君は誰だ
救えなかった。
また、救えなかった。
あの時の僕とは違うはずだったのに。
あの時よりも強くなって、成長して、仲間もできて……。
そして、神様にも機会までもらった。
だから今度こそはと思ったのに。
それなのに、覆らなかった。
「ちくしょう、ちくしょう……」
「テンイさん、あの……」
情けなく項垂れる僕を見た安奈さんが慰めてくれるが、それでも流れる涙が止まらない。
何がダメだった?
何でダメだった?
どうしたら上手くいったんだ?
もう少し早く駆けつけて居たら助けられたのか、それともこの過去の世界に飛ばされた時に、ここが過去だと最初に気づけていればよかったのか。
今となっては分からない。
分かったところで、どうにもならない。
それ故に悔しくて、納得がいかない。
この現実を変えたいという思いが、止まらない。
すると、僕と安奈さん以外に生存者の居ないこの場所で、聞き覚えのある声が響いた。
「思い出したかい?」
「……え? ……なんで?」
そこには、今の僕と同じ年齢にまで成長した、もうひとりの僕が居た。
まてまて、おかしい。
いや、僕がこの世界に存在する事そのものは変じゃない。
この世界は過去で、神様の力でタイムスリップした現実の僕と過去の僕が同時に存在する、そんな世界だ。
だからそれは良い。
だけど今はそれどころか、先ほどまでの陰惨な大事故の後がきれいさっぱり片づけられていて、この道路に車一台走ってはいないのだ。
というより、通行人も消えている。
「まだ気づかないの?」
「な、なにが……?」
何を言っているんだ過去の僕は。
だめだ、頭が混乱して考えが纏まらない。
すると、片手に持っていたお願いタブレットが強く振動して、安奈さんの大声が響き渡った。
「しっかりして下さいテンイさん! あのテンイさんの姿をした何者かは、どうみても普通じゃないです! そもそも、ここに過去のあなたが存在するはずがないんですよ!」
「あ、ああ」
そうだ、確かに過去の僕がこんなところにいるはずがない。
いったい何を惚けていたんだ、少し考えれば分かる事じゃないか。
「ご、ごめん。少し放心していたみたいだ。でもありがとう、今ので正気を取り戻せたよ」
「いえ、いいんです。テンイさんがピンチになった時こそのパートナー、高瀬安奈ちゃんですから」
本当に助かる。
やっぱり僕は一人じゃダメだな、いつも誰かの支えが無いとすぐに間違えてしまう。
でも、それじゃあ目の前のこの男はいったい誰なんだろう。
周りの状況を鑑みても普通の人間ではない事は明白だ。
でもこう、なんだか心がモヤモヤする。
「あーあー。せっかく君に付け入るチャンスだったのに、安奈さんのせいで台無しだよ。ズルいよねー、同じ人間なのに、君には安奈ちゃんが付いていて、僕には何も無いんだから」
「待ってくれ、今はそれどころじゃないはずだ。君は一体誰なんだ? それと、この空間は? 先ほどまでの場所じゃないよね、どうみても」
先ほどまでの場所、つまり両親を救えなかった場所を思い出すたびにどうしようもない絶望が押し寄せるが、現状何が起きているか分からない以上、まずはその確認が先だ。
それにもしかしたら、まだ救える切っ掛けが残されているのかもしれない。
根拠のない希望的観測でしかないけど、この摩訶不思議な状況を鑑みたら、もしかしてと思わずにはいられない。
「え? 何言ってるんだよ、僕の両親は死んだよ。君も目の前で見ただろ」
「…………」
「それにさー、いいよね君は。自分勝手に生きていられてさ。まず最初に神様に助けてもらって、次にクロードさんに育ててもらえて、最後には安奈さんにも支えてもらえて。そりゃあ満たされるよね。気持ちよかったかい?」
「……なにを言っているんだ」
ダメだ、話がかみ合わない。
でも、それなのに何故か、この男の言っている一言一言が僕の胸に突き刺さる。
くそ、惑わされるな僕!
「テンイさん、惑わされないでください」
「分かってるよ。こいつはどう見てもまともじゃない」
「あははは! ちょ、その冗談センスあるね! 君自身の事なのにまともじゃないって、これは傑作だ! さすが僕、……ここまでしても思い出せないなんて、本当にまともじゃない。君の言う通りだ」
そう言うと僕の姿をした男の雰囲気がガラリと変わり、周囲の空気が震えだす。
何か仕掛ける気なのだろうけど、幸いあの男の狙いは僕のようだ。
何の因果か、向こうの力はこちらとそう変わらないように見える。
そうであるならば、自分自身への攻撃に注意していれば緊急時の対処も可能だろう。
「テンイさん、あの人の魔力が急激に高まっています」
「分かってるよ」
「チッ。やっぱり安奈さんがいると厄介だね。取り付く島がないよ。……でもそれなら、こうしようかな」
男がそう言うと、僕の妄想とクロードさんの技術で開発に成功した光線魔法、ようやく最近になってまともに使えるようになってきた、その必殺の魔法を放つ。
そうか、そう来るのか。
でもその攻撃は僕自身には通用しないよ。
なぜなら生み出した魔法を対策する魔法だって、クロードさんは常に編み出してきたからだ。
それに、そっちがそういうつもりなら、僕にだって考えが────。
「なっ!!?」
「なーんて、ね。君を狙うと思ったかい?」
しかし、あの男が攻撃を向けた先は僕ではなく、僕の持つタブレットだった。
そう、あいつは標的である僕ではなく、安奈さんを狙ったのだ。
そしてその瞬間、ずっとつまらなそうにしていた男の顔が、ニヤリと笑った気がした。
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