第2話、春よ来いってやつだと思います。

春の陽気って言葉は結構好きだ。


僕には語彙力って物が割と自覚できるレベルで欠落しているから


わかりにくいと思うが、なんかこう、好きなのだ。語感とか。


僕の名前は「狐塚秋冬きつねづかしゅうと


よくこづかと勘違いされるけどきつねづか。


今年の春から他県の大学に在学することになる。


2浪の末に志望校に入学することができた。両親には感謝する他ない。


そしてこれからお世話になる親戚の方にも感謝を忘れないようにしよう。


電車に揺られながら駅弁をパクつく。


やっぱり駅弁は良い。冷めていても問題なく美味しい。


こういうのは濃い目のお茶に限る。


しっかりと味付けがされている弁当の間に挟まる良い清涼感を与えてくれる。


そうやって車窓でウキウキとしていると目的地である駅に辿り着いた。


大きい駅だ。


大学が近くにある事が要因になるのだろう。


僕と似たような年齢層の利用客が多いように見える。


これから少なくても4年はこの土地で生活していくことになるのだ。


予定の時間にはまだまだ余裕がある。少し寄り道していこう。


そう思い僕は携帯の地図アプリのルート検索を閉じた。


「うぉっ・・・空気美味いなぁ。」


第一声がこれだ。もうおのぼりさん丸出しじゃないか。


駅から見て少し下り坂になっている商店街を歩く。


ご当地ゆるキャラであろうきぐるみに包まれた人の横でティッシュを配っている。


心なしか、妖怪関係のゆるきゃらが多い。


妖怪ゆかりの逸話でもあるのだろうか。


そういえば、最近噂で聞いたような気がする。


『妖怪の一部は市役所で申請さえすれば条件付きで人間と変わらない生活を送ることを国が許可している』


という内容である。


荒唐無稽コートームケー極まりない噂だと正直僕自身も思うが、


荒唐無稽だからこそ、皆噂するんだろうなとも思う。


そうやって思考を練りながら練り歩いていると、

予定の時間が近づいている事に気づいた僕はそのまま目的地である親戚の家へと向かった。


「えぇと、小見山こみやま・・・小見山こみやま・・・」


あった。アパートの1階、階段下の角部屋。


早速ドアのチャイムを鳴らそうとした時、中から怒号が聞こえてきた。


「なんじゃい!!くそげぇが過ぎるじゃろがい!!」


・・・大丈夫かな?と僕は一瞬で不安になったが、どうしようもないのでそのままドアのチャイムを鳴らすことにした。


でも、なんとなく『楽しくなりそうな気がする』。

根拠のない自信を感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る