第3話 第一章 俺は死んで、地獄に落ちた?(3/3)
【岩壁から落下した
「流れる溶岩も来ていますわ!」
貧乳の子が、鷹大の肩越しに後ろを指差す。火山の方角だ。鷹大が振り返った。
「溶岩の滝じゃないか!」
もう、20メートルもない!
暑い気温も、熱風も、この溶岩が原因だった。
溶岩の滝は、火山側全部ってくらいに幅広いが、高さは1メートルくらいしかない。
燃えるようなダイダイ色で、赤がどんどんと混ざりながら、音も無く灼熱の陣地を広げている。
「いつの間に! 新鮮で軟らかくて進みが速いぞ! 頂上とは別に火口があるみたいだ。呑まれたら死んじゃうよ! 早く逃げようよ! 走ろう!」
「賛成ですわ!」
「急げ! 溶岩に焼かれちまうぞ!」
3人で火山と反対方向へと走り出した。
なのだが、走りにくい。
地面の黒い岩は平らだけど、ゴツゴツとして足場が悪い。どうやら、この岩は冷えて固まった溶岩のようだ。
2人はうまく走れてるだろうか? 鷹大は心配となり振り返った。
「遅そっ!」
2人とも走るのがメチャクチャ遅かった。
巨乳の子は胸が右へ左へと暴れ回り、走るリズムを乱している。あれでは速く走れない。
貧乳の子はもともと走るのが苦手なのか、あえいでいるように見える。
鷹大は気付いた。
「あれ? 2人とも裸足じゃないか!」
鷹大は岩壁から落ちた時の姿だったので、スニーカーを履いている。しかし、貧乳の子と巨乳の子は、何も履いていなかった。素足で岩の上を走っている。
鷹大は2人のもとへ、駆け戻った。
「2人とも! 裸足で足が痛いの? それで遅いの?」
「足が痛いことはございませんわ! 女は男のように速く走れないだけですわ」
「足の裏が痛くないの?」
「私は裸足がいつもですわ。平気のヘイですわ!」
足が痛い風じゃない。本人が言うように速く走れないだけのようだ。
「オリはいいから、とっとと1人で逃げろ! あっちへ行け! オリに関わるな! シッ! シッ!」
巨乳の子は鷹大を犬くらいにしか思ってないのか?
「俺は心配してんだよ!」
そう言ったものの、迫り来る溶岩が気になる。
鷹大は確認しようと溶岩を見た。斜め後方にも目が行った。
「うわっ! ひでぇ!」
目をそむけたくなる光景が飛び込んできた! 逃げ遅れた人がいたのだ!
距離があったためか、見回した時には気付かなかったようだ。
その人は、溶岩に焼かれている! 熱い溶岩につぶされ、もがき、焼かれて、水のように融ける!
そして、水は溶岩の熱で蒸気となり、空へと帰っていった。
映画でも見た事がない、ひどい惨状だ!
「ここは地獄なんだ! ここは地獄なんだ! ここは地獄なんだ!」
鷹大は、ギュッと、目をつぶって、泣きたくなる気持ちを押さえ込む。
早く2人を連れて逃げよう!
目を開けると2人はいない。鷹大を置いて逃げているが、やっぱり足が遅い。
鷹大は急いで追いつき、2人の間に入ると、2人の手を握り、引っ張りながら走り始めた。
握った手は柔らかく暖かい。この子たちを助けたい思いが強まっていく。
でも、2人は違った。
「お前は、お前で勝手に逃げろ! 引っ張ってもらってもオリは速く走れんぞ!」
「そうですわ! ここでは他人を助ける人なんて、いないのですわ! 誰もそれぞれの力と知恵を信じて1人で進むだけですわ」
なぜか、2人とも嫌がっている。5本の指をすぼめて、鷹大が握る手から引き抜こうとする。
「こんな非常時だからこそ、助け合うべきだよ!」
鷹大は握力を強めて放さない。2人を引っ張りながら走った。
でも、なんとも、スピードが上がらない。溶岩に追着かれそうだ。
そこへ、どこから来たのか、トランクス水着の男が何食わぬ顔で抜き去って、斜め方向へ走っていった。
3人には全く関心がないようだった。
「声を掛けたりしないのか? 地獄だからってひどいな。無言で無表情なんて!」
平和に育ち過ぎた鷹大には異様だった。冷たい人間の本性を見た気がした。
巨乳の子があきれた声を出す。
「他人を助けて、自分が死んでは元も子もないぞ! お前の方こそ、どうかしている!」
「なんだよ! 助けてあげているのに……。どうせ、ここは地獄なんだ! どうでもいいよ。俺は好きにやるだけだ! 2人とも助ける!」
鷹大は開き直った! 助けるのは自分の勝手と思うことにした。
「おかしな人ですわね。他人を助けようとするなんて」
「こいつこそ、真性のバカだな! バーカ、バーカ!」
「愚か者ですわ! バーカ、バーカ!」
「手を引いてもらいながら、そんなことばっかり言わないでよ」
ドッ ドーン!
噴火の音だ!
鷹大は足を止め、身をすくめたが火山弾は飛んで来なかった。
「まだ続くのか? 溶岩も迫っているし、このままじゃ危ないな!」
鷹大は2人の手を握ったまま、両手を頭くらいの高さに上げた。必然的に2人の体が鷹大の両脇に寄ってくる。
そのまま手を放して腰を落とし、左右の腕で2人のお腹を1つずつ
まるで、鷹大が両脇に荷物を抱えたようだ。
「2人とも、軽いね!」
縮尺以上に、密度そのものからして軽く感じた。
鷹大は背中に熱さを感じた。溶岩が近いんだ!
ダッ! ダッ! ダッ! ダッ!
振り向く間も惜しんで、鷹大が2人を抱えたまま全力疾走する!
「何をする! 放せ! 1人で逃げろと言ったぞ! バカ者!」
巨乳の子が叫ぶが、相手をしている暇はない。
「2人を置いて行けないよ」
鷹大は巨乳の子を見ることもなく、腕の力を強めて走った。
ズドドーン!
火山の音が響く。
バチッ! バヂッ! ドドンッ!
火山弾が落ちて砕けてる!
だが、もう余裕がない! 熱い溶岩が迫っているから止まれない!
「当たんないでよ!」
祈りつつ走り続けた!
「お放しなさい! 今すぐ、私を放すのですわ!」
貧乳の子が足を振って暴れ始めた。
「石が飛ぶし、溶岩も迫ってるんだ。早く逃げなきゃ!」
「放すのですわ!」
ボクボク!
抱えられたまま、鷹大の腹を叩く! でも、貧乳の子は小さいから効きもしない。全然痛くない。
鷹大は平然として走り続ける。
「オリは楽チンだから、このままでいいぜ!」
反して巨乳の子は、能天気な顔に変わっていた。
「巨乳はバカですわ! 大男と運命を共にしますの? 大男と一緒に死ぬ気ですの?」
「オリだって、危なくなれば1人で逃げるぞ! こいつを殴ってでも、蹴っ飛ばしてでも、1人で行く! でも、オリはこいつより足が遅い。だから、便乗してるだけだ! 置いて行かれた方が不利なんだぞ! なのに、放せとはやっぱり貧乳の方がバカだな!」
「他人に支配されたくないと言っているんですわ、このバカ巨乳! あなたは自分の命を他人に預ける気ですの?」
「オリだって、命を預けたわけじゃぁないぞ! 運んで逃げてくれるんだから、そっちの方が有利と言うだけだ。大男を利用すんだよ!」
それを聞くと、貧乳の子から
「利用ってわけですのね。……それに、この大男がいなければ、私はずっと先に行っていましたわ。この大男のせいで遅れたんですわ! その分を取り戻すだけですわ!
――分かりましたわ! 今は大人しく一緒に逃げて差し上げますわ! 大男! とりあえず、火山や溶岩と反対方向へ逃げるのですわ!」
進行方向を指差して、偉そうに指図する。
鷹大は感謝されたいなんて、もともと思ってなかったが、少しムカついた。
「そうしてるよ! 2人とも! 俺の好意を素直に受ける気はないのかよ!」
「自分の行動にだけ、責任を持つということですわ。自分の命は自分で守るのですわ。他人に運命を引き渡す気なんて、ございませんわ」
貧乳の子には信念がありそうだ。
巨乳の子も同調。
「その通りだ! つまりは自分だけが、かわいいと言うことだ! どいつも自分1人だけが生き残ることを考えているのだ。それが人間の真実だし、人間の本性だ!
例え、他人が何人、死のうともだ! ここは地獄のような所なんだからな!」
地獄が前提なら、案外とまともなことなのだろう。
なのに、鷹大はつないだ手の温もりが忘れられない。
2人だけは助けたい!
助けたい気持ちを腕に込め、鷹大は全力で走った。
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