第2話 第一章 俺は死んで、地獄に落ちた?(2/3)

【岩壁から落ちて、せいを諦めた鷹大たかひろは、走馬灯を見たと思ったら黒岩の地面に座っていた。いきなり水着の男女が大勢現れ通り過ぎていく。気付くと貧乳と巨乳のビキニの女の子が2人残っていた。鷹大がぶつかったことをめぐり口喧嘩を始める。そこへ轟音と地震。鷹大は富士山に似た赤い火山を見たのだった】


「火山だ!」


 女の子たちの斜め後方、何10キロも遠くに赤い富士山のような火山がある。山頂からモクモクと煙を吐いていた。


 富士山か? いや違う、富士山ほど大きくないし、もっと赤い! 富士山によく似た赤い火山だ!


「あんな火山、俺の地元にはないぞ!」


 自分で言った『地元』という言葉に辺りを見回す。その赤い火山以外目立った起伏がない!


 鷹大が落ちた岩壁はなかった。


 それどころか、遠くを見ても木も草も生えてない! 僅かに傾斜してるものの、黒い岩からなる荒涼とした平らな大地だった。


 鷹大は全然別の場所にいた。


 他には誰もいないと思っていたが、遠くまで見渡すと水着の男女が10人以上はいた。


 喧嘩の2人も含めて、みんな黙って火山を見ている。


 噴火の煙が充満しているためか、空は曇っている。

 気温は始めより上昇しているようで、暑く感じてきた。さらに、硫黄(硫化水素)の臭いが、ほのかに漂ってきた! 危険のサインである。


 ゴゴゴーーーー!

 地鳴り!


 でも、それだけじゃない!

 ガチッガチッ! ヅチッヅチッ! ドチッドチッ! ドガッガッ!


 岩が岩に当たって砕けるような音も混ざっている。


 鷹大は、ハッとして上空を見た!

 曇った空には無数の赤い点!


 目を凝らすと、赤い点からは細く白い煙が、尻尾しっぽのように伸びている。

 鷹大は気付いた、火山からの放物線を下側から見ていると。


「火山弾だ! マジかよっ!」


 シュッ! ダガンッ!

 その1つが近くに着弾!


「やべっ!!」

 鷹大は無意識的に貧乳と巨乳の子を一緒に抱きかかえると、背中を丸めて覆いかぶさった。


 ガチンッ! グチンッ! ダダンッ! バラバラバラッ! ガツンッ! ガラガラッ!


 すぐに、着弾音に囲まれた! 火山弾が地面で砕けてる! 人間よりも重そうな石が、砕けては飛び散っている!


 灼熱の化身となった赤い悪魔が現れ、岩に懇親の怒りを込めて大地に投げつけているように、鷹大には思えた。


 悪魔は大地に這いつくばる人間なんて、ついでに潰してもいいゴミ虫としか思ってない!


 生きた心地がしない!

「当たるな! 当たるな! 当たらないでくれぇーーーーっ!」

 2人を抱えた鷹大は、祈ることしかできなかった。


 ガチンッ! ダダンッ! ベチョッ! ガンッ! ガランッ! ガガランッ!

 バラバラララララ……


 バチンッ!

「痛ててっ! あちっ!」

 地面で砕けた小石が1個、鷹大の足に軽く当った!

 熱い! 痛いと思ったが熱かった!


 ダダン! バラバラバラ ゴゴゴーーーー……


 岩を砕く音が遠ざかっていく。ゴーという低い地鳴りだけが残った。どうやら、上空からの危険は収まったようだ。地震の揺れもなくなっている。


「火山弾が降るなんて生きた心地がしないよ。そ、それに、石が落ちる音の中に『ベチョッ』という音が混ざっていたような……」


 鷹大は2人を抱えたまま、顔だけを上げて、恐る恐る辺りを見渡す。落ちている多くの火山弾からは、白い煙が筋となって立ちのぼっている。

 まだ熱いようだ。


「あっ! 人が倒れてる!」


 叫べば声が届くくらいの距離に、ビキニの子がうつ伏せに倒れていた!

 火山弾が当たったんだ!


「な、なんてことだよ! 助けなきゃ! ……えっ! 融けてく?」


 鷹大が立ち上がろうとしたその時、倒れていた子が融けてしまった。見る見る体が水のような透明な液体となって、地面の乾いた岩に染み込んでいった。

 岩には気泡が弾けたような無数の穴がある。そこへ液体は染み込んだ。


 地面に残るのは一対のビキニだけ!


 白地に薄いグリーンの水玉があしらわれたビキニだけが、黒く平たい岩の上にすがるように寂しくつぶれている。

 ビキニからは容易に人間の形を想像でき、人がそこに倒れていたという唯一のあかしとなっていた。


「人が水になるなんて、どういうこと?」

 鷹大は戸惑いを隠せない。


「死んだのですわ!」

 かかえている貧乳の子が、そっけない声で答えた。


 鷹大の目から涙が溢れ出す。人の死に立ち会った経験があった。心が痛む。

「死んだ! 近くで人が死んだ! さっきまで生きていた女の子が……、一緒に同じ火山を見ていた女の子が……死んでしまった! せっかく生まれてきたのに、体が融けてしまって……?」


 ……あれ?


 鷹大が気付いた。

「おかしいよ。ねー、人が融けるなんて、おかしいよ!」


 スルッ

 巨乳の子が鷹大の腕からすり抜けて立つと、鷹大を指差した。


「お前は水着を着てないし、大きさからして、オリたちと同じ人間ではないな!」


 鷹大の服装は岩壁から落ちた時のままだった。夏を前にしたTシャツに短ズボン姿だった。巨乳の子は、始めから服装に疑問を持っていたのかも知れない。


「同じ人間……?」

 冷静になって見ると、女の子は2人とも体が小さい。


 鷹大は貧乳の子も放し、Tシャツで顔の涙を拭いて立ち上がった。

 この時初めて、鷹大がきちんと地上に立った。


 2人の身長は、鷹大の胸くらいの高さしかない。顔も小さいし、肩幅も腰幅も狭い、子供というより、縮尺からして小さいように見えた。


「君たちは大人の大きさなの?」


 巨乳の子が答える。

「そうだ。お前が大男なだけだ! これでもオリの体は標準サイズだぞ! でも胸は標準以上だ! 立派だろう。そこの貧乳など、オリを見た後だと男に見えるほどだ」

 小馬鹿にした目で、クィッと小さなあごを貧乳の子へ向けた。


「男だなんて、ひどいですわ! 胸が大きいのは、バカに見えるだけですわ!」

 貧乳の子は、力いっぱいに受けてたった。


「バカじゃねーよ! バカと言うヤツがバカなんだよ! バーカ、バーカ」

「バカにバカと言われたくないですわ! バーカ、バーカ」

「真似するな! バーカ、バーカ、バーカ!」

「バーカ、バーカ、バーカ、バーカ!」

「バーカ、バーカ、バーカ、バーカ、バーカ!」


 子供だ。バカに関しては、どっちもどっちと、鷹大は思った。


 でも、人が間近で死んだというのに、気にしている様子はない。


「喧嘩はやめてよ! 近くで人が死んで悲しくないの? 人が水のようになるなんて、尋常じゃないよ! ここはどこなの? 日本じゃなさそうだ……。なんか暑くなってきたし……。もしかして、やっぱ、俺は死んで……地獄に落ちたの?」


 噴火する赤い火山、岩だらけで草も木も生えてない大地、縮尺が小さい人間、水のように融けて死んでしまった女の子、他人の死に関心がない様子など、どれも鷹大には異様だった。


 とても現代の日本とは思えない。岩壁から落ちた記憶を重ねれば、この世ではないと思うのも無理もない。


「人が死んで融けるなんて当たり前のことだ! お前の言う通り、オリたちにとっては、ここは地獄のような所なんだ!」

 巨乳の子が言い切った!


「融けて当たり前なのか。やっぱり、俺は死んで地獄に落ちたのか。俺は弥陀ヶ原みだがはらなのに地獄なのか……。

 地獄だから人が死んでも悲しくならないのか……」

 鷹大は自分の現状と人の死を、不思議と納得してしまっていた。


 ブォン、ズズズーン

 腹に響く音と小さな地震だ! 火山からだ!


 鷹大は融けた女の子に気を取られて忘れていた。地獄でも火山弾に当たりたくない。


「また、石が飛んでくるよ! 2人とも、早く逃げよう!」

「それがいいですわ! バカに付き合って一緒に死にたくは、ございませんわ」

「それはオリの台詞だ!」


 10人以上いた人たちはもう近くにはいない。火山と反対に逃げたようだ。そんな数人の後ろ姿が、ポツリポツリと遠くに、ゆっくり走っているように見える。


 あの走り抜けた数100人のうち、体力に劣る人間が逃げ遅れたみたいだ。

 水玉の他に落ちてる水着は見当たらなかった。鷹大はホッとした。


 バラバラ、ヒュン、ドガ、ドズン、ガララン、バラバラ

 

「うえっ! 火山弾だ! 終わってないんだ!」

 鷹大は2人を抱えてしゃがみ火山に背を向ける。でも、短かった。数個が着弾して終わった。


「収まったようだな。さあ、逃げよう!」

 立ち上がろうとすると、熱風が吹いた。南国なんて目じゃないほどに熱かった。


「流れる溶岩も来ていますわ!」


 貧乳の子が、鷹大の肩越しに後ろを指差す。火山の方角だ。鷹大が振り返った。


「溶岩の滝じゃないか!」





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