第20話 第七章 怖い動物たち(3/8)
【地獄(?)に落ちた
「虎ですわ!」
15分ほど走ると、とうとう怖い動物の1頭が、3人の前に現れた!
モヤが濃くなっていたのか、数100メートルくらい先に、急に横向きの姿が現れたように見えた。
3メートルは優にあるホワイトタイガーだ。
「こいつにはとても勝てないよ。逃げるしかない!」
そう言っていたら、ホワイトタイガーもこちらに気付いた。
真直ぐに駆けて来る!
「やべっ!」
鷹大は2人を抱えたまま走って逃げる!
だが、ホワイトタイガーの足が勝る。
鷹大の逃げる先、逃げる先に、先回りする。
逃げ道を塞いで、もてあそぶかのようで、精神的なダメージを与えているみたいだ。
鷹大の足が止まり、ホワイトタイガーと睨み合う体勢になった。
おもむろにパイが、ホワイトタイガーへ待てと言うように、
そして、落ち着いた声で話しかけたのである。
「虎よ! あっちへ行くのだ! 食ってもオリたちは水になるから食えんぞ! 餌にならんのだ! 殺すだけ無駄と言うものだ!」
パイが偉そうに
言葉なんて効果があるのか?
鷹大は、パイのおかしな行動に
ホワイトタイガーは、じっとパイを見ている。パイも鏡のように見返す。
スッ!
なぜかホワイトタイガーは、突然行ってしまった!
足が速い。すぐにモヤの向こうへ見えなくなった。
「やったぞ! オリが言い聞かせたら逃げたぞ!」
パイは鷹大に抱えられながら、ガッツポーズ!
「どういうことですの? 獲物が目の前にいるのに、どこかに行くなんて、……。よく分かりませんわ!」
「そうだね。でも、よかった。先を急ごう!」
鷹大が2人を抱えたまま、ゆっくりと走り出す。
安定感の無い走りだったし、ホワイトタイガーが逃げたので、鷹大はこれまでよりスピードを落として走った。
「虎とは案外利口な動物なのだな。オリの言葉を理解できるなんてな」
パイは自分が虎を追っ払ったと言いたいみたいだ。
でも、違うと、鷹大は思っていた。
「パイが言ったから、虎が逃げたんじゃないと思うよ」
「虎は襲っても無駄と思ったから、逃げたのではないのか?」
「そんな感じじゃなかったよ」
「なら、鷹大が大男だから、虎が怖がって逃げたのだな」
「怖い様子じゃなかったよ。どっちかと言うと、興味がなくなったみたいだったな」
ナイも同調する。
「そうですわね。鷹大が言うように、興味がなくなったと言いますか、急に餌と思わなくなったと言いますか、えーと、襲う気が失せたように見えましたわ。パイの言葉は、全然関係ないと思いますわ」
ちょっと意地悪っぽかった。
「うーん、そうだな。ナイの言うことにも一理あるかも知れんぞ」
パイは意外にも、意地悪っぽく言ったことを肯定した。
「よかったあ~。また喧嘩になるかと思ったよ」
「オリは喧嘩好きではないのだ!」
心外だと言わんばかりの顔で、鷹大を見上げている。
「こめん、ごめん。でも、どうしてパイは、ナイの言う通りと思ったの?」
「鳥に襲われる前、オリは遠くで他の人間が襲われていたのを、いっぱい見たのだ。今のように行く手を邪魔するなんて、1回もなかったぞ。
人間を見つけたらすぐに襲いかかっていた。確かに行動が違うのだ。だから、鷹大が大男で違う人間だからと思ったのだ」
ポンポン
パイが鷹大の腹を軽く叩いた。
「そういう感じとも違いますわね。しばらく様子を見ていたようでしたわ」
ナイは悩んだ風。
「そうだな。鷹大を見て、すぐには逃げなかったのだ」
「なぜ逃げたのか、よく分かりませんわね」
2人から結論は出そうになかった。
「何にしろ、ラッキーだったよ。先へ進もう! 宝の匂いは、こっちでいいんだよね」
「はい、その方向でよろしいですわ」
鷹大は宝に向けて走った。
30分ほど、ゆっくり走ったが、鷹大はだんだんと疲れてきた。
「ごめん、2人は軽いのに腕が疲れてきたよ。足は鍛えたけど、腕は足りなかったみたいだ」
立ち止まってしまった。
「もういいぞ! 鷹大! オリは歩くぞ!」
「私も歩きますわ! 地面に降ろして、よろしくてよ」
「ごめん、そうさせてもらうよ」
2人を地面に立たせた。
陸上部員だって腕を鍛えているのに、鷹大は情けない。
「ごめん、この先、動物が来ない保障はないけど、少しの間、歩いてよ」
「まあ、無理するな鷹大! こっちからいい匂いがするぞ! こっちだぞ!」
パイが先頭になって歩きだした。ナイと鷹大が続いた。
動物にやられている人間の声が、どこか遠くから聞こえてくる。危険からは、まだ離れていないようだった。
15分くらい歩くと、パイが立ち止まった!
「鷹大! 行く手がすごいことになっているぞ!」
それじゃ分からない。
「パイ! すごいことって何?」
「たくさんの動物が人間を襲っているぞ!」
数100メートルくらい離れた場所、モヤでかすんでいるものの、何頭もの動物たちが水着を着た大勢の人間を取り囲み、数頭ずつ入れ替わりながら、人間を追い回している光景が見えた。
1頭の熊から逃げても、別の狼に噛まれて、人間は水になっている。複数の動物による
鷹大には他の人間も助けたい気持ちもあった。しかし、相手は猛獣であるし、武器はないし、出て行ったらパイやナイを危険に
第一、複数の猛獣を、自分ごときが倒せるはずがないと思った。常識的には鷹大が食い殺される側なのである。
諦めるしかなかった。
「戻ろうよ! これじゃ、先に行けないよ」
「でも、あっちに宝があるのだ!」
パイは
「そっちへは進めませんわ。迂回するのですわ! 右側に大きく回ってやり過ごすのですわ」
「そうしよう、パイ! こっちへ行こう!」
「匂いとは違う方向だけど仕方ないのだ」
鷹大たちは、大量殺戮現場に近づかないように迂回コースをとった。
「手をつなごう! 君たちは足が遅いからね」
「そうだな、ホレ」
パイが手を差し出す。ナイとも手をつないだ。
柔らかい手の温もり、2人は俺が助けると、鷹大の気持ちは高ぶった。
「気がつかれないように静かに進もう」
「そうですわね」
急ぎつつ目立たないように、殺戮現場に注意しながら、しばらく歩いた。
ビチャ ビチャッ!
速い足音! 湿った地面を蹴る音だ!
殺戮現場と、逆方向。
ライオンだ!
白いほどに薄茶色の、先ほど出会ったホワイトタイガーくらいに大きいライオンである。
もう10メートルくらいの場所、加速して迫ってくる!
そっち側にはナイがいる!
ナイは一度襲われているので、殺戮現場から遠い側を歩かせていたのだが、反対側からライオンが来たので、逆にナイが1番近くなった。
助けたい!
なぜか、ライオンは鷹大を跳び越す。
「まずい! パイが1人になってしまった! ライオンはパイを狙ってたんだ!」
鷹大は頭を上げた!
パイは何メートルか逃げたようで、離れてしまっていた。
ライオンがパイの前で横方向に歩いている。パイに向かって行かない!
パイは、地面に座りこんで泣きそうな顔だ。恐怖で足が震えている。ホワイトタイガーを嗜めたことも忘れてるみたいだ。ライオンを見ているしかできない。
「パイ!」
鷹大は大声を出してパイを呼んだ。ライオンの注目をパイから
ライオンは一瞬、鷹大を見たが、すぐにパイを睨んだ。
「パイ!」
再度大声を上げて、注意を向ける。
ピクンッ!
ライオンが声に反応したと思ったら、どういうわけか、殺戮現場へと走って行った。
そして、すぐに殺戮の輪に加わったのである。
ダッ! タッ!
鷹大はナイを脇に抱えてパイへ駆け寄った。
「怖かったのだ~~! 殺されると思ったのだ~~! 鷹大はズルイのだ~~! ナイばっかり助けて~~! オリもかばって欲しいのだ~~!」
パイが泣きながら抱きついてきた。
「ごめん! ナイの側からライオンが来たから、咄嗟にナイを押さえちゃったんだよ」
ナイがパイを鷹大から引き剥がす。
「もう! パイは泣くのをやめるのですわ!」
「怖かったのだ~~! あ~ん!」
立ったまま泣く。
「大声で泣いていると、動物を呼び寄せますわよ!」
「うぐっ!」
パイは声を呑み込んで、両手で口を塞いだ。
「さあ、早くここを離れよう! 疲れてるけど、がんばって2人を抱えるよ」
鷹大は2人を抱えると、注意をはらいながら、その場から遠ざかった。
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