第五章 迷路のような川を遡る

第13話 第五章 迷路のような川を遡る(1/2)

【『せい』を諦めて火山地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイ、貧乳のナイと一緒に宝を探すことにした。火山から逃れて岩壁の裂け目に来るが、そこは川であり、上流から宝の匂いがするという。裂け目には人間がギュウギュウにつまった人柵があったが、3人はそれを飛び越えて上流側へ着水、その川をさかのぼることとなった】




   第五章 迷路のような川を遡る


 川は岩壁にできた裂け目の延長だった。人柵を越えても変わらなかった。


 垂直なツルッとした岩肌を持った高い岩壁に挟まれている。歩いている鷹大には、川底も岩の平面のように感じていた。

 

 進むにつれて、川は曲がったりもしたが、浅瀬も川原もなく、一定の川幅と深さを維持して、川の断面は常に四角い印象だった。


 鷹大には、人間の手が入った人工水路のように思えた。


 流れにも特に変化はなく、ゆっくりと一定であり、流れというより、溜まり水が少しづつ動いているかのようである。


 鷹大はTシャツ・短ズボン姿で、手には濡れないようにスニーカーを持っている。着ている分、水の抵抗感を多少感じるものの、不思議なことに歩くのは楽だった。

 思い起こしてみれば、火山の裾野をパイとナイを持ちながら、30分くらい走った時も疲れなかった。鷹大は地獄だから楽なのだと思っていた。


 一方、パイとナイは、足が底に着かないので平泳ぎである。

 しかし、ビキニなのに速くない。幸いにして鷹大の歩くスピードと変わらなかった。

 一番に宝を見つけると言った割りには、ゆっくりという印象を鷹大は持った。


「ねー、2人は平泳ぎなんだね。クロールとかはやらないの?」

 クロールの方が速そうである。


「何だ? その平泳ぎとか、クロールとかは?」

 パイには、泳ぎの名称は通じないようだ。


「そっか、名前が分からないか。平泳ぎは君たちがやっている泳ぎ方だよ。クロールは手を左右交互に動かして、体の下側にある水をかいて進むんだ。足は後ろに伸ばして左右交互に足の付け根からバタバタするんだよ」

 手に持つスニーカーを濡らしたくなかったので口で説明したが、鷹大は説明が下手だった。


 泳ぎが得意と言っていたナイが答える。

「私はたくさん泳ぎましたけど、手や足を左右別々に動かすなんて、立ち泳ぎ以外には、やったことがございませんわ! とても真直ぐ進むとは思えませんわ!」


「大丈夫だよ。真直ぐ進むよ」

「私は嫌ですわ! そんな泳ぎ方! 私の泳ぎ方は、手と足を左右一緒に動かすこの泳ぎ方、1つですわ!」

 まんま平泳ぎをやって見せてる。でも、ずっと平泳ぎだけど……。


 もう少し2人に話を聞いたが、パイもナイも平泳ぎしか知らないようだ。

 鷹大は、2人がゆっくり泳いでいることについても聞いた。


「この川がどこまで続くか知らんのだ。走るならともかく、泳ぎで体力を失いたくないぞ」

「川は流れていますわ。止まったら戻されますわ。足も着きませんから、ここでは休めませんし、ゆっくりになるのは当然ですわ」

 言う通りであると、鷹大は納得した。2人の方が鷹大より考えていた。



 それから5分ほど経った。

「分かれ道だ!」

 上流の川が2つある! Y字路といったところだが、川だから本流と支流の合流点である。


 2つとも川幅は変わらないし、他に人もいない。参考になりそうな物もなかった。


 どっちに進むのか鷹大には分からなかったが、2人は宝の匂いをたどっていたと思い出した。

「垂直の岩壁に挟まれていて、右も左も同じにしか見えないんだけど。匂いはどっちなの?」


「右ですわ」

「そうだ、右だぞ」

 パイもナイも自信がありそうだ。


「よし、右へ行こう」


 このあと、次々と分かれ道(支流)が現れた。


 三つ又の時もあって、どこも無人で道標みちしるべもない。まるで迷路のようであったが、2人とも同じ方向を指差したので、喧嘩もなく順調に進んだ。


「四つ又だよ」

 川は4本に分かれていた。見た目の川幅は、これまで同じく変わらない。


 やはり、頼りは匂いである。

「そうですわね。1番右とその隣の道から匂いますわね」

「そうだな、2つから同じくらい匂うな。ちょっと待つのだ。センサーに聞いてみる」


 パイは足を使って立ち泳ぎになった。

 この時、生まれて初めて鷹大は気付いた。水に半分以上浸かっているパイの胸が、浮力を得て浮き上がっているのだ。


「知らなかったよ! 女の子の胸は水に浮くんだね!」

「知らなかったのか? 男ってバカだな!」


 鷹大は弓音と付き合っていたといっても、初デートで地獄(?)に落ちたのである。知る機会なんて、あるわけがなかったし、例え見たとしても、弓音の胸では浮力を実感できなかったことだろう。


 そんなことを考えて、鷹大が答えられないでいると、ナイが『バカ』に反応して口を開いた。

「わ、私は存じておりましたわ! バカではありませんわ」


 パイが胸に手をやる仕草を止めてナイを見た。

「女は知ってて当たり前だろう? ……なんだ? そうか! ナイには未体験ゾーンか! 知識だけか?」


「う、うるさいですわね! そんなことより、パイ! センサーとやらは、どうなっているんですの?」

 ナイは恥ずかしいことを言ったと後悔して、話をすり変えた。


「やってるよ! ちょっと待て」

 パイは右胸の山を両手で左右から挟み、軽く絞るようにつかんだ。両手でも、もてあます大きさだ!


 プル~~ンッ! ウル~~ンッ!


 水の抵抗を受け、スローモーションのように胸が左右に揺れている。

 鷹大には新鮮であったがコメントを控えた。パイからもナイからも、何倍にもなって返ってきそうだった。


 パイは挟む力を右と左で加減して、先端が向く方向を変えている。交互に感度を比べているようだ。

 挟みながら先っぽの向きを変えるなんて、いやらしく見え、鷹大は長く見れなかった。


「1番右だ! オリのセンサーは1番右が強いと言っている!」

 パイの声が沈黙を破った。

「私の鼻は1番右と2番目が同じくらいですわ」

「オリもそうだ。鼻では同じだが、おっぱいセンサーでは分かるのだ」


 ナイがパイのセンサーを認める。

「どちらか迷うほどですわ。変なセンサーでも信じる他ございませんわね」


「よかった。喧嘩にならなくて」

 鷹大はホッとした。

「ここは争う場面ではございませんわ」

 3人は、パイのセンサーが示した上流へと進んだ。




 しばらくして、パイが少し遅れるようになってきた。ナイが気にかける。

「パイは少々お疲れではなくて? 泳ぐ速度が落ちてますわ」


「問題ない! 始めより疲れただけだ。お前には関係ない」

 気にかけたのに、パイはそっけない態度だ。


 ナイは気に入らないのか、パイを少々つつく。

「泳ぐにはその大きな胸が邪魔ではなくて?」

「貧乳は水の抵抗が少ないから、さぞかし楽だろうな」

 パイに反撃された。


 当然ナイは応戦。

「また貧乳と言いましたわね! 巨乳はデブに通じるといいますわ! 脂肪で浮きやすくなって、よろしいですこと!」

「このやろう! オリはデブじゃない! 今は水に浸かっているが、それまでオリのビキニ姿をたくさん見ただろう! 腹は出ていない! 尻も小さいし、ナイと大して変わらんぞ! オリは断じてデブじゃない!」


 ナイが胴体全体として見れば、巨乳の分がデブと言い出し、口喧嘩に発展する。


 鷹大は見てられない。

「もう、喧嘩しないでよ! 水泳は体力を使うんだよ。本トにパイは疲れてないの?」


「問題ないと言っている。このくらいなんともない!」

「パイは私より浮いていますわ。問題ないと言うのなら、それでよろしいのでは、ございませんの?」

 鷹大もパイとナイの浮き具合を見比べる。


「うーん! よく見ると、パイの方が浮いているな」

「脂肪が多いのですわ」

「このやろう! まだデブと言いたいのか?」

 止まって睨み合う。


 止まると、少しずつ下流へ流される。進まないと戻されてしまう。

「分かったよ! 2人ともは軽いからよく浮くんだよ。それに、ここの水、いや、ここの温泉は普通の水より浮くんだよ。俺も浮力を多く感じてるんだ。川の入口でもトロッとしてるって思ってたんだよ」


「きっと、水の比重が大きいのですわ。ですから浮力も大きいのですわ。たぶん、私たちの体は沈んだりしないと思いますわ。人柵の人たちが泳げずに尻込みする理由が、よく分かりませんわ」

 鷹大には初耳だった。


「え? 泳げない人たちがいたの?」

 直接話を聞いたパイが代わって答える。

「そうなのだ。川の上流側にいたやつらは、泳げないから深みに入りたくなくて、入口に向かって押していたのだ!」


 喧嘩の気がそれてきた。

 鷹大は、この話を続けようと思った。

「人柵は前後から押し合っていたのか! うーん、もしかすると、人によって浮き易さが違うのかも知れないね。だから、2人も……って、あれっ? 前! 大勢の人が浮いてるよ!」


 鷹大が上流を見ると、たくさんの人間が流れることなく、仰向けに浮いていた。


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