5・光の魂
「花が消えていくわ」
スクランブル交差がよく見えるビルの屋上。人形を持った少女は転落防止のために取り付けられた柵の上に座り、事の成り行きを見守っていた。
「ああ」
少女の後ろにはフードつきの黒いトレーナーをきた青年がたたずんでいる。フードを深くかぶっているために表情はわからない。
「本当にやれやれね。まさかこんな展開になるなんて思わなかったわ」
少女は青年に同意をもとめるかのように振り返った。
青年は何も答えることなく交差点の方を見つめている。
少女はため息を漏らすと青年と同じ方向を見る。
「やっぱりあのまま放っておくべきだったかしら。あの女の子も男の子も同じ気持ちだったとしてもそれを叶えるにはすでに住むセカイが違いすぎたのよ」
少女のまぶたの裏にうつるのは、中学生ぐらいの少女と高校生の少年。
「仕方ないさ。俺たちは彼らの“依頼”を受けたにすぎない。報酬通りにやったのだから、お前が後悔する必要はない」
少女は青年をもう一度見た。
今度はちゃんと少女のほうへと視線を向けている。
「……と割りきれればいいが…。正直、俺は関わるべきではなかったのではないかと思う。結果的にやつらに利用されることになったからな」
「そうね。でも、放っておけなかったのよね。会いたい気持ちがわかるから……。報酬がなくても受けたはずよ。ただ、上手くやつらに利用されたわけだけど……。まあ、彼らが偶然にもかかわったのはよかったかもしれないわ。それにあの娘ときたら彼に憑りつこうとしたのよね。おかげで勝敗は決したもの。結果往来ってことね。そうと思わない?」
少女の声を聞きながら青年の視線は、再び交差点の方へと向く。窪みのあるところ、化け物花がほとんど消えかけていた。
「あらあら、彼女の魂が出てきたわ」
そこからフワフワと光の
「ようやく解放されたわね。ごめんね。わたしたちのせいでとんでもないことになってしまったわね」
少女が手のひらを上に広げると、上ったきた光の魂がそこで止まる。
それから、青年の目の前へとフワフワと飛んで行きしばらく止まった。
青年は驚いたような顔をする。
そして、その光の魂をそっと光の魂を上へと押しだした。魂はそのまま天上へと昇っていき消え去る。
「ふふふ。ありがとうですって。あなたは間違っただけなのにね。ちゃんと、やつらに回収される前に守ったのは彼よ」
少女と青年は化け物花の消え去った跡に佇む朝矢を見る。
「……朝矢……」
青年が朝矢の名をつぶやく。
「ねえ。いい加減、あの子に会ってもいいんじゃないの?」
青年は少女の言葉に答えず、無言で交差点のほうを見ていた。その様子を見て、ため息をもらした少女は柵から降りる。
「そうね。あなたが望むなら仕方ないわ。いまはこの場を去るとしましょうか」
「ああ」
二人は柵に背を向けて歩きだすと、忽然と姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます