飛ばされてきたのは……


 ────やっとこの時が来た。


 ────本当に待ちくたびれたよ。


 ────さぁ、始めよう。


 ────楽しい楽しい世界を生きる君と、いつまでも囚われたままの僕の最終決戦だよ。


 ────君と僕の世界の、醜い現実を思い出させてあげる。



──☆☆☆──



 いつものように魔法陣によって転移してきた僕は、見慣れた町の光景を視界に入れる。


「やっぱりここは僕のいた日本みたいだね」

「そのようですね~。私もテンイさんの住んでいた世界の情報をネットで閲覧していましたが、相違ないように見受けられます」


 といっても、いったい何から始めればいいのやら。

僕らはなんの情報も持っていない訳だし、手探りにしても当てずっぽうすぎるよね。

こんなのは今までで初めての事なので、少し困惑している。


 幸いなのはここが僕の住んでいる町であり、勝手知ったる場所というところだろうか。


「とりあえず、ここに飛ばされたってことは何らかの意味があるはずだし、適当に散策しようか」

「ですねぇ」

「まあ、まずは腹ごしらえかな」


 特に何を気にするでもなくいつも利用している近くのファミレスに入り、まだ昼食をとっていなかった僕は日替わり定食を頼む。

記憶が確かなら、ここのファミレスは日替わり定食を頼むと次回以降利用可能な割引きチケットをくれるサービスをしていたはずだ。


 もちろんこのファミレスをよく利用しているので、割引きチケットは財布の中にある。


「ん~、美味しい」


 今日の日替わりはハンバーグ定食のようだ。


「うぅ、酷いですよテンイさん。元人間である私の前でそんなに美味しそうに食べるなんて。くっ、この安奈ちゃんにも生身の身体があればぁ!」

「ふっ、なんだか勝った気がする」

「ムキィー!!」


 その後、謎の優越感を得た僕はハンバーグ定食を食べ終え、カウンターでチケットを取り出す。

すると、割引き券を受け取った受付のお姉さんが怪訝な顔をした。


「あの、お客さま……? これはいっったい?」

「え? 定食の割引き券ですが……」

「失礼ですが、当店ではそのようなサービスを行ってはおりません」

「えぇ?」


 あれ、おかしいな。

いつのまにサービスが終了したのだろうか。

だけど終了したサービスにとやかく言っても始まらないので、素直に引き下がっておこう。


「すみません、勘違いしていたようです」

「いえ、とんでもありません。それではお会計させていただきます」


 少し違和感を感じつつも、会計を済ませ店を出る。

うーん、なんだろうなこの違和感。


 なにかが引っかかる。

でもこういう時って考えても答えなんて出ないこと多いし、まあいいかな。

そうして一旦疑問を流した僕はその場を後にした。


 それから救済目的のターゲットの手がかりを求め、あっちにいったりこっちにいったりすること数時間。

結局なんの成果もないまま、時刻は既に夕方の6時を回ってしまっていた。


 さすがの僕もこれには困り果てる。


「あー、もう! 全然手がかりが掴めないや。いっそのこと一度オフィスに戻って、神様にヒントを聞いて来る? これ明らかに神様の不手際だよね」


 ここは異世界でもなんでもないはずなので、同じ場所に天空城があるはずだ。

ならばこういう手も可能であろう。


 しかしこの名案とも思える僕のアイディアに、安奈さんはなぜか難色を示した。


「あのぅ、テンイさん。それなんですが、なんだかおかしくありませんか?」

「え? 何が?」

「私もまさかと思って、先ほどコンビニのワイヤレス通信で天空城のオフィスに連絡を送ったのですが、まったく応答が無いんです。いえ、それどころか天空城のオフィスがあった場所が、その……」


 嫌な予感がした。

でも、まさかそんなはずは……。


「えっと、もしかして……」

「はい、天空城という場所そのものが無くなってます。ビルも廃墟になっていますね」


 あちゃあ、まじかぁ……。

でも、それならここは何処なんだろうか?

もしかして同じ条件の整った、日本という異世界だったりするのかな?


「ああそうか、だからチケットが使えなかったのかぁ。なるほど」

「ん? チケットですか……?」

「そうそう、会計の時に見てなかった? いつも使ってたファミレスの割引き券が使えなかったんだよ。むしろそんなものは存在しないみたいな対応だったね」

「ちょっと、それを早く言ってください!」

「えぇ? と、言われましても」


 安奈さんは僕の言葉に何かの引っかかりを覚えたのか、お願いタブレットの中でピコピコと忙しなく計算しはじめた。

いったい何が分かったのというのだろうか。


「使用不可の割引き券、同環境の日本、まだ存在すらしていないオフィス、まさか……!!」

「うん?」

「まさかここ、過去の日本なのでは!?」


 ふむ。

ほう……。

なるほどね。


 ふむ。


「って、えぇぇえええええええええ!?」

「きたあああああああ! 私、天才!」


 いや、それはさすがに予想外だよ安奈さん。

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