第16話 第六章 バタフライ(2/3)
【地獄(?)に落ちた
「ここは? 広い! なんとも、だだっ広い平地だ! 右を見ても左を見ても、もう岩壁は見えないじゃないか!」
眼前に広がる180度が平地だった。
でも、草木が生えてないところは、これまでと同じだった。
「どうやら、岩壁の高さを知らないうちに登っちゃったみたいだ」
空は相変わらずどんよりしており、それにつながる平地の果てはモヤがかかったようになってよく見えない。
地面は、岩の上に砂の薄い層があるかのような、よくしまった砂地だ。
砂地は湿っぽく、所々に極めて小さな流れがある。地面から少量の水が染み出てわずかな流れを作っているようだ。
おそらく、この流れが集まって川となっているのだろう。
鷹大は心地よい開放感に包まれていた。それまでは、川の岩壁に挟まれたり、斜面を登ったりで、いささか圧迫感があったのだ。
「今までと全く違う風景になったね。火山もなく、ただただ広い平地だよ。火攻め、水攻めときたから、今度も過酷な環境かと思ったけど入口はそうでもないね」
鷹大にとっては、ここは地獄である。地獄らしい印象が先行していたのだ。
「はあはあ、水攻めと言いましても、大したこと、ご、ございませんでしたわ。はあはあ」
ナイは息が上がっている。
「ナイ、疲れたでしょう。しばらく休もうよ」
鷹大はTシャツと短ズボンを脱いで水を絞った。女の子の前なので、さすがにトランクスは脱がなかった。
「何やっているのだ! 女の前で下を脱ぐな!」
ドンッ!
パイが鷹大の尻を蹴った!
短ズボンを脱いだのが、気に入らなかったようだ。と、いうより異性として気にしているようだ。
自分でビキニを取ったパイだったが、逆は
「ごめん」
「無神経なやつめ!」
「……」
ナイからは、特に反応はなかった。疲れが心にも浸み込んでいるようだった。
鷹大はスニーカーの水も切って元の姿に戻った。
パイは髪の水を絞った。ナイの水切りは、すでに終わっているようだった。
「はあ、はあ、他にたくさんいたライバルたちはどこですの? はあ、はあ、……」
ナイの疲れ果てた声、2人の水切りが終わるのを、見計らっていたようだった。
「やつらは、ずっと遠くをトボトボと歩いているぞ! ここには3人だけだ」
パイが右と左を交互に指差す。
遠くはモヤっている。ソラマメほどしかない人間の列が薄っすらと見えた。右側も左側も、かなりの距離がありそうだ。
おそらく、川の両岸を登っていた人たちが、川幅のままに大きく左右に分かれたのだろう。
「はあはあ、休んでいたら遅れを取りますわ! はあはあ、進まねばなりませんわ。はあはあ」
息が整っていない。
鷹大は、ナイは歩けそうにないと思った。
「川ではパイを負ぶったから、今度はナイを負ぶって歩くよ」
パスン
差しのべる鷹大の手を、ナイは力なく払った。
「はあはあ、他人の手は借りないのですわ。はあはあ、自分の力で進むのですわ。はあはあ……、私は他の人たちに負けたくありませんわ! はあはあ」
「ナイは負けず嫌いなんだね。分かったよ。ゆっくり歩いてみようか」
鷹大は言う通りにさせて様子を見ることにした。
ナイはフラフラと歩きだす。
ビチャン…………ビチャン…………
重い足を地面に投げつけ、小さな流れを水しぶきに変えている。マジで進まない。
パイは黙ってられない。
「ナイ、全然進まないぞ! こんな速さでは結局遅れを取るぞ! 鷹大の手を借りろ!」
「はあはあ、パイは1人で先に行けばよろしいのですわ。はあはあ」
やつれたような顔を向けた。
「そう言うのは、もうできんぞ! 3人は仲間だ! 一緒に進むとオリは決めたのだ!」
「はあはあ、そ、それなら、見ていればよろしいですわ。はあはあ」
ナイは次の1歩を出せずに、ペタンと地べたに座りこんでしまった。
なんかやばい。
「ねー、ナイは歩けないくらい疲れているんだよ。休んだ方がいいよ」
「はあはあ、他の人たちに宝を取られますわ。はあはあ」
ナイは、ますます疲れていくようだ。
「ナイがここで倒れたら同じだよ。他の人たちは川の両岸を歩いてたんだ。ナイのようには疲れてないんだよ。ナイはみんなと違って長く泳いでここまで来たんだ。体を休めようよ」
「嫌ですわ! はあはあ」
休憩を受け入れないし、負ぶさるようにも言ったが、聞き入れなかった。
「なぜ、そこまで嫌がるの?」
「はあはあ、じ、自分の誇りのためですわ。はあはあ」
と、言いながら目を
何かある!
鷹大はナイの前にしゃがみ、両肩をつかんで前後に揺すって強く聞く。
「本トの理由は、何?」
ナイの肩は柔らかかった。
どうしても助けたい! 鷹大の脳裏に火山の時の想いが蘇る。握った手も柔らかかった。目にも力がこもる。
ナイの顔から意地の膜が剥げる。
「は、恥ずかしいのですわ! はあはあ、手を借りるのが、恥ずかしいのですわ。はあはあ」
「ここには他の人はいないよ」
「はあはあ、お、負ぶられているのを途中で、見られるのですわ。はあはあ」
鷹大はナイの本音と思った。これまで、ここで感じた違和感をナイにぶつける。
「なぜか分からないけど、ここでは誰も他人には無関心なんだ! 負ぶってんのを見ても、誰も何とも思わないよ! それに、パイは俺が負ぶってあげて、嬉しいって言ってたぞ」
パイも引き合いに出した。
「そうだ、オリは鷹大に負ぶってもらって嬉しかったのだ。仲間の温もりを感じたのだ」
パイだって精一杯の気持ちを伝える。
元気なパイを、ナイは恨めしそうに横目で見る。
「はあはあ、パ、パイは、は、恥ずかしくないんですの? はあはあ」
「恥ずいことなんて1つもないぞ。誰もオリを気にしてないからな」
パイは両足を踏ん張り、腰に手を当てて、ウンウンとうなずいて見せた。
「わ、私も仲間を頼っても、よろしいんですの?」
よし、もう少しだ! 鷹大はナイの両肩を強く握り締めながら、優しく言う。
「頼っていいから、仲間なんだ。仲間と思ったところから、もう、頼っていいんだよ」
ナイは気付いた。
「はあはあ、私の口から『仲間』と言ってしまいましたわね」
「そうだよ! 心では仲間と思っているだよ。俺を頼っていいんだって!」
歯切れのいい鷹大の声が響いた!
ナイはしばらく考えていたが、顔の緊張が緩んだ。
「な、なら、お、負ぶってくださいませ。はあはあ」
ナイは、そう言うと顔を赤らめた。
「ナイめ! やっと素直になったな。さあ、鷹大! ナイを負ぶってやれ!」
パイもホッとしてる。
「さあ、負ぶるよ、ナイ」
「はい、ですわ」
ナイは晴天のような笑顔だった。
気持ちが上向くと元気も出るようだ。
そんなナイは、負ぶさる時に甘えるような仕草を見せた。
パイがちょっと嫉妬する。
「ナイは胸がないから、負ぶっても鷹大はつまらんだろうな。オリの時はムニュッとして悶えていたぞ!」
「はあはあ、パイは私には胸がないと言っていますけど、少しですけどございますのよ。ほら」
ナイは負ぶさる体勢から、鷹大の手首をつかんで、再び地面に座ってしまう。
鷹大は手首を引かれ、しゃがんだままクルッと反対向きとなり、ナイと向き合った。
ピタリ
ナイが鷹大の掌を自らの胸に当てた。
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