第23話 第七章 怖い動物たち(6/8)
【地獄(?)に落ちた
白く輝き、鷹大の
パイは、親指と人差し指の2本の指で、羽の真ん中辺りを
「きゃーーーー!」
ダダダッ!
羽を見るやいなや、ナイは叫んで、走って逃げだしてしまった。
ええーーーーーーーーーーっ!
鷹大は
パイも意味が分からない。
「どうしたのだ?」
摘んだ羽を前方に突き出し、パイが追いかける。
鷹大が1人、ポツンと取り残された。
いったい何が起きたんだ?
鷹大は歩いて2人を追いかけた。
パイがナイに追いついた。
「ナイ! なぜ逃げるのだ!」
ナイは足を止め、パイの持つ羽を恐る恐る指差す。
「その羽! へ、変な毛が……」
震えた指先をたどって見ると、黒いクネクネとした毛のようなものが、羽の根元に1本ついている。
ジンジロリ~ン~!
「何だ、そんなことか、問題ないぞ! フーーーーッ!」
パイは、その毛を吹いて飛ばした。
ハラハラ……サヨナラ~。
「取ったぞ! ほら、ナイ、お前も水着の中に入れろ」
それっ! とばかりに、羽をナイへ向ける。
「き、汚いですわ!」
横を向いて拒絶する。羽も見たくないみたいだ。
「おーい!」
やっと鷹大が追いついた。
離れていたので、2人の会話を聞いていない。
「2人とも何があったの?」
「そ、その羽にアレがついていたのですわ! ふ、不潔ですわ!」
ナイは羽を見ないままに、羽を小さく指差した。
「アレって、何?」
鷹大の問いに、ナイは目をギュッとつぶって答えられない。
パイが代わりに答える。
「毛がついていただけなのだ」
「毛?」
鷹大には唐突な単語だった。
「羽の根っ子に毛がついていたのだ! 抜いたばかりの羽だったので、湿った根っこに、くっついていたのだ。ホレ、水着の中にある毛だ!」
「水着の中にある毛って? あの毛?」
「そうだ。でも、もう取ったから無いぞ」
「不潔ですわ!」
ナイは身を縮める。
「あの毛!」
ブオーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! チャバ チャバ チャバ
鷹大の鼻から鮮血が噴き出し、湿った地面に飛び散った。
「ハズ目だ! 鷹大がハズ目になって血を吹いたぞ! なんと! おぞましい!」
パイは羽を持ってない手で、鷹大を指差しながら後退り!
「パイのせいですわ! 変な毛のせいですわ!」
「変な毛ではないぞ! 大きくなると誰もが生える毛だぞ! ナイだってあるだろう?」
「そんなこと、よく平気で言えますわね! み、見るのですわ! 鷹大がさらに重症ですわ!」
鷹大は
頭を前方に突き出し、顔を下に向けて、流血を受け止めようと、両手で鼻と口を覆っている。
この体勢は、鼻血の被害がTシャツに及ばないための配慮だった。咄嗟の出血に慌てたが、思ったほどには、我を忘れていなかったようだ。
鷹大が下を向いているので、パイとナイからはハズ目が見えない。
鼻血を出しながらのハズ目は、どんなだろう?
怖いもの見たさが、パイを
パイはしゃがんで、下をむいてる鷹大の顔を、見上げるように覗き込んだ。
「わっ! ハズ目だ! 強烈なハズ目だ!」
パイは後ろへ、すっ飛んだ!
荒れ狂う助平な想いと、懸命に静めようとする想いが、交互に現るような、喜びと我慢が交錯するようなハズ目だった。
「パイのせいですわ! 恥ずかしいことばかり言うから、鷹大がハズ目になったのですわ!」
「でも、鷹大はオリたちの、どこにも触ってないぞ!」
なんとも、不思議そうである。
「鷹大はパイの言葉を聞いて、1人で勝手に妄想してるのですわ!」
「オリのせいか? 『誰もが生える』と言うだけでもダメなのか?」
「違いますわ! もっと広い原因によるハズ目ですわ! 毛と言ったところから全部ダメなのですわ!」
「毛と言っただけで、ハズ目になるのか? 毛に触らなくてもか?」
子供のように実感がないようだ。
「触らなくても、助平が伝わるのですわ!」
ナイ1人がお姉さんである。
「そんなことより、ホレ、羽だぞ!」
パイは再び羽を差し出した。鷹大なんて、ほっとけって感じだ。
ナイは身構える。
「そんな不潔なもの! 持てませんわ!」
「動物に襲われるぞ! 痛いぞ~! 死ぬぞ~!」
パイは、ナイの不安をかき立てる作戦だ。
ナイの心は揺らいでいるが、安全よりも毛がついていた事実が上回っていた。
「それでも不潔ですわ!」
「ナイだって、同じだろう? 毛が生えているのは!」
パイは、いまいちナイの気持ちを理解できないでいる。
「自分のと、他人のとは、違いますわ!」
「じゃあ、羽はいらないのか? それならそれで、オリは構わんぞ!」
今度は、パイの意地悪作戦である。
ナイは困ってしまう。
「うー、あんなに痛くて怖い思いは、2度とゴメンですわ! ですけど、不潔なものを水着の中に入れたくありませんわ! いったい、どうすればいいんですの?」
ナイは身動きが取れなくなってしまう。
鷹大よ! 鼻血を出してる場合じゃないぞ!
「ナイは、羽を持つべきだよ!」
鷹大がシャキッと顔を上げた。
助平な気持ちは
ハズ目も治っていた。
鷹大は、キリッとナイを見据えた。
真面目にナイが心配なのだ。
「ナイが羽を持たないと死ぬかも知れないんだ! 俺はナイに死んで欲しくないよ! 我慢して受け入れてよ! 命には変えられないだろう!」
鷹大は心を込めて訴えた。
「そんな血まみれの顔で力説されても、心に響きませんわ!」
顔の下半分は真っ赤なままだった。
助平な鼻血を拭いてなかった。
「いや、その、これは、……」
鷹大の勢いは、フニャフニャと地面に落ちる!
ナイは真剣に悩む。
「私も、仕方ないと思っているのですわ。……そうなのですが、心の底で、拒絶してしまうのですわ!」
安全と不潔の板挟みに陥っていた。
フーーーーンッ! チャッ
フーーーーンッ! チャッ
鷹大は鼻息を、片方ずつ吹き出す。その勢いで鼻の穴に残った血を掃除した。
顔に付いた血を掌で拭き、拭いた手を両手で
それを何度か繰り返し、最後に手の甲から腕を使って、鼻の下から口の周りをぬぐった。ついていた血は、顔の血色に紛れるくらいに、ほどよく取れた。
鷹大は意を決する。
「それなら、強硬手段だよ」
ナイの後ろに回った。
ナイは疑問符を出すほどに、何が何やら分からない。
そんなナイの両手首を、鷹大がつかみ、グイッと持ち上げた!
ナイの足がプラプラと浮く! 手首から吊り上げたのだ。ナイの体は軽いので鷹大には楽勝だった。
「いやーーーー! 放してーーーー!」
バタバタ!
ナイが足をバタつかせて体を揺する。
バンザイ状態になったナイは、胸も、どこも、全くの無防備だ! ツルペタビキニのツインテールだから、年齢を誤ってしまいそうで、危ない!
巨乳であるパイとは異なる次元の、いやらしさが満点となった絵面である。
「何をするんですのーーーー!」
ナイの悲痛な叫びに、鷹大は答えず、パイに指示を出す。
「パイ! ナイの水着を開けて中に羽を入れるんだ!」
「オリが、ナイのパンツを降ろすのか?」
パイが、とぼけたことを言いだす。
「ダメーーーーーーっ! そんなこと、してはなりませんのーーーーーーっ!」
ナイは足をバタバタ! 体はクネクネ! 貞操の危機が迫り来る。
鷹大にとっても、思いもよらない!
「ち、ち、違うよ! 降ろすんじゃないよ! 水着の中に羽を入れるんだよ!」
鷹大とナイの慌てた様子に、パイはにんまりとする。
「実は、知っていたのだ。からかっただけなのだ。それで、オリが羽を入れるのか?」
鷹大はひとまずホッとした。
「そうだよ! 俺がナイを持ち上げている今のうちに入れるんだ!」
「そんなことやめるのですわ! 吊られた上に裸に近い姿で『入れる』なんて言われては、恥ずかしくてたまりませんわ! 手だって痛いですわ! 不潔も嫌ですわ!」
ナイの顔はもう真っ赤だ!
しかし、鷹大は譲れない。
「ナイ! 我慢してよ! 動物に襲われないためだよ!」
「今! 襲われていますわーーーーーーーーーー!」
バタバタ!
鷹大も赤面しそうだ!
「もう! 人聞きが悪いこと言わないでよ! パイ! 早く羽を入れて!」
パイが近づいて、ナイのボトムビキニに手をかける。
まるで嫌がる女の子のビキニを脱がす寸前である!
ナイの貧乳が追い討ちをかけて犯罪的にHな光景だ!
「いやーーーーっ!」
バスッ!
ゲホッ!
蹴った!
ナイがパイの腹を蹴った。
「い、痛い! 痛いぞ、ナイ! お前のためにやってるのに! 蹴るとは、ひどいやつだな!」
「こんなの、2人に
バタバタ! バタバタ!
ナイが吊られた体を激しく揺すって抵抗する。
それでも、全く揺れない胸が痛々しいのではあるが、そのスジの人が見ると、曲がった本能をくすぐられるナイの胸だ。
どんなに嫌がっても、ナイには羽が必要だ!
鷹大は心配なのである。
「嫌と言われても、ナイが自分で羽を持てないんだから、仕方ないじゃないか! これは、命に関わるんだよ!」
泣きそうなナイ。
「持てないわけでは、ございませんわ! 仕方ないとは、思っているのですわ! ……わ、分かりましたわ! 自分で羽を持って入れますわ! ですから、放してくださいませ!」
やっと、観念したようだ。
「よかった! 自分で入れるんなら放すよ」
鷹大はナイの足をそっと地面に降ろしてから手を放した。
つま先から
ナイが羽を持つには、勇気と決心が必要だ! ナイは気持ちを入れ直した。
「ほら! ナイ! 羽だ!」
パイが羽を差し出す。白くてきれいだが、ナイには不潔な羽だ。
鷹大につかまれていた手首をさすりながら、ナイは気持ちを落ち着かせる。
無理やり付けた決心を武器に、勇気をもって羽に立ち向かおうとした。
「い、いただきますわ。………………………………やっぱり、ダメですわ!」
羽に伸ばした手を、触れる寸前で引っ込めてしまった。
まだ勇気が足りてなかったのだ。
パイには、もどかしい。
「ナイ! 自分でやると言ったのだ! 鷹大も羽を持っているから襲われないのだぞ! 早くするのだ!」
聞いたナイの顔が、輝きだした!
「それよ! それですわ!」
ナイが放っていたマイナスの気が、プラスに反転した瞬間だった。
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