ヤンチャ坊主と勇者④

 病院へいった蓮司は打撲痕はあるものの比較的軽症ということで帰されることになった。もちろん、その際親が呼ばれたのはいうまでもない。


 駆けつけた母親はそばにいた朝矢たちに見向きもせずに蓮司を抱きしめた。


 腰を下げて蓮司の視線に合わせた母親は大丈夫かと心配そうにみると、蓮司は笑う。


「よかった。知らせを聞いたときは本当に心配したっちゃっけん」


 そのあと、母親は立ち上がると朝矢たちをみる。


「あんたたち! うちの息子になにしたとよ」


 そう怒鳴りつけたのだ。


 その態度に朝矢がムッとしたのはいうまでもない。


「おいたちはなんもしとらん!」


「なんもしとらんわけなかたい! レンちゃんがあざつけとるとよ! どうせ、あんたが殴ったとやろう!」


 そういいながら朝矢を指差す。


「はあ?」



「朝矢くんがそがんことするわけなか!」


 顔を歪める朝矢の間にたった勇と泰はそう訴える。


「そいぎ、あんたたちね!」


 完全に母親は疑ってる。


「お母さん! 違うよ。朝矢くんたちは助けてくれただけだよ。中学生たちに絡まれたから、助けてくれただけ!」


 蓮司は母親の腕をぎゅっと握りしめると必死に訴える。母親は一瞬びっくりしたような顔をしたのだが、すぐに理解してくれたらしい。


「ごめんなさい。勝手に疑って」


「わかればよか」


「でも、あなたも疑うようなことするけんいかんとよ」


「はあ!?」


 朝矢はもう一言いってやろうかと思ったのだが、その前に母親は蓮司の手を引いて出ていってしまった。


「なんだよ! あのおばさん!  むかつくううう」


「まあ、おばさんのいうことも……」


「なんだよ! 文句あっか!?」


 朝矢は勇を睨みつける。


(そういうところがいかんとよ)


 勇は内心そう思いながらも、なにもいわずに朝矢から視線をそらした。


 朝矢は勇の態度から読み取ったのか舌打ちをする。


「朝矢くん!」


 朝矢は呼ばれて振り返ると蓮司が急いでこちらへ駆け寄ってきていた。その後ろにはなにか言いたげにこちらを見ている母親の姿があったが気にしないことにした。 


「どがんしたとや?」

 

「これ!」


 蓮司がなにかを差し出した。見るとビックリマンチョコだったのだ。


「お母さんがごめんなさい。それとこれ渡してなかったから」


「ああ」


 朝矢が受け取ると蓮司は本当にありがとうと、いつになく大きな声で叫ぶと大きく手を振りながら母親のほうへと走り出した。


 母親の手を握った蓮司はそのまま病院の玄関から出ていった。


 それを見送った朝矢だったのだが、ふいにビックリマンチョコのパッケージを開けて、付録のシールを取り出した。


「あれ? レアじゃん」


「本当だ! 勇者たい!」


 覗き込むようにみた勇が羨ましそうに言うと、朝矢はそのシールを勇に渡した。


「え? 朝矢くん?」


「いらん。俺ってそういう柄じゃなかし」


 そういいながら玄関の方へと歩き出す。


「え? なんで? 」


「なんか俺ってその逆の人間じゃん」


「え?」


 勇たちは首をかしげる。


「だって俺って“勇者”よりも“魔王”のほうが似合っとると思うけん」

 


「なにそれ?」


「意味わからん」


「とにかく帰ろうぜ」


 朝矢はそれ以上なにもいわずに歩き出した。



 勇たちは慌ててそれを追いかけた。



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