3・骨董品

 東京都内にある街の一角の新築マンション。そのすぐとなりに古びた二階建ての日本家屋があった。その木造建築の建物の看板には『かぐら骨董店』という名が掲げている。


 その名の通り、骨董品を扱う店で、日本中のあらゆる骨董品の買い取りと売買を行う店である。その証拠に看板りすぐ下には『古いモノ。価値のありそうな骨董品。安く買い取り、高く売ります』と現在話題となつている歌姫の“松澤愛桜まつざわあお”が発言しているような噴き出し付の写真の写ったポスターが張られていた。


 しかし、その実態はただの『骨董店』ではない。


 別の側面として『祓い屋』というものを営んでいる店でもあった。


『祓い屋』というものは、霊や妖怪といった存在によって引き起こされる怪奇現象や事件を解決し、悪霊などを祓う仕事人のことだ。


 霊能力者や拝み屋、もしくは陰陽師。ゴーストハンターなど様々な呼び方をしている同業者もいるのだが、この店では『かぐら骨董店の祓い屋』という名で通している。


 元々、九州で『祓い屋』業を営んでいたのだが、二年ほど前に東京へ進出することになったのだという。


 もちろん、『祓い屋』というオカルトな職業を信じるものは少なく、詐欺と思われることがよくあり、最初のころはほとんど機能していなかったのだ。しかしながら、報酬に高くのお金を請求することもなく、別の何かを代償にすることによって顧客からの信頼を得るようになったのだという。


 それが本当かどうかはさておき、少なくとも『祓い屋』としての依頼はそこそこあるというのは事実だ。


 報酬内容は依頼人によって異なっている。


 それを取り決めるのは、『かぐら骨董店』の店長である土御門桃史郎つちみかどとうしろうだけだ。報酬内容は『かぐら骨董店』に所属するどの『祓い屋』もその協力者も知らない。


 おそらく報酬というものは、『骨董品』ではないかという話もあるのは、仕事が終了した後に骨董店に品物が増えていることが多いからだ。


「こんなもの売れるのかしら?」


 渋谷の事件の翌日、基本的に『かぐら骨董店』の店番をしている澤村桜花さわむらおうかは昨日までなかったはずの弓道に使う的が無造作に置かれていたのだ。


「うーん。意外と売れるとちゃうか? なんか弓道人口増えているらしいでえ」


 高柳成都たかやなぎしげとが桜花の肩に触れながらいう。



「そうかしら?」


「それにい。これだったら、ダーツできへんかあ」


 成都はダーツを投げるふりをして見せた。



「うーん。ダーツ刺さるのかしら?」


その質問に成都はゲームセンターにあるダーツのことを思いだした。たしか、ダーツは弓矢のように尖っていなかったような気がする。


「うーん。そうなんかい? おれはダーツしたことあらへんからなあ」


「だったら、いうな」


「さくらはとしたことあるもか?」


「ないわよ」


「なら、今度のデートはダーツでもしようでえ。ゲーセンやゲーセンデートや」


 そういって成都は張り切って見せた。


 その様子に桜花はため息をもらしながらも、まんざらでもない様子で笑う。


「そういえば、今日はナツキはおらんのか?」


 ふいに大概店に行けば、いるはずの少年の姿がないことに気づいた。


「ああ。ナツキなら有川とスカウトにいくそうよ」


「スカウト?」


「ええ。ナツキが気に入ったらしいわ」


 成都はなんのことなのかわからず首を傾げた。

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