時を越えた英雄の章

不確定な未来


 妹とそれなりに充実した休日を過ごした僕は、月曜日に天空城へと出社した。


「おはようございます神様、安奈さん」

「おや、おはよう」

「おはようございますテンイさん!」


 既に出社していると言っていいのか分からないけど、いつもようにいつ帰っているのか分からない神様は、社長席でのんびりと僕を待っていた。


 もしかして彼はこのオフィスが自宅なのだろうか?

疑問は尽きない。


「さて、テンイくんと安奈ちゃんが揃った事だし、さっそく次の仕事に出向いてもらうとしよう。それともし仕事に迷うようであれば、僕がお願いタブレットにまとめた一覧を見てみると良い。今の天伊くんと、そして安奈ちゃんに適した難易度の仕事をピックアップしておいたから」


 おお、それはありがたい。

正直なところ、僕も何を選ぶか全く決めてなかったんだよね。


 そしてお願いタブレットを操作し、安奈さんとピックアップされた依頼を見ていくと、気になる項目を見つけた。


「神様、この【難易度・中、救済回数不明、人数制限なし】っていうのは何ですか? いや、難易度の方は分かるんですけど……」


 問いかけると、「ああ、それね」と神様は頷き説明を始めた。


「まあなんていうか、その依頼はちょっと特殊でね。時代を超えて何度も依頼を受けてもらう事になるんだ。それも同じ異世界でね」

「それはまた」


 確かに特殊な依頼だ。


「だけどそれも恐らくそうであろう、という予測でしかなくて、上手く行けば一回で済むかもしれないし、やっぱり2回も3回もお願いを叶えてあげなきゃいけないかもしれない。そんな感じの仕事なんだよ」

「不確定要素の多い依頼なんですね。……ふむふむ」


 だけど興味がある。

この神様ですら予想の出来ない、そんな人物の依頼がどんなものなのかすごく気になるんだ。


「おや、やるのかい? もしやるなら安奈ちゃんとペアの方が良いよ、天伊くんもずっと彼女と離れ離れでは寂しいだろう」

「な!? そ、そんな事ないです!!」

「おんやぁ~? テンイさん照れちゃってますぅ? だいじょーぶです、この安奈ちゃんがいつでも傍にいてあげますって。もし嫌だって言ってもついて行っちゃいますから」

「ぐっ、この……」


 だめだ、完全に安奈さんに遊ばれている。

これは本当について来る目だ。


「にししし」

「はぁ、分かりました。分かりましたよ! 一緒に受けましょうこの依頼を」

「やったぁ~!」


 こういう時、安奈さんみたいな性格の人って得だよなぁなんて思いつつも、僕は仕事を選んだ。


「決まりだね。それではテンイくん、君は前回の報酬を選ぶと良いだろう。オススメは魔力増幅を2回だ」

「え? なんでですか?」


 まあ、魔法は僕の切り札みたいなものだしそれで良いのだけれど、わざわざオススメする理由はなんなのだろう。


「行ってみれば分かるさ。特に向こうでは、君に出来ることが限られているからね」

「分かりました。ではそれで」


 別段拒否する理由も無いので加護を続けてとり、魔力増幅2にまで昇華させた。

これで準備はオーケーだ。


「準備が出来たようだね。それではさっそく向こうへ飛ばすとしよう」

「よろしくお願いします」

「よろしくぅ!」


 すると、いつものように足元へと魔法陣が出現し、僕の意識は異世界へと飛ばされていった。



──☆☆☆───



「なんでだ! なんで俺がこんな目に合わなきゃいけない!! くそ、今すぐここから出せ! この俺を誰だと思っているんだ!?」

「坊ちゃん、納得してください。これはあなたの御父上の決断なのです。そして、それでも反省が無いようであれば、今度こそ親子の縁を切るとも仰せつかっております。……それでは私はこれで」

「くっそぉお!!」


 目が覚めると、いきなり修羅場に遭遇した。

なぜか召喚された場所は牢屋で、さらにそこでは閉じ込められた貴族服のぽっちゃりさんが掴まっていて、警備の兵士と思わしき男性に当たり散らしている。


 これはどういう事だろうか?


 あと、ついでに言うとなぜか僕の肉体は消失し、いつの間にか意識だけの幽霊になっていた。


『どう思う? 安奈さん』

『なるほど。こうやって魂だけの存在として召喚されるからこそ、神様は魔力系の加護を優先したんですね。納得です』


 ああ、なるほど……。


『ってそうじゃなくて、今回の依頼主の事だよ』

『それはもちろん、あのぽっちゃり貴族さんが依頼主ではないんですか? ここに召喚されたんですし』

『やっぱりそう思うよね』


 でもそうなると、召喚者の彼は何を望んだのだろう。

やっぱり脱獄とかかな?


 とりあえずしばらくは様子を見て、折を見て彼に思念を繋いでみようかな。

もちろん手段はテレパシーだ。


 手探りではあるけど、彼の人となりを知れば何か分かってくる事もあるだろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る