第11話 第四章 人柵(じんさく)、道を塞ぐ(3/4)

【地獄(?)に落ちた鷹大たかひろは、巨乳のパイと貧乳のナイと一緒に、岩壁の裂け目まで来た。2人によると、裂け目は川であり、宝の匂いが裂け目の奥、川の上流からするので、上流へ行きたいと言う。しかし、裂け目にはギュウギュウに人間がつまり、人柵じんさくとなっていた。人柵の向こう側には川面が見えるため、鷹大はパイとナイを1人ずつ向こう側へ投げ飛ばすことにしたが、その前にビキニでいる理由を聞いた】



 そもそも、どうしてビキニで走っていたのだろうか?

「ねー、今まで聞きそびれていたけど、どうして2人ともビキニなの?」


「知らん! 気付いたらこの姿だったのだ。でも、これから川を行くから、ちょうどいいぞ」

 パイはビキニの理由など知らないようだ。


「私も同じですわ」

 ナイも知らないみたい。


 地獄では水陸両用が普通ってことなのかな? 気温も高いしビキニが合ってるのかもな。

 鷹大は不思議な力が働いたように納得し、それ以上聞かなかった。


 投げるとは言ったものの、鷹大は人間を投げ飛ばした経験がない。陸上部だが、ハンマー投げの経験すらなかった。


 でも、ハンマー投げはヒントとなる。


 鷹大はスニーカーを脱いで岸辺に置き、靴下をその中に入れて、素足で水溜りに入った。


 なま暖かく、温泉の川みたいだ。両手で水をすくう。透明だがトロっとしている。濃い温泉のようだ。もしかしたら、消えた人間の液体も混じっているからかも知れない。


 ……くんくん……

 特に変なにおいはなかった。温泉の臭いもない。


「早く投げろ、鷹大! オリを投げろ!」

 パイが鷹大にすがって来た。一方、ナイは黙って何かを考えている。


「ナイはどうするの? 一緒に行くでしょ。それとも泳げないの?」

「泳げますわ! 水泳は得意ですわ! 私は自分の力だけで、進みたかったのですわ。でも、仕方ありませんわね。まず、パイで試してからにいたしますわ」

 ナイは鷹大の手を借りたくなかったが吞み込んだ。そして、用心深いみたいだ。


「オリは実験台か?」

「そうですわ! 私が本番ですわ! パイが失敗すれば、その教訓を私に活かすのですわ」


「ナイの臆病者め! キ○タマついてんのか?」

 パイがナイの股間を指差す。


「下品ですわ! 下品巨乳ですわ! ついているわけ、ございませんわ! 自分だってついていらっしゃらないのに! バカですわ!」

 慌てるほどに顔を赤らめる。


「そうだった! そうだった! オリもなかったっけ! でも、ナイは臆病だな!」

「空中を飛ぶなんて初めてですのよ! 慎重なだけですわ!」

 プイッ! 赤らめた顔で、そっぽを向いた。


「ふん! 臆病者は後回しだ! 鷹大! 失敗するなよ! さあ、オリを投げろ!」

 パイがやって来て、両手を鷹大に突き出した。

「子供みたいだな……」


 鷹大はパイの左手と左足を、左と右、それぞれの手につかんで持ち上げる。やっぱ、軽い。

 パイの体は横向きに吊られた。柔軟性のあるパイの股関節は思いの他、外側に曲がった。


「足や手や、その他の場所とか、痛くない?」

「なんともないぞ」

 股関節も痛くないようだ。


「空中で安定するから、頭を先頭にして飛ばすよ」

 そう鷹大が言うと、パイは飛んでいる体勢を想定して、フリーな右足を体の延長線上に伸ばした。


 ビキニの足が90度くらい開いて、Hっぽい。

 鷹大は、いけないことをやってる気分だ。


「きゃはは! 面白そうだぞ!」

 バチャバチャ!


 パイは自由な右手で水面を叩いて遊んでいる。無邪気だ。鷹大のいけない気持ちがしぼんでいった。




「さあ、やれ! 投げろ!」

 遊園地の前で乗り物をせがむ子供のようだ。


「じゃあ、……行くよ!」

 パイを後ろに大きく引いて反動をつけて1回転!


 グルンッ! シャッ!


 腰の回転力を利用して、力いっぱいに投げ飛ばした。ハンマー投げを参考に回転したのだ。でも、慣れていないので、手を放すタイミングをとり易い1回転に留めたのだった。


 ビューーーーン!


 パイは空中で頭を先頭にして気をつけの姿勢、1本の棒のようになって人柵の上空を飛行する!


 川幅のほぼ真ん中! 向きは成功だ!


 人柵の上を歩く何人かが見上げている。その拍子に人柵の中へ落ちる人もいた。


 ビシャン!


 人柵を楽々と飛び越して頭から着水した。


「成功いたしましたの?」

 ナイが心配そうに聞いてきた。


「大丈夫みたいだよ。無事に向こう側へ行ったよ。ほら、パイが手を振ってる!」

 鷹大はピョ~ンと跳んで確認した。


「パイが行っちゃいますわ! 先を越されますわ! 早く私を投げるのですわ!」

 ナイが慌てて近寄って来る。


「それは大丈夫、パイは待っているみたいだよ」

 水面に浮かぶパイの頭が見えていた。


「おかしいですわね。みんな1人1人で行くはずですのに、ライバルを出し抜くのが当然のはずなのに……」

 ナイは疑問の色を隠せない。


 その反面、鷹大は希望的にとらえたかった。

「パイには仲間意識が芽生えたんじゃないかな。ナイはどう?」


「私は、……まだ分かりませんわ。それはいいにして、鷹大はどうするんですの? あなたは、この人柵をどうやって越えるんですの? それとも、ここに留まるつもりなんですの?」


 鷹大の顔に一点の曇りもない。


「なんとかなると思うよ。走って、跳んでみるよ」


「走る? どこをですの?」

「いいから、いいから、さあ、行くよ!」

 鷹大はナイを軽くあしらうように急かした。


 パイの時と同じように、ナイの左手と左足をつかんで持ち上げる。

「足とか、痛くない?」

「痛くありませんけど、足が開きますわ! 二重の意味で恥ずかしいですわ!」


 二重?

「どうして二重なの?」

「手を借りている姿を他の人間に見られている上に、足が開いたのも見られてるからですわ。さあ、早くするのですわ!」

 顔が赤い。人柵になっている人たちに見られて恥ずかしいようだ。


 恥ずかしがっているので、パイよりもHに見えてしまう。鷹大は、とっとと投げてしまおうと思った。

「そっか! じゃあ、行くよ!」

「よろしいですわ」


 グルンッ! シャッ!

 力を込めてナイを振り飛ばした。


 ビューーーーン!


 ウニュウニュ

 空中でバランスが崩れた!


 ナイは咄嗟に足を抱えて体を丸くする。人工衛星のようにクルクルと回転しながら人柵の上を飛んだ。


 バチャン!


 人柵を越えて着水した。鷹大が慌てたせいで少々バランスを崩したが、ナイが機転を利かせて丸くなったので、失速せずに済んだようだ。


 近くにパイがいた。

「丸まって回っていたが、無事に着いたようだな、ナイ! ここは深いぞ! お前は泳げるのか?」

 パイは立ち泳ぎをして、ナイを待っていた。


「バカにしてはいけませんわ! 泳げますわ! 走るよりもずっと得意ですのよ! でも、少し目が回りましたわ」

 フワフワが残りながらも、ナイも立ち泳ぎを始めた。


「おい! ナイ! 胸のビキニがずれて貧乳が見えてるぞ!」

「変に着水したからですわ! は、恥ずかしいですわ! すぐに直しますわ!」


 イソイソ

 ナイは後ろを向いてビキニを直し始める。

 パイはナイの貧乳を見ても特にバカにしなかった。ナイは調子が狂ったみたいに思った。


 パイが付け加えた。

「オリはパンツの方が半分脱げたんだ! 横の紐をしめ直したぞ!」

「そ、そんなこと、いちいち報告するものではございませんわ!」

 やはり、調子の狂うナイである。


「そうか? ……そうだ! ナイが来る前に、人柵の上流側にいるやつに聞いてみたんだ。こっち側にいるやつらは、泳ぎが苦手なんだそうだ。それで先に進めず、留まっている所へ次々と人が入ってきて、ギュウギュウになっているようなのだ」


「泳げない人たちが邪魔していたんですわ。きっと、深みに入らないために上流側からも人柵に向かって押しているのですわ。泳げないなんて、不完全な人たちですこと!」

 ビキニを直したナイがパイへ向いた。


 パイは何か心配そう。

「それにしても鷹大もこっちに来る気か? 何か言ってたか?」

「走って跳ぶと言ってましたわ」

「走る? どこをだ! 人柵の上か?」


「鷹大は大きいし重いから、きっと無理ですわ」

「それなら、どこを走ると言うのだ!」

「教えてもらえませんでしたわ」


 2人とも少し心配になった。



 一方、鷹大は……。


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