異世界での戦闘
この世界に召喚されてから3ヶ月程経ったある日、僕は学院の城下町とも言える魔法都市で日用品の買い足しをしていた。
最近お世話になっている看板娘、ナターシャちゃんの居る雑貨店で、大魔法使いにして師匠のクロードさんの手助けとなる雑用をこなす為に、色々と買い揃える必要があるのだ。
食料品に魔法薬の素材、はたまたペンのインクなどなど、あまりにも頻繁に訪れるものだから、すっかり顔見知りになってしまった。
「今日は魔猪の肉まるごとと、果物類でお願いします」
「はーい!まいどありぃ!」
そういってまだ中高校生くらいの、僕の妹とそこまで年齢の変わら無さそうなナターシャちゃんは信じられない怪力で肉を運んでくる。
どうやら身体強化っていう魔法を使っているらしいのだけど、よくこの歳で魔法を使えるなと感心してしまう。
魔法の原理はクロードさんの授業で理解できているのだけど、肝心の魔法の方は未ださっぱりなのだ。
まず魔力という力の存在を感知できたのがここ数日の事なので、それをコントロールして術を発現させるなど、まだまだ先の先といった所。
師匠に言わせれば驚異的な成長速度らしいのだが、それでも目の前で少女が魔法を使っているところを見てしまうと、自信を無くしてしまう。
まあ、いいんだけどね。
僕には帰ったら神様の報酬がある訳だし。
ちなみにナターシャちゃんは僕が学院長の弟子だという事を知っている、というか、周知の事実なので、まさかこの立場にありながら魔法が一切使えないなどとは考えてもいないだろう。
そして学院から借り受けている魔法の収納カバンに猪肉とその他食材を入れていくと、今度は彼女の方から話を切り出してきた。
「それでぇ~、テンイさんはまだ婚約者とかいないんですかぁ?」
「ああ、うん。まあ今はそれどころじゃないからね、日々を生きるのに精いっぱいなのさ」
「そっかぁ~。……むふふ」
何やら怪しげな空気を匂わせるナターシャちゃんだが、この反応も毎度の事だ。
なにせ僕のバックについているのは賢者とすら呼ばれている大魔法使い、この世界の魔法使いのトップなのだ。
日本人ということで、この世界の人よりもかなり若作りな僕は、見た目だけなら彼女とそう年齢が変わったようにも見えない。
故に僕と接触する事の多い彼女からすれば、これは千載一遇のチャンスであり、玉の輿だったりする。
もちろん僕は願いを叶えたらこの世界に留まれなくなってしまうような存在なので、結婚だとかそういう無責任な事ができる立場ではない。
故にこの手の誘いに乗る訳にはいかないのだが、……やはり男として美少女にモテるのは嬉しかったりする。
なのでつい、曖昧な返事を返してしまうのだ。
「それじゃあ、今日はありがとう。また来るよ」
「はぁい!是非またいらしてくださーい!婚約の申し込みならいつでも大歓迎です!」
ズッコケそうになった。
こうして周りをけん制し、自分との仲が進んでいることを忘れないとは、なかなかに強かな少女のようだ。
案外彼女のような子は、僕がいなくなったあと本当に玉の輿を手に入れてしまうかもしれない。
そんな気がする。
そしてその日の夜、僕はいつものように魔法の授業を受けつつも、今日あった出来事なんかを雑談としてクロードさんに伝えていると、ふと師匠が何かに気づいたように真剣な表情になった。
「ふむ。もうしばらくは動きはないだろうと思っていたが、案外早く鼠が紛れ込んできたようだのぉ」
「……え?」
そういった大魔法使いクロード・ウォン・グリモアの手には杖が握られており、その杖を通して魔力が高まっていくのを感じた。
いつもと様子が違う、何が起きているのだろうか。
すると、突如として窓から角の生えた赤黒い人間が姿を現し、僕とクロードさんめがけて襲い掛かってきたのである。
「ワシの可愛い弟子との対話を邪魔するとは、それ相応の覚悟があっての事じゃろうなぁ?ええ、魔族よ。あの魔王は穏健派じゃったが、もしや代替わりしたのかの?まあよい、死ね」
「…………ッ!!」
侵入してきた赤黒い人間、魔族と呼ばれたそれは、クロードさんが杖をかざすと一瞬で拘束され、次いで発動された光のビームで灰も残さず消し飛ばされていった。
な、なんだこれ。
というかこれが本当の戦闘、そして魔法使いの力か。
圧倒的な実力差を前に一瞬でカタがついたにも関わらず、僕は初めて受けた本物の殺意に尻もちをつき、腰が抜けてしまったようだ。
いまも足がガクガク言っている。
「テンイ、心配せんでええ。弟子を守るのは師匠の役目じゃからな。向こうに動きがあった事さえ分かれば、こちらもそれ相応の準備が出来る。もう二度とこのような侵入は許すまいて」
そう言って軽快に笑うお爺さんことクロード師匠。
情けない話だけど、僕は今日初めて、召喚者となった彼の本当の実力を垣間見る事ができたのであった。
余談だけど、今回使用された拘束魔法とビーム魔法は僕の妄想力を元に開発された魔法であり、それぞれ重力魔法と光線魔法と名付けられていた。
そして光線魔法の元となったのは某光の巨人が発する、スペースな光線だ。
こんな妄想を吹き込む僕も僕だけど、それを実現しちゃう師匠もまた可笑しいと思う。
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