この過去を変えてやる


 安奈さんが再度コンビニのワイアレス通信を利用し日付を確認したところ、ここが過去である事が明らかになった。


 しかし、過去の世界か。

だけどそれなら、もしかしてだけど、この世界で救う対象というのは……。


「いや、もしかしても何もない。そうとしか考えられない」

「思い当たる節があるんですか?」

「うん、ようやく分かったよ。僕はこの過去の世界で、事故で死んでしまった両親を救うために派遣されてきたんだと思う」


 それを聞いた安奈さんはタブレットの中で驚くが、今はその事を気にしている場合じゃない。

もし僕が考えている通りなら、もうあまり時間は残されていないからだ。


 確か両親が交通事故に会ったと聞かされたのが今日の午後8時、今からおよそ2時間後だ。

それまでに、なんとかして事故を食い止める方法を探さなければならない。


 それに事故について聞かされたのが2時間後なのであって、実際に事故にあった時刻はもっと早いだろう。

どこで何が起きたのかは分かっているが、その正確な時間までは分からない。


 だけど、やるしかない。


「安奈さん、最長であと2時間がタイムリミットだ」

「はい! お任せくださいテンイさん! あらゆる手を尽くしてサポート致します!」


 そう言ってくれる彼女が頼もしい。

そうだ、あの時の何の力もなかった頃の僕とは違う。


 今の僕には過去の記憶がある、クロードさんから授かった魔法がある、安奈さんという仲間がいる、そして神様から受けた加護チャンスがある。


 今度こそ、絶対になんとかしてみせる。


 まず試すのは電話だ。

今のスマートフォンには両親のアドレスを登録はしていないが、公衆電話から自分自身に連絡をつける事が出来る。


 それが失敗したなら次は安奈さんに電話会社へとハッキングしてもらい、両親のアドレスを拾い出してもらう。


 電話をかけ起きるであろう事故のタミングをズラせば、あの悲劇が起こる事はないだろう。


 しかし。


「くそっ!! 出ない!!」

「では、次は私の番ですね!」

「お願いします!」


 家に連絡しても、自分自身に連絡しても電話が繋がる事はなかった。


 この日の僕は確か既に帰宅しているはずで、電話に出ないような事は絶対にないと思っていたのだけど、アテが外れたらしい。


 原因は分からないけど、次の手に移るしかない。


 僕は急いでコンビニに赴き、安奈さんのネット環境を整える。


 ────何をやったって無駄だよ、そんな事をしても僕が干渉させない。


 ────だってここは、今までのような世界じゃないんだからね。


 ────それに僕はただ、君に思い出して欲しいだけさ。


「……? なんだろ?」

「どうしましたテンイさん!? 今、超忙しいんですけど!」

「あ、ああいや。なんでもない、たぶん気のせいだから。それより急ごう」


 誰かの声が頭に響いた気がしたけど、今は気がたっていてそれどころじゃない。


 それから30分ほどして、安奈さんは両親の番号を手に入れた。

まさかたったこれだけの時間でいとも簡単にハッキングを成功させるなんて、やっぱりこういう時の彼女の力は凄い。


 さすが異世界の超科学技術の粋を集めたAIだ。


 だが、それでも。


「嘘だろ、なんで出ないんだ」

「そんな……」


 電話をかけたが、両親のどちらも応答する事はなかった。

これで事実上、今できる全ての連絡経路を絶たれた事になる。


 どうすればいいんだよ、こんなの。


「くっ、時間がない。それならもう、あとは実力行使だ!! 魔法の力をなめるなよ!!」


 実力行使。

つまり、事故現場に赴き、魔法の力を以って強引に止める方法だ。


 正直タイミングを間違えれば全てが台無しだし、仮に成功したとても、両親が助かる代わりに他に死人が出てもおかしくない。

正真正銘、最終手段だ。


 それでも僕はやるしかない、やってやる。



──☆☆☆──



 事故現場にやってきた。

記憶通りならば、この道路の交差点で両親は居眠り運転していたトラックと衝突し、その命を落とす。


 その時に両親の車をいち早く発見すれば成功、タイミング悪く見落とせばそれで終わりという事になる。


 正直人間の集中力では不安しか残らないけど、ここには安奈さんがいる。

彼女はAIであるが故に、こういった作業を苦にしないし、判断能力も僕の比ではない。


 成功するさ、きっと成功する。


 そして、ついにその時はやってきた。


「テンイさん、来ました! 情報にあった車と一致します!」

「よしきた!!」


 両親に全力でテレパシーを掛ける。

この魔法に抵抗するには、それこそ本人が魔法使いでないと拒否するのは不可能だ。


 これで絶対、上手くいく。


 しかし僕の魔力があと少しで届きそうだという所で突如別の魔力が吹き荒れ、僕の魔法が掻き消された。


 ────だから、意味ないんだってば。


「どうしましたテンイさん!? 車、止まってませんよ!!」

「なん、で……?」


 そして何が起きたのかわからず呆けた瞬間、僕の目の前で、スローモーションのように二台の車両が衝突した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る