第七章 怖い動物たち

第18話 第七章 怖い動物たち(1/8)

【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイと貧乳のナイと一緒に、手に入れれば生き延びられるという宝を探すことになる。溶岩に追われながら火山の裾野を走り、流れが速くなった川をさかのぼって、上流にあった平地へとたどり着いた。3人には仲間意識が生まれていた。泳ぎ疲れて眠ってしまったナイを背負い鷹大たちは宝を目指す。宝の匂いがする方角をパイが示した。その地へ向けて歩き始めたのであった】




   第七章 怖い動物たち


 木も草も生えていない湿った砂地に、曇り空が垂れ込め、遠くにはモヤがかかって視界は悪く、風は特に感じず、蒸し暑い。


 決して快適ではない平地であった。

 そんな平地をパイを連れ、眠るナイを背負って鷹大は歩く。


 左右両側の遠方には、ソラマメくらいにしか見えない人間たちが、大勢で列を作っている。

 でも、ここには3人だけ、仲間と言える3人だけしかいない。3人だけの静かな世界であった。


 鷹大はこの小さな世界に、仲間という小さな幸せを感じながら歩いていた。


「おい! 嫌な声が聞こえなかったか?」

 パイが思いもよらないことを言い出して、静かな世界の沈黙を破った。


 鷹大は幸せに浸っていたので、声なんて聞いていない。

「嫌な声? どんな声? 人間の声?」


「そうだ、人間の声だ! 悲鳴のような、叫び声のような、すごく嫌な声だ!」

 そう言うとパイは、つかんでいた鷹大の腕を放して、鷹大の前に立つと、しかめっ面をして見せた。くさいニオイを嗅いだような不快な顔だ。


「うーん」

 鷹大は耳を澄ます。


『キャーーーー!』


「聞こえた! 遠くで女の人が叫んでるぞ。悲鳴に聞こえるよ。どうしたんだろう?」


「分かったぞ! あっちだ! あっちを見ろ!」

 パイが右側を指差す! 見ると、遠くの列が乱れてる。川の岩壁に沿って登った時にできた人間の列だ。


「うーん、モヤで見えにくいけど、人が入り乱れて走ってるな。何があったんだ?」

「白っぽい大きな動物に追われてるぞ!」

 パイは目がいいようだ。


「動物?」

 鷹大は地獄(?)に落ちて以来、生き物は人間しか見ていなかった。

 地獄なので鬼が存在するにしても、草も木も生えてないし、豊かな自然などは無縁と、思い込んでいた。なので、動物が棲んでいるなんて、考えてもみなかったのである。


 鷹大は目を凝らす。

「うーん、動物、動物、どこだ?」

 白いような薄茶色のような素早く動く物体を発見! 近くにいたトランクス水着の男と比べると2倍以上もあり、かなり大きい。


「白熊か? いや、真っ白じゃない! 白っぽい薄茶色の熊だ! ここには熊がいるの?」


「そのようだな! その熊が人間を襲っているぞ! 食われた人間が水のように融けるので、熊は次々と人間を襲っているみたいだ!」

 パイは冷静に観察している。


 鷹大には、他の人たちを助けたい気持ちも少なからずあった。


 しかし、相手は猛獣である。

 鷹大1人の力では、無理と思った。猛獣が地獄の鬼に代わりであるように思えた。地獄で鬼に打ちのめされるのは仕方ないと思い、諦めるしかなかった。


 パイが動物を、さらに追加する。

「鷹大! 熊は1頭だけじゃなさそうだ! あれ? 熊じゃないぞ! もっと小さぞ! 狼か? こっちも白っぽいな」


「えっ、狼もいるの? 犬じゃないの?」

 パイは鷹大の疑問を無視して、もっと追加した。

「他に知らない動物もいるみたいだぞ! 白と茶色の、虎かな?」


「ホワイトタイガー? どこ?」

 珍獣、いや、希少動物まで出てきたのか?


「あそこだ!」

 パイの指差す方向へ、鷹大の目がりきむ、がんばって焦点を合わす。


「ライオンだ! タテガミが大きいし、縞模様はない! トラじゃなくてライオンだよ!」

 タテガミが薄茶色で胴体が白いライオンだった。


「普通より色が薄いだけのようだよ。でも何で日本にいない動物までいるんだ? 動物園から逃げ出したのか? あっ! そもそも、ここは日本じゃないんだ! 日本にいない動物がいてもおかしくないか……」

 地獄ならリアルの生息域なんて意味がない。


「鷹大! 左側の人間もやられているぞ!」

 パイは逆側も見ていた。


 右側に気を取られているうちに、左側の列も乱されていた。人間たちは叫びながらバラバラに走って逃げている。心配になって、再び右側を見ると混乱は拡大していた。


 左右両側から、猛獣の危険が迫っている! 鷹大の小さな幸せなんて、どこかへ吹き飛んだ。

 つかみどころの無い不安が、ウンカのごとく鷹大に押し寄せる。


「ここにも動物が来るかも知れないよ! パイ! 急ごう! 走ろうよ! 走れるかい?」

「頑張ってみるぞ!」

 パイと鷹大は走り始めた。


 しかし、初めて会った時と同じ状況を、鷹大は再び目にする。


 パイは、メッチャ、足が遅かった。


「ナイに起きてもらって、2人を抱えて走った方が速いかも知れないな」

 鷹大が背中にいるナイの様子を見ようと、後ろを振り向いた。


 背負ってるから、斜め上の後ろを見た。

 視界の背景は曇った空のはずだった。


 でも、違った!


「空が白い!」

 どんよりとした雲なんかじゃなく、ぼんやりとした霧でもない。


 輝くような白!


 翼だ!

 ツヤツヤとした白い羽が整然と並んでいる。大きな翼が鷹大の頭上を覆っていた!


「きゃーーーーーー! 痛いですわ! 痛い! 痛い!」


 背負っているナイの叫び声!

 見ると、ナイの両肩を前後から挟むように、長く曲がった爪が何本も突き刺さっていた!


 皮を破り、肉に食い込み、骨に刺さるほどに握りつけている。

 その曲がった爪は、爬虫類のような鱗だらけの指から伸びていた。


「鷲づかみ! 鷲が襲ってきたんだ!」


 白い大鷲だ!

 翼の端から端までが4メートル以上はある。


 空に君臨する王者からの攻撃だった。


 ナイが身をよじらせた。

「痛い! 痛いですわ! 鷹大! 助けて! 痛い! 変な鳥に肩が! 痛い! 痛い! 融けて死にたくありませんわ!」


 ブォッ!


 風の乱流!

 鷲の翼が空気を地面に叩きつけたのだ。鷹大は思わず目をつぶる。

 背負っていたナイの体が軽くなる。


 水になったのか? 焦る気持ちが、鷹大を突く!

「ナイ! 死ぬな!」


 目を開けると、ナイの体が浮いている! 融けて死んでしまったのではないが、鷲にさらわれてしまう!


「鷹大! 痛い! 助けてーーーー!」


 鷲の両翼がVの字を作っている! 急上昇の体勢だ!

 ナイが危ない! 空へ連れ去られる!


 次の瞬間、鷲がV字になった翼を振り下ろす!

 ブボゥッ!


 大乱気流に、地面から、しぶきや小砂が吹き上がる!

 目を開けてられないが、そんなことを言ってる場合じゃない! 鷹大は痛い目で見上げた。


 ナイの素足が頭上を登っていく!


 タンッ! ハッシ!

 とっさにジャンプ! ナイの片足をつかんだ!


「キャーーーーーーーーーー! 痛い! 痛いですわーーーーーーーーーーー!」

 鷹大の両足が無重力! 


 鷲が鷹大ごと持ち上げたのだ。


 ブホゥッ! ブッホゥッ! フワァーーーーッ!

 羽ばたいている!


「痛い! 鷹大! 痛い! 死んじゃいますわ! 痛い! 痛い! 助けて!」

 このまま飛んだら、ナイがやばい!

「ナイ! ごめん! 辛抱しんぼうして!」

 ナイがさらわれるので、手を放せない。鷹大は、こんなことしか言えなかった。


 しかし、鷲も、やばかった。

 鷹大は重かったのだ。ほんの数秒で鷹大の足は地面に戻った。


「ナイ! もう1つ我慢して!」

 鷹大はナイの足を引く!


 グイッ!

「痛いーーーーーー!」

 かわいそうに! ナイが綱引きの綱状態!


 でも、鷲は降下! 鷹大はナイの足を放して、鷲の足を新たにつかみ、グォッと空から引きずり降ろした!


 バズーーーーンッ!

 引いた勢いで鷲を地面に叩きつけた! その衝撃でナイが開放される。


 鷹大はまだ、鷲の足をつかんだままである。

 鷲が鷹大の指に噛みつく! 我慢しろ! 放してなるものか!

「空に返したら、また上から襲われる!」


 指を食い千切られるほどに痛いのを我慢して、鷹大は鷲の上に倒れ込む。身を呈してワシの離陸を阻止した。


 鷹大は鷲の背中に乗るには乗ったが、鷲は首を後ろに回して、くちばし攻撃!

 鷹大の手や顔に傷が走る! だが、ナイやパイを連れ去られるのに比べたら、なんともない。


 鷹大は鷲の足を放して、両膝りょうひざで鷲の体を押さえ直すと、Tシャツを脱いで鷲の頭にぐるぐると巻き付けた。


「これでどうだ!」

 バサッバサッ グガッグガッ

 視界を失った鷲は、翼と足を使ってもがく!


 でも、このままじゃあ、鷲を押さえただけ、何も解決しない!

「どうやって鷲を倒せばいいんだ?」


 鷹大は猛禽類もうきんるいなんて動物園でしか見たことがない。トンビですら近所にいなかったのだ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る