第三章 2人の名前は胸の通り
第5話 第三章 2人の名前は胸の通り(1/4)
【岩壁から転落した
第三章 2人の名前は胸の通り
鷹大は今を走った。
火山弾と熱い溶岩から逃げた。
30分も走ると、モヤが薄れたかのように、行く先の景色がはっきりと見えてきた。
「岩壁だ!」
都会のターミナル駅に建つデパートと同じくらいの高さがあり、薄い茶色の滑らかな岩肌をもった壁が現れた。
その幅は広く、左右とも終わりが見えない、遠くはモヤの中である。
鷹大が落ちた岩壁は上部がオーバーハングであったが、この岩壁は上から下までほぼ垂直である。明らかに違う岩壁だった。
だが、逃げ道をこの岩壁によって
幅が広いので、とても迂回できそうにない。
近づいてみると、岩肌がツルっとした1枚岩で、隙間がないためか木も草も生えておらず、登る手がかりが全然ない。
素人には、とても登れそうになかった。
そして、誰もいない。走っていた人たちは、ここには来ていないようだ。
穏やかなほどに静かな岩壁だった。
「行き止まりだよ! 迫る溶岩を思うと、少しでも高い所へ行きたいんだけど、この岩壁は登れそうもないよ」
鷹大は立ち止まるしかできなかった。
「何をまごまごしている! もう、降ろせ! オリは自分で行くぞ!」
巨乳の子が足をバタバタとさせた。
「降ろすのはいいけど、ここからどっちへ逃げるの? この岩壁は登れそうもないよ」
鷹大は2人を優しく、そっと地面に降ろした。
溶岩は確実に近づいているはずである。ここにいたら、いずれ溶岩に追いつかれるだろう。
「そんなことは自分で考えるのですわ! そうですわ! 大男はデカ乳について行くといいですわ!」
貧乳の子は鷹大を巨乳の子に押し付けようとしている。
巨乳の子も言わせたままのわけがない。
「貧乳め! デカ乳言うな! 何で大男に、オリについて行けと言うんだよ。この貧乳!」
「貧乳、貧乳と、気に障りますわね! 男はデカ乳が好きなんですのよ。
男はみんな、その揺れるデカい乳が大好きなんですわ。男はいつでもどこでも大きな乳を
偏見だ。鷹大にも言い分がある。
「そんなことはないよ! 男だって……」
「わーーーーーーーーーーっ!」
鷹大の言い分は巨乳の子の叫びに、かき消された!
そして、巨乳の子は貧乳の子を睨んでいる。
「貧乳は巨乳の苦労を知らないんだ! 体目当ての変な男も寄って来るんだぞ。もうここでは関係ないけど、ずっと、オリは迷惑してたんだ!」
巨乳の子が不満をぶつけた。それでも、貧乳の子はそのテンションには乗らない。
むしろ、厭味を言う。
「いいじゃない! デカ乳は男に揉まれるために大きいんだから。そのデカ乳も男に揉まれたがっているのでは、ございませんの? 男なら誰でもいいのでは、ございませんの?」
「誰でもいいわけ、ないだろう! 嫌な男も寄って来るんだぞ。引き剥がすのに苦労すんだよ。ここじゃもう誰も寄って来ないからいいけど……。だから、貧乳が大男の相手をしろ!」
うまく言えていないようだが、とにかく、鷹大を押し付けたいようだ。
「嫌ですわ! ここでは女も男も関係ございませんわ! ただ1人で生き抜くのみですわ!」
「そうだよな! 1人ずつ勝手に行きたい所へ行けばいいんだ! 大男は放っておけばいい! あばよ! 大男!」
「さよならですわ!」
プイッと、2人は岩壁に沿って同じ方向に歩き出した。
仲がいいのか悪いのか、最後は同調した。
困るのは鷹大。
「えーーーーっ! 俺も連れてってよ! 地獄のことは全然分からないんだよ。どこへ逃げたらいいかも知らないんだ」
そう言いながら、2人について行くが、もう何も答えてくれない。
2人は、歩きながらも口喧嘩へと戻っていく。
「なんで、デカ乳もこっちに来るんですの?」
「オリもこっちがいいんだ! こっちがいいと匂うんだ。貧乳こそ真似するな!」
「デカ乳の方が私について来てるんですわ!」
貧乳の子がさっきより速く歩く。
「お前の方だろう! ついて来てるのは!」
巨乳の子がさらに速く歩いて貧乳の子を抜いた。
「負けませんわよ!」
貧乳の子が走った。
「走るのは反則だぞ!」
巨乳の子も走る。
「誰もルールなんて決めていませんわ! ついて来ないでいらっしゃいまし! デカ乳!」
2人で競いながら走っている。
鷹大は困ると思ったが、困らなかった。
2人とも同じ方向だし、走っても自分の方が速い。当面は、この2人について行くことにした。
3人で岩壁に沿って走った。
岩壁は万里の長城のように果てしなく、そして真っ直ぐに続いていた。垂直な岩壁には変化はなく、登れそうな場所もない。単調な走りとなった。
鷹大の気持ちにも余裕が生まれていた。走りながら辺りを観察する。
今走っている地面の黒い岩は、あの熱い溶岩が固まったように思える。この黒い岩が岩壁で終わっているので、溶岩はここまで来たとしても、おかしくはない。
すると、岩壁に登らない限り、熱い溶岩に呑まれるってことになる。ここは安全ではないのだ。
だから、ここには人間がいないのだと思った。
なら、走っていた大勢の水着たちは、いったいどこへ逃げたのだろうか? 2人は水着たちと、合流しようとしているのではないのか?
「ねー、2人は他に大勢いたみず、じゃない、人たちがいる所に行こうとしているの?」
人間を水着と称しても通じない。鷹大は言い直した。
2人は口喧嘩をしながら走っていたが、巨乳の子が反応する。
「何だ、大男! まだついて来る気か?」
怒ってはいないが、毛嫌いしている顔。
「だって、溶岩がここまで流れて来そうだし、この岩壁は登れそうもないし、どこへ逃げていいか分からないんだよ」
このままでは、いずれ溶岩に焼かれてしまう。
今度は貧乳の子が答える。
「私にとっては、大男がついて来ようと来まいと、関係ございませんわ! 私は目的地を目指すだけですわ!」
ドドーーン!
言い終わるのと同時に噴火音が聞こえた。貧乳の子が見せた決意に合わせたかのようだった。
火山から離れたためか噴火音は腹には響かず、火山弾も飛んで来なかった。ひとまず安心である。
目的地と聞いて、鷹大は驚いた。
「目的地なんて、あるの?」
「宝探しだ! オリは宝を探しているんだ! 宝がある所が目的地だ!」
巨乳の子が走りながら、自信を持った声で答えた。足が遅いからか、息も乱れてない。
「宝探し?」
鷹大は意表を突かれた!
地獄だから何の希望もなく、ただ逃げ回って、その場その場を生き延びる以外に、何もないと思っていた。
「なら、その宝を探し出して、どうするの?」
「宝を手に入れれば、生き延びられるのだ!」
「そうですわ! 逆に手に入れられないと死ぬのですわ」
2人は仲良く答えた。
生き延びるとか、死ぬとか、金目の物ではないようだ。
では、どんな物なんだろう?
「探している宝って、何? どういうモノなの?」
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