第12話 第四章 人柵(じんさく)、道を塞ぐ(4/4)

【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイと貧乳のナイと一緒に、岩壁の裂け目でもある川の入口に来ていた。探している宝の匂いが裂け目の奥、川の上流からするので、パイもナイも上流へ行きたがったが、裂け目にはギュウギュウに人間がひしめいて、人柵を作っており、歩いて越えられなかった。なので、鷹大がパイとナイを1人ずつ投げ飛ばして、人柵を超えさせた。そして、投げ飛ばした鷹大が1人、人柵の手前に残されたのである】


 一方、パイとナイを投げ飛ばした鷹大は、他の人たちに話しかけていた。


 岩壁にできた5メートルくらいの裂け目の奥には、鷹大より背の低い水着を着た人たちがギュウギュウに立ち、人柵となっている。鷹大は彼らに話しかけのだ。


「君たちも投げてあげるよ。向こう側に行きたいんだろう?」

「……」


 鷹大の申し出に、みんな身をすくめて黙り込んでいる。まだ、人柵によじ登っている人たちもいるが、彼らからも返事がない。


「ねー! 上流へ行きたくないの? 熱い溶岩がここにも来るんだよ!」

「……」

 誰も答えない。


 鷹大を信用していないのか。それ以上に警戒しているようだ。

 もっと説得してみたが、警戒が強まるばかりだった。


「うーん、仕方ないか、じゃあ、俺は行くよ」

 鷹大は他の人たちを投げ飛ばすのを諦めた。


 そして、岩壁へ向かう。

 人柵から2メートルくらい手前の岩壁だ。人柵ができてる裂け目の内側も茶色い岩壁が続いている。

 鷹大は、そこの岩肌を水で濡らした指で触って表面を確かめた。


「磨いたほどにはツルツルしていないな。濡れた指でも滑りにくいぞ」


 そして、川の水が染み込む砂利の岸辺まで戻り、靴下が入ったスニーカーを、片方ずつ左右の手に持った。


 さらに人柵から離れるように歩いて、岸辺から20メートルくらいの所まで下がった。


 助走距離をとったのである。


「ちょっと足の裏が痛いな」

 溶岩が砕けたような砂利に、裸足だから仕方がない。


「行くぞ!」

 裸足で地面を蹴る!


 鷹大が水溜りに向かってスタートを切った!


 ジャリッ! ジャリッ! ジャッ! ジャッ!

 全速力!


 ギュンギュンと加速する! 岸辺の斜面を駆け下り水溜りへ!


 バシャッ! バシャッ!


 水溜りに入っても速度は維持だ!

 体にしぶきがかかるよりも速く、駆け抜けて行く!


 でも、鷹大は人柵へ向かっていない!

 裂け目の岩壁に向かっている!


 指で確かめていた岩壁だ!


 ぶつかる!

 ダッ! ダッ!


 垂直の岩壁を駆け上がった!

 体を傾けてる。

 岩壁を斜めに、上流へ向かって駆け登ったのだ!


 鷹大は人柵を見下ろしながら、傾けた体が水平に近くなっても、岩壁を上流へ走る!


 足が吸盤だ!


 足の指を5本とも曲げて、あたかも足の裏に吸盤があるみたいに、壁面をつかみながら走っているのだ。


 それでも、作用反作用の法則が働く。


 岩壁に接触する力によって、体の重心が岩壁から離れていく。

 吸盤だからって、ずっと壁を走れるわけがない!


 岩壁を走れなくなる限界地点だ!


 ベチンッ!


 鷹大は懇親の力を込めて、岩壁を蹴った!


 ジャーーンプッ!


 壁面を地面に見立てて、走り幅跳びを試みた!


 ブォッ!


 空中で、一旦体を反らし、その反動で両腕と両足を前方に向け、前空き『U』の字のような滑空姿勢を作って、大気を突き破っていく!

 体を反らして、『U』の字に変わる時に、岩壁を走った水平に近い体勢から、上下が普通の体勢に戻していた。


 クルッ!


 人柵を越えそうになったので、空中で前方回転!

 強く両腕を振り下げて、その勢いを利用して体を回転させたのだ。


 頭が下向きへ下がり、後ろへと回り、上に戻るより少し前に、『U』の字を開いて、両手を高く上げて体を伸ばした!


 ジャブンッ!


 足から真っ直ぐに着水!

 大量の水しぶきを、パイとナイにブッかけてやった!


 まるで、軽業師と見まごうばかりの跳躍であった。


 パイは目を白黒!

「本当だ! 走って、飛んだぞ! 壁を走って飛んだぞ! それに体が回ったぞ!」

 初めてサーカスを見たほどに興奮している。


 反して鷹大は余裕を見せる。

「鼻に水がは入っちゃったな。フー、お待たせ、びっくりした?」


「驚いたってもんじゃございませんわ! とても私にはできない芸当ですわ!」

 ナイも、興奮していた。


 鷹大は走馬灯を思い出した。

「俺は子供の頃、野山を駆け回ってこんなことをよくやっていたんだ。それに、高校では陸上部だったから自信があったんだよ」


 パイは、まだビックリ目玉。

「リクジョウブとは何かは知らんが、ずいぶん超人的なことをしていたのだな! 岩壁を走るなんてな!」

 パイの中では陸上部はサーカスと同列になっている。


「いや、陸上部では壁は走らないけどね」

「そうか? それでもすごかった。興奮したぞ! オリは壁を走る人間を初めて見たぞ! それにナイも飛んでくるし、そうだ! オリも空中を飛んだのだ。忘れていたぞ!」

 パイはまだ興奮と感激が入り混じっている。


 でも、裏腹に鷹大は視線を落とす。

「他の人たちも投げ飛ばそうと思ったんだけど、誰も答えてくれなかったよ。なんだか寂しかったな……」


 ナイはハッキリと言ってやる!

「それが当たり前なのですわ! ここでは他人の力なんて当てにしないのですわ。私は鷹大と一緒にいたので、きっと免疫がついたのですわ」

 他人の力を当てにしない。前からそう言ってた。


 ふと、パイを見ると、鷹大をまじまじと見てる。

「それにしても鷹大はこの川底に足が届くのだな。オリは立てないから泳いでいるぞ」

 パイもナイも立ち泳ぎだ。


 でも、体が軽いためか、せわしく手足が動いていない。

 方や鷹大には肩が出るくらいの深さである。なので、飛び込んだ時には足が底についた。


「そうみたいだね。スニーカーが濡れていいと諦めたら、俺も泳ぐよ」

 鷹大はスニーカーを水面に入れないように両手に持っていた。飛び込んだ時も両手を挙げていたのだ。


 鷹大は、改めて2人に、靴について聞いた。パイもナイも履いたことが無いようだった。


「やった! オリは足の裏勝負で、鷹大に勝ったのだ!」

「私もいつも裸足でしたわ! 私も勝ちですわ!」

 フフーンと、2人は誇らしげに鷹大を見る。足の裏勝負では、裸足の方が勝つようだ。そして、鷹大にも対抗意識がありそうだった。


 一方、鷹大は勝敗などは、どうでもよかった。

「はいはい、俺は2人に負けましたよ」


 満足したナイが1つ息を吸った。

「それでは3人で進むのです!」

「3人で生き抜くのだ!」

 パイも元気に息を吐いた。


「足の裏勝負よりも、連帯感が生まれてくれて、俺は嬉しいよ」

 3人は川を上流へと進み始めた。


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