第10話 第四章 人柵(じんさく)、道を塞ぐ(2/4)

鷹大たかひろは、巨乳のパイと貧乳のナイとともに、火山弾や迫る溶岩から逃げ、また、宝のいい匂いをたどって、岩壁に開いた裂け目までやってきた。裂け目は奥へ続く川であり、パイもナイも宝を求めて奥の上流へ行きたがるが、裂け目にはギュウギュウに人間がつまる様に立って、人柵じんさくを作っていた。隙間もないほどで、上流へは進めそうもない。鷹大は何か方法がないか、川と人柵の観察を始める】



 鷹大は、パイとナイ、そして、ここの人間たちよりも背が高い。さらに、窪みより50センチくらい高い岸辺に立っている。


 高い位置からだと、上流に続く川面かわもが見えた。


「人柵には、終わりがありそうだよ! そこから川が続いているようだ」


「どういうことなのです」

 ナイだけではなく、パイも鷹大に寄ってきた。


「諦めるには早いよ。上流までずっと人でギュウギュウになっているわけじゃないよ。人柵の先には水面が見えるんだ。そうだな、人柵の奥行きは10メートルもないかな」


「10メートル? なんだそれは?」

 パイは長さの単位を知らないようだ。ナイも首をかしげてる。体の大きさからして、2人は鷹大とは違う人間である。無理も無かった。


「あっ! 分からないか、ごめん、ごめん。メートルは俺がいた世界で使う長さの単位だよ。でも、分んなくても大丈夫、とにかくずっと人がいるわけじゃないんだよ! 人柵の先には人がいない川が続いてるんだ」


「そうなのか? ずっと人柵じゃないのか?」

 パイが鷹大が着ているTシャツの裾をクイクイと引っ張る。


「ほら、見てみなよ」

 鷹大がパイの後ろに回って、両脇に手を差し込んで、持ち上げて見せてやった。


 軽っ! 見た目よりずっと軽い。

 抱えて走った時も軽かったが、1人だけを持ち上げると再確認ができた。


 子供でもこんなに軽くない。子犬は言い過ぎにしても、中型犬くらいの重さに感じた。


 でも、パイの尻が鷹大の目の前となった。体が小さいとは言え同年代の尻であり、その肉付きや、肌にへばりつくビキニのしわが色っぽい。


 重いとは別な理由で、長く持てそうになかった。


 一方、パイからは感嘆の声。

「見えるぞ! 本当だな! 人柵の先には水が見えるぞ! それにしても、これはいいな、高くて、いつもと眺めが違うぞ! とっても新鮮だ!」

 人柵だけではなく、周りも見ている。


「私にも見せるのですわ」

 パイを降ろしてナイを同じように持ち上げた。ナイはパイより細く引き締まった尻だ。体はパイと同じくらいに軽いが、同じ理由で長く持てそうにない。


 そのナイにも新鮮な眺めである。

「先がよく見えますわ! やっぱり、川でしたわね。それに人柵の前にある川より奥の方が深そうですわ。向こう側にいる人の頭が水面に近いですわ。ギュウギュウの所をどうにかして通過できれば、泳いで先に進めますわ」


「それなら話しは早いぞ! 人柵になっているやつらの頭の上を歩けばいいのだ。上から見たら、かなりギュウギュウだった。頭の上を歩けそうだぞ!」

 強引なことを言い出した。


「パイの言う通りですわ! 人柵の上を歩くのですわ!」

 ナイも同調する。


 パイとナイが相談する声は少し大きかった。川の中にいる人たちにも聞こえていた。


「あっ、他のやつらが人柵に登っているぞ!」

 何人かがよじ登って人柵の上を歩きだした。踏み台にされている人は嫌がっているが、お構いなしに登っている。


「先を越されますわ!」

 バチャバチャッ!

 遅れまいと、パイとナイは水溜りを走って人柵に近づこうとする。


 ハッ! やべっ!

 鷹大が気付いた。


「パイ! ナイ! 待って! 登るのを待つんだ!」

 鷹大は叫ばすには、いられなかった!


「どうしたのだ、鷹大! なぜ待つのだ!」

 パイとナイは、鷹大の言葉に登るのを中断した。


「変なんだよ! 1番に人柵の上を歩いていた人が消えたんだ!」


 鷹大には人柵の上を歩いていた人物が、突然消えたように見えた。あるはずのない隙間に落ちたかのようだった。


「消えただと? 向こう側へ行ったのではないのか?」

 パイは首を傾げる。


「違う! 全然向こうまで行けてないよ。すぐに、人柵の隙間に落ちたみたいなんだ」

「オリが上から見た時は、人柵はギュウギュウで、人が落ちようもなかったぞ!」


 鷹大は背伸びをしてよく見る。

 人柵の上を歩く人が、どんどんと消えていく。


「奥の方は手前よりも隙間があるのかな? ……そうじゃない! 違うぞ! 乗られた人が消えているんだ! 全員じゃないけど、頭に乗られた途端に姿を消す人がいるんだよ。すると、乗った本人がその隙間スペースに落ちるんだ!」


 ギュウギュウと横からの圧力で死にそうな人間がいるのである。

 人柵を歩いて来た人間が乗ることで、頭に重さの圧力が加わって、悲しいことに息が絶えてしまうのだ。


 ここの人間は息が絶えると透明な液体になってしまう。その空いた場所に乗った本人が吸い込まれるように落ちていた。


「隙間に落ちると上がれないみたいなんだ。上を歩くのはリスクがあるし、第一、人が死ぬは地獄でも嫌だよ。やめてよ!」

 鷹大は、パイとナイに真剣な顔を見せた。


「それではどうするのだ! 進めないではないか!」

「そうですわ、リスクがあるからって、諦めらるなんて、私にはできませんわ」

 2人は他人が何人死のうとも、生き残ると言ったくらいだ。他人のために諦めるわけがない。


 鷹大は何か別の方法を考えないとならない。

「うーん、人柵の上はずっと空いてるから、鳥なら向こう側へ簡単に行けるんだけどな……」


「オリには翼はないぞ、飛べるわけがない!」

「鳥のように飛ぶなんて、下らない願望ですわ」

 パイもナイも呆れてる。


「飛べる? 飛ぶ? そうか! 2人は見た目よりずっと軽いんだ。俺の力で飛ばせるぞ! ナイが言うように向こう側の水深は深そうだ。落ちてもそれほど痛くないと思うよ。ただ川幅が狭いから左右にずれないように、方向を注意する必要はありそうだな。ねー、俺が投げ飛ばすのって、どうだろう?」

 鷹大は提案した。


「オリは賛成だ! 人柵の上を歩いて途中で落ちるよりは、ずっといい。なにしろ、一気に人柵を越えられると言うのが気に入った! 鷹大! オリを投げろ!」

 パイは間髪入れなかった。それどころか、ワクワク顔である。


「分かったよ。パイは泳げるの?」

「泳げるぞ! 何の問題もない!」

 パイが人柵から離れて、鷹大のもとへ来た。


「まあ、パイもナイも始めからビキニを着てるもんな」

 泳ぐのが前提であったかのようだ。


 そもそも、どうして、始めからビキニで走っていたのだろうか?

「ねー、今まで聞きそびれていたけど、どうして2人ともビキニなの?」





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