第25話 嫌な夢

 夢の中でルキアと会った。


『準決勝進出おめでとう、愛しのルア』

「やめろ」


 アカネの姿で堂々と現れたルキア。こいつは、本来の姿を持っていない。毎度、いろんな人に化けてはぼくの心を奪おうと狙ってくる悪い奴だ。おせっかいなところもあるが。


『せっかく着飾ってきたのに…まぁ、アカネの言葉を思い出したきっかけだよね』


 不敵な笑みを浮かべていた。


『この調子で準決勝…ククク、そんなにうまくいくのかな?』


「なにが言いたい!」


 ルキアは満面な笑みを浮かべながらぼくを心の底から突き落とすかのように手のひらでぼくを突き飛ばす。


 !? いつの間に背後が崖に変わっていた。

 真っ暗で底が計り知れない。この穴に落ちたら、戻ってこられるのか? 不安と恐怖が落ちたことで同時に迫りきた。


「油断はしないっ!」


 ぼくは指先から糸状の魔法を編み出し、がけっぷちにロープのようにして掴み取った。


『いつまでもつかな』


「クソッ! 昨日よりも数倍の押しだな」


 手の指10本でどうにか体を支えれる。だが、いつまでもこのままではいられない。なぜなら、地の底へと足を引っ張るかのように亡者たちが足を引っ張るのだ。力は徐々に強まり、両手でローブに力を込めて登ろうとしているのに、這い上がることはおろか、下半身が動かない状況にまで追い込まれていた。


『無駄な足掻きだ。俺を取り込めば、すべては満ちる』


「いやだ…! ぼくはあきらめない。せっかくつかんだチャンスなんだ!」


 魔女ソラと取引した。この忌まわしきルキアの呪いを解く術とルシアーノに掛けられた呪いを解く方法を。このチャンスを逃したら二度と手に入らない。取り戻せない。


 ぼくは、ロープに力を籠めるだけでなく、尻にも力を込めた。

 下品だが、おならの力をジェット機のようにガスの力を吹き飛ばせば、地上へ昇れるのだと確信したのだ。


 もちろん、成功した。


『動けない身体とは別の器官に働きをかけたか…この調子で強くなれよ』


 そう言って、ルキアは再びクッククと笑いながら闇に消えた。


 ――夢が覚めた。


 天井に向かって両手を挙げていた。

 汗ばみ、身体中から汗が噴き出て、ベットのシーツは濡れてしまっていた。

 身体を起こせば、全身筋肉痛だ。


 ビキビキと筋肉が張り、動かそうとするだけで木の棒を身体の中に固定されたかのように肉や骨がきしむ。


 喉はカラカラ。唾はおろか、息を吐くだけで喉の底からひっかくかのような痛みが出る。ぼくは、早々に呪文を唱えた。


 宙に浮かぶコップ。コップの中にどこからともなく水が注ぎこまれ、コップ一杯分に水が入った。その水を口の中へ注ぎ込む。


 ゴクゴクと音を立てて、喉の渇きを潤す。

 先ほどまでの痛みは消えていくのが分かる。


 身体が水分に飢えていた。その渇きを水によって浄化される。

 身体の芯まで水で満たされる。


 ようやくして、コップ一杯分の水がなくなるころには、体は正常に取り戻していた。


「ルキアめ…必ず追い出してやる」


 ぼくは心にそう深く刻み込み、扉から外へ出た。

 もう朝日が昇っていた。

 本を読みながら、「どうかしたのか」とクロナに尋ねられた。濡れたシーツを片腕に垂らしていたからだ。


「嫌な夢を見た」


 ぼくはシーツを洗濯機がある部屋へ行き、クロナを後にしようとした。


「悩みがあるのなら、話しに乗るよ」


「ああ、そのうちにね」


 ぼくは部屋を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る