第14話 第五章 迷路のような川を遡る(2/2)
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鷹大が上流を見ると、たくさんの人間が流れることなく、仰向けに浮いていた。
疲れていたパイもびっくり。
「水面を埋めるほどいるぞ! どうしたのだ?」
鷹大は100人はいると思った。
3人で急ぎ近寄った。
誰も力のない大の字で浮いている。
お互いの手足が接触して、大勢が1つのまとまりになっているみたいだ。
まとまりの外側にある手足が、岩壁のわずかな凹凸に引っかかり、川幅いっぱいに広がって、まとまり全体が流されないでいるようだった。
「君たちはどうしたの?」
鷹大が浮いている1人の女の子に問いかけた。
「……」
意識はあるようだが何も答えない。
そうではない!
答えないのではなく、答える力がなく口さえ動かせない感じだ。
「疲れすぎて、もう泳げないんですわ」
ナイも同じ考えのようだ。
「そのようだ。他のやつは疲れたと言っていたぞ」
パイは話を聞けたようだ。
「放っておいていいの?」
鷹大は見捨てたくない。
「ライバル同士ですわ。こんな所で疲れるくらいなら、さらに先に進むことなど、できませんわ。みんな自分の力と知恵で進んでますのよ」
ナイの基本姿勢は変わらない。
「でも、見捨てるなんて……」
「ここは地獄のような所ですわ! それに、この人たちは死んでませんし、浮いているだけですわ」
ここでは、死ぬと体が液体になっていた。体があるということは生きているのだ。
それに、この川には岸辺もない。岸に上げてやることもできない。自分にはどうにもできないと、鷹大は理解した。
「分かったよ、かわいそうだけど、ここは地獄なんだし、そのままにするよ」
少々寂しい気持ちがよぎった。
「ほら、言ってるそばから、流れていきますわ」
1人2人と、大の字に浮いたまま下流へと、静かに流れ始めた。
「両岸に引っかかっていた人たちを私たちが崩したようですわね。どうせ川の流れに乗って人柵まで行くだけですわ。私には、どうでもいいことですわ」
他人の心配なんてしない。
「鷹大! これからも他のやつらは放っておくのだ。ここでは死は近くにある。いちいち助けられない。オリも含めて全員覚悟していることだ」
「そうですわ。関わって誰かに先を越されては、自分が死んでしまいますわ。宝を手に入れないと死ぬんですのよ」
そうだった。この地獄は、手に入れないと死ぬという宝を探す競走だった。
鷹大がこの2人と一緒に行きたい言った時から、他の人たちとはライバルになったのだと気付いた。
他の人が宝を手にしたら、この2人は死んでしまうかも知れない。
鷹大の手に温もりが蘇る。手をつないで火山から逃げた時の温もりだ。
何としても2人を助けたい。鷹大の気持ちが決まった。
「悲しいけど、分かったよ。俺は君たちだけを気にかけるよ」
パイもナイもホッとした。
「それがいいぞ! 鷹大を相手にしない人間を、鷹大が気にかける必要はない!」
そう言えば、人柵の人たちは警戒していた。助けようとしても、他の人たちは鷹大を受け入れなかったのだ。決まった気持ちを後押しした。
「そうするよ」
パイとナイと鷹大の3人は、浮いている人たちをかき分けて上流へ進む。
人が浮いていた場所を過ぎたら、他に泳いでいる人が現れてきた。だんだんと人が多くなる。力尽きて流れてくる人も意外と多い。
3人は、泳ぐのが遅い人たちや、流れてきた人たちを追い抜いた。
分かれ道が現れても、これまでどおり2人とも同じ方向を示したので問題はなかった。
「あれ? あの人たち、俺たちとは違う川に進んでるよ」
鷹大が支流へ入ろうとする数人を見つけた。パイとナイが示す方向とは違っている。
「おーい! 君たち! そっちは違う道だよ!」
鷹大の声を聞いても、彼らは振り向きもせずに泳いで行ってしまった。
ナイは不満顔。
「鷹大! 他の人は気にかけないと言ったばかりですわ!」
「でも、教えるくらいは、……」
「あの人たちは、その道が正しいと思っているのですわ。好きにさせるのですわ」
「道に迷っちゃうよ」
「どの道が正しいかなんて、本当は行ってみなければ分かりませんわ。私は私の感覚を信じているだけですわ!」
パイも同調する。
「ナイの言う通りだ! やつらも自分の能力に従っているだけだ!」
「そっか、みんな自分の力を信じて行動しているんだよな。道が分らないのは俺だけなんだ。自重するよ」
パイとナイの方が正しいと思った。
「それにしても、バカなやつらだな! あっちは違う道なのだ」
「そうですわ。こっちが宝に続く道ですわ」
2人は自信たっぷりだ。
「匂いが分からない人もいるのかな?」
鷹大は個人差を感じた。
「人の能力レベルはいろいろですわ。それにあっちは流れがほとんどありませんでしたわ。疲れて楽な道を選んだのかも知れませんわね」
ナイはよく観察していた。
聞くと、これまでも流れが強い方に進んでいたそうだ。現世での川、本流支流を分ける時にも通じる気がした。
さらに10分ほど進むと、パイが遅れてきた。鷹大が心配になる。
「パイは疲れてきたんじゃないの?」
「始めから問題ないと言っている! ちょっと急げば追着けるのだ、気にするでないぞ!」
「でも、遅れてくるようになってきたよ」
「大丈夫だ。も、問題……ないぞ……」
そういう割にはトーンも落ちてる。
「意地張らないで俺の肩につかまりなよ。途中で見た人たちのように動けなくなって、下流に流されちゃうよ」
鷹大は川を歩いている。その分疲れていない。浮いているパイを引っ張るくらい、わけないと思った。
「泳げているのだ! オリは他人の力を借りたくないのだ!」
パイは無理に声を荒げている。鷹大の力を借りたくないと、強がっているみたいだ。
「でもさ、パイは抱えられて走ったし、人柵だって俺が投げて越えたんだよ。もうすでに力を貸しているんだから、今さら俺の肩につかまっても同じだよ」
すでに力を借りていると教えてやった。
パイは少し悩んだ風だったが、言いにくそうに口を開いた。
「分かったのだ。でも、その足に履いていた物の
スニーカーについて言っている。鷹大は川に入ってから、スニーカーを水につけないでいた。
鷹大は確かめる。
「くんくん、そんなに臭うのかな? 俺の鼻は何ともないけどなあ。でもごめんよ、今までも鼻の感度を下げていたかも知れないね」
チャプン
スニーカーを川に入れて素足のまま履いた。靴下は履くのが面倒だったので、短ズボンのポケットに入れる。
ナイが不思議そう。
「鷹大は、それを濡らしたくなかったのでは、ありませんの?」
「そうだけど、いいんだ。全然、大したことじゃないよ。君たちの方がずっと大切だからね。ほら、パイ、俺の肩につかまってよ」
鷹大には何の迷いもなかった。
「それでは遠慮なく、楽をさせてもらうのだ」
パイは後ろから鷹大の肩につかまり、手足を伸ばして浮いた。
鷹大がパイを引っ張って歩き出す。
パイの横で泳ぐナイは勝利を得た気分。
「やっぱり、巨乳さんは私より泳ぎが苦手だったようですわね」
「ふん! オリは鷹大の肩につかまって、う、嬉しいんだよ!」
パイは少し顔を赤らめる。
「泳ぎでは私が勝ちましたわ! 私の勝利ですわ!」
勝ち誇るナイなのだが、パイはあまり
「途中で勝っても何にもならんぞ! むしろオリはこっちの方がよかったと感じている。疲労を押さえて次に備えるのだ! それに鷹大に助けてもらっているのだ。それが、う、嬉しいんだ! カハハハ……」
照れ笑いのパイ。
拍子抜けのナイであったが、キリッと前を向いて泳ぐ。
「私は自分の力で進みたいのですわ」
パイが突っ込む。
「自分の力と言っても、ナイも鷹大に投げてもらっていたぞ」
ナイはバツが悪い。
「そ、それは、仕方なかったのですわ! パイが先に行ってしまいそうでしたし……」
困ったナイを見たパイは満足そう。
「あー、オリは楽チンだ。鷹大を好きになってきたぞ」
好きと言われて、チャンス! と、鷹大。
「それならさ、パイ! 安全になった時に、その大きい胸を、もう1回見せてよ」
クイッと後ろを向いた鷹大は、いやらしい目つき。
ここは地獄なのである。日本のモラルは抜けていた。
パイはあからさまに嫌な顔を見せる。
「その目を見ると、好きな気持ちが冷めるのだ!」
「鷹大の目は、助平丸出しですわ!」
ナイも一緒になった。
「そんなーーーー! 俺は助平な目なんて、してないよ」
「してたぞ! 助平! 助平!」
「助平な目でしたわ!」
思いっきり否定される。
「もう、分かったよ。助平なことは言わないよ」
鷹大の負けだった。
「それがいいのだ。ハハハ」
「その方が賢いですわ。フフフ」
3人には、和める雰囲気が生まれていた。
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