7・モニター越しの歌姫(1)
「おやおや、ナツキ~。その子、気に入ったのかなあ」
その様子を眺めていた優男が軽い口調でいうと、ナツキと呼ばれた子供が無邪気な笑顔を優男に向けながら「そうだよ」という。
「でも、トモ兄のほうが上かなあ」
そういいながら、困惑している
いつまで握っているつもりなのかといわんばかりに視線を送る弦音だが、もう抵抗する気にもなれずに情けなく空を仰いだ。
その様子に
「上? 一番じゃないんだね」
優男がニコニコしながら尋ねた。
「一番じゃないよ。僕の一番は……」
「おいおいあまり、人を巻き込むなといっておけよ。
ナツキの言葉を遮るように
「う~ん。無理だね。ナツキは僕の云う事きかないからねえ」
桃史郎と呼ばれた男は、尚孝から街灯モニターのほうへと視線を向ける。
それにつられるように弦音も樹里もそちらを向いた。
「ほらほら、始まるよ。準備はオッケーかい?」
「ああ。大丈夫だ」
尚孝の返答に合わせるかのように、モニターに映し出されていた女性はマイクを口元に近づける。
「え?
樹里はモニターを見た瞬間につぶやいた。
弦音にみその名前に聞き覚えがあった。樹里を一瞥したのちに再びモニターを見る。
顔もコマーシャルなんかでみたことがある。
『みなさーん。こんにちわ』
彼女の明るい声が交差点に響く。避難していたはずの人々がいつの間にか集まってきて、モニターのほうを見ている。
『突然ですが、ジャックしちゃいました~』
「わああああ」
彼女の声に呼応したように集まってきたギャラリーが熱狂の声をあげる。
さっきまで逃げ出していたはずだというのに人間とは単純なものだと、弦音は呆然と周囲を見回す。もちろん、擦彼には民衆の声などはっきりとは聞こえない。しかし、振動だけは確かに伝わってきたのだ。
響く声援にモニターの向こうにいる彼女が答えるように手を振っている。
その様子にいったいどこに彼女がいるのかという疑問が過るものがいてもおかしくないのだが、熱狂している人たちにも耳栓をした状態の弦音や自体の把握に戸惑っている樹里には、そんな突っ込みをする余裕などなかった。
『というわけで、歌っちゃいまーす。私の歌をよーく聞いて、いやーなこと全部忘れて、日常を取り戻したましょう。行きます。私の十八番“
そして彼女は歌うためのポーズを構える。それに合わせて伴奏が響きわたる。
彼女は歌い始めた。
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