である!

 ナイの貧乳が追い討ちをかけて犯罪的にHな光景だ!


「いやーーーーっ!」

 バスッ!


 ゲホッ!


 蹴った!


 ナイがパイの腹を蹴った。


「い、痛い! 痛いぞ、ナイ! お前のためにやってるのに! 蹴るとは、ひどいやつだな!」


「こんなの、2人になぶられているようで、嫌ですわ!」


 バタバタ! バタバタ!

 ナイが吊られた体を激しく揺すって抵抗する。


 それでも、全く揺れない胸が痛々しいのではあるが、そのスジの人が見ると、曲がった本能をくすぐられるナイの胸だ。


 どんなに嫌がっても、ナイには羽が必要だ!


 鷹大は心配なのである。

「嫌と言われても、ナイが自分で羽を持てないんだから、仕方ないじゃないか! これは、命に関わるんだよ!」


 泣きそうなナイ。

「持てないわけでは、ございませんわ! 仕方ないとは、思っているのですわ! ……わ、分かりましたわ! 自分で羽を持って入れますわ! ですから、放してくださいませ!」


 やっと、観念したようだ。


「よかった! 自分で入れるんなら放すよ」

 鷹大はナイの足をそっと地面に降ろしてから手を放した。


 つま先からかかとへと、ナイは自分の重さを受け止める。


 ナイが羽を持つには、勇気と決心が必要だ! ナイは気持ちを入れ直した。


「ほら! ナイ! 羽だ!」

 パイが羽を差し出す。白くてきれいだが、ナイには不潔な羽だ。


 鷹大につかまれていた手首をさすりながら、ナイは気持ちを落ち着かせる。

 無理やり付けた決心を武器に、勇気をもって羽に立ち向かおうとした。


「い、いただきますわ。………………………………やっぱり、ダメですわ!」


 羽に伸ばした手を、触れる寸前で引っ込めてしまった。

 まだ勇気が足りてなかったのだ。


 パイには、もどかしい。

「ナイ! 自分でやると言ったのだ! 鷹大も羽を持っているから襲われないのだぞ! 早くするのだ!」


 聞いたナイの顔が、輝きだした!


「それよ! それですわ!」


 ナイが放っていたマイナスの気が、プラスに反転した瞬間だった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る