第一章 俺は死んで、地獄に落ちた?

第1話 第一章 俺は死んで、地獄に落ちた?(1/3)

   第一章 俺は死んで、地獄に落ちた?


 俺は死んだ。

 高い岩壁から落ちたんだ。だから、死んでしまったに違いない。


 弥陀ヶ原みだがはら鷹大たかひろは、高校1年の夏を前にして、自らせいを諦めてしまった。


 その高い岩壁は、鷹大の地元にあった。頂上に神社がある低山なのだが、50メートル以上もあるほぼ垂直な岩壁を有していた。


 鷹大は落ちながら走馬灯を見た。死ぬ間際に見るという走馬灯を見たのだ。


 だから、俺は死んだ。死んだに違いない……と、鷹大は生を諦めたのである。


 しかし、なぜか、生きてる感覚が鷹大には残っていた。

 尻が少し痛いのだ。


 気付くと尻餅をついたように、平たいが少々ゴツゴツした黒い岩に座っていた。

 岩の表面には細かい気泡が弾けて固まったような、無数の小穴が開いていた。


 高い岩壁から落ちて尻餅ですんだ、なんてことがあるわけがない。転落の衝撃は、骨をも砕くはずだ。


 そう思っていると突然、叫び声が鷹大の耳を貫いた。


「うわーーーーーーーーっ! あうあう、あ~~~~~~~~っ!」

 慌てた女の子の声が、後ろから聞こえた。


 ドンッ!


 尻餅をついている鷹大の背中に、軽い衝撃! 声の主がぶつかったようだ。


 ダスンッ!


 すぐに別の音、これも後ろから聞こえた。でも、鷹大には衝撃はなかった。

「痛いですわ!」

 冷静っぽい女の子の声、始め声とは違った。明らかに別の女の子だ!


 どうやら、2人いるようだが、鷹大の真後ろなので確認できない。


 気になる。早く見たい。

「誰かいるの?」


 鷹大は座ったまま、頭、首、肩の順で上体をひねり振り向いた。


 ドスドスッ! ドッドッドッ! ダッダッダッ! ダズッダズッダズッ!


「うわっ! 2人なんてもんじゃない!」


 鷹大の後ろには何10人もの男女がいた。いや、いたとか、いるとか、などと言うてレベルじゃない!


 鷹大に向かって走ってくるじゃないか!


 スタートしたばかりの市民マラソンのように、密集した集団となって、鷹大に向かって押し寄せてくる!


 おかしなことに、彼らはスポーツウェアや、普段着や、増してや学校の制服や、社会人らしいスーツなどを着ていない。


 素肌の面積が広い? 水着だ!


 そう、男も女も水着姿で、視界いっぱいの人数をもって、鷹大を目がけて走ってくるのだ。


 とても、2人を確認するどころじゃない!


 圧倒的な数! 間に合わない! 逃げられない!

 鷹大は立ち上がることもできずに、川のように流れる集団の中に、座ったままで放り込まれた。


 ドッドッドッ! ドスドスッ! ドスドスッ!


 けたたましい足音に包まれる。


 右からも左からも踏みつけられる! と思ったが、不思議なことに、集団の誰もが鷹大の体に当たらない。ギリギリのところでかわして、走り抜けていく。


 だが、抜け出せない。人数が多いし密集している。立つことすらできなかった。彼らに背中を向けて、やり過ごすしかできず、鷹大は過ぎ行く集団の後姿を見送るばかりだ。


 あれ? と、鷹大は気付いた。

 女は、みんなビキニだ。


 座ったまま横を見る。競泳水着やワンピース水着、スク水などを着た女性は1人もいなかった。

 でも、ビキニには統一性がない。バラバラな色とデザインだ。


 男はトランクスが多いようだが、鷹大には興味がなかった。


 走っているビキニを横から見ると、跳ねる胸が壮観だった。

 踊る胸を見ていると、どういうわけか、年齢がいった大人や小さい子供はいないと気付く。横顔を見ると、鷹大と同い年か、少し上くらいにしか見えなかった。




 ドンドン! ダンダン! タンタン タクタク


 去り行く集団の背中が見る見る小さくなっていく。鷹大は最後らしい1人を見送った。

「数100人は、いたんじゃないのか? 俺にぶつかった子も行っちゃったかな?」

 地面には、自分と静寂だけが残された、と鷹大は思っていた。


「つつつつっ!」

 違った!


 後ろに人がいる! 声からして女の子!

 鷹大は立ち上がろうと、腰を上げながら振り向いた。


「巨乳が私に当たりましたわ! そんな邪魔な物をぶらさげているから、こっちが迷惑するんですわ!」


 見るとビキニが2人、鷹大のすぐ後ろに向き合って立っていた。


 怒った声を発した女の子は、ほっそりとした体に、空色と言っていい青のビキニを着ている。黒髪のツインテールであり、少々つり目な目をもっと吊り上げていた。


 でも、残念、貧乳だった。


 俎板まないたにビキニを縛ったくらいの可愛そうなツルペタで、幼稚園児のように、遊んでいるうちに布が外れそうなほどだった。


 しかし、立ち上がろうとしていた鷹大は、貧乳の子の声に負けてしまう。振り向きざまに方向を変えただけで、再び尻餅をついてしまった。


 一方、もう1人は、濃いピンクのビキニを着た……巨乳である。


 巨乳は色に強調されたように垂れておらず、前に突き出るほどに重力にあらがって立派に見えた。


 顔は可愛らしく、長い黒髪は辺りで1つにまとめられ、背中の中ほどまで達していた。

 一見大人しい女の子のイメージであるが、話し方を聞くと。


「うるせーな! この男が空から落ちて来たんだよ。当たっちまったオリはともかく、胸が小さいお前は後ろにいたんだからけられただろう?」


 と、男の口調であった。

 顔立ちや長い髪の割には、姉御肌のような、女親分のような声と表情だ。ただ、自分をオリと呼ぶところは可愛いらしかった。


 2人とも胸の大きさはかけ離れているものの、鷹大とほぼ同じ年齢に見えた。どうやら、走り抜けた集団と同類のようだ。

 しかし、鷹大には見覚えがなく、知らない女の子たちだった。


「私が逃げる先で、巨乳がぶつかってきたんですわ! 巨乳のあなたが悪いですわ!」


 2人の言い分を総合すれば、どうやら、落ちてきた鷹大に巨乳の子がぶつかり、巨乳の子に貧乳の子が当たったようだ。


「オリが悪いとはなんだ! 表に出ろ!」


 巨乳の子が怒るのも当然である。悪いのは鷹大なのだ。でも、鷹大が口を挟むいとまがない。


「もう外ですわ! おバカですわ! そうですわね。巨乳は、みんなおバカさんだったかしら?」

 フフンと貧乳の子は、さげすむ目線をする。


「お前は貧乳だから、このオリの胸が、うらやましいだけなんだろう!」

 フルルンと揺らして見せた。


 そんなことされたら、貧乳の子は黙ってない!


「ただデカいだけですわ! 巨乳なんて、何の取り得もございませんわ! バカに見えるだけですわ! バカの権化ですわ! バカの象徴ですわ!」

 唾を飛ばす勢いだ。


「言わせておけば、バカバカと! 外見と中身は関係ないんだよ!」


 怒りに巨乳をフルフルと細かく上下に揺らしている。空中に浮いているようで、鷹大には神秘的でさえあった。


豊穣ほうじょうの女神が降臨したかのようだ……」

 鷹大から声が漏れた。


「誰が女神だ!」


 巨乳の子が鷹大を睨みつけた! 女親分の怒った顔であるものの、まだあどけなさが残っている。全然怖くない。


「あっ! 今のは忘れて! でも悪かったよ! 俺のせいで喧嘩になって!」

 鷹大にぶつかって起きた喧嘩である。仲裁しようと、黒い岩から立ち上がろうとした。


「うるさい! 今、大事なところだ! 邪魔するな! お前は座っていろ!」

 サッ! ギュッ! プルルン!


 巨乳の子が鷹大に向かって、サッと右のてのひらを突き出して、ギュッと握った。それだけで、胸がプルルンと揺れる!


 巨乳圧力だ!

 鷹大は地べたへ逆戻り、再び尻餅だ。


 大きいって強力だよなあ~~と、見とれていると、口喧嘩が再開してしまった。


「巨乳とバカは関係ないんだよ!」

「いいえ! 巨乳にバカは多いですわ! あなたを見れば、それは明らかですわ!」

「偏見だ! 世の巨乳諸氏に謝罪を要求する!」

 腕を組んでふんぞり返る。胸が中央に寄った! 大きさが際立ってる!


 貧乳の子は見て見ぬ振り。

「ふーん、少し難しい言葉を使ってみたと言う訳ですわね。そんなんでバカがくつがえるとでも、お思いですの?」


「何を言う! 外見と頭は違うんだよ! そんなことも理解できん貧乳野郎の方が、よっぽどバカなんだよ!」


 うーーーーん、巨乳とバカは結びつくのだろうか? 鷹大が悩んでいると……。


 ドッドドーンッ! ドッドッドッ! ドダダーン ダーン!

 ズン! ズズ~ン!


 轟音と腹にこたえる重低音! 気付くと地面も揺れている!


 地震だ!


 鷹大は音の方角を見た!

「火山だ!」


 女の子たちの斜め後方、何10キロも遠くに赤い富士山のような火山がある。山頂からモクモクと煙を吐いていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る