第19話 取引

 魔女ソラから提案が持ち出された。


「君の声を引き換えに、その剣を譲ってくれないか」


 ルシアーノの剣に興味を持った様子だった。

 もちろん、ルシアーノは断った。


「……声よりも、剣を求めるか…それでは友を呼べないぞ、仲間も呼べない、自ら声を発することも、助けを呼ぶことも、言いたいことも何も言えない。剣でしか喋る相手がいない。それでいいのか? 剣か声か、どちらを選んだ方が正しいのか」


 しつこい。

 ルシアーノは困惑している。


「声を解く呪いはまだ見つかっていないが、解除する方法はある。一筋縄ではいかない相手をしている。命賭けだ。もし、声を取り戻すことができたら、その剣を使って、手伝ってほしいことがある」


 聖剣アルベルクを使ってまでやりたいこと!?

 ルシアーノは声が出ない口でなにかを言った。


「…わかった。それでいい。私たちは君の呪いを解こう」


 そう言って、ソラ達は去っていった。


「取引成立…ではなく半成立だ。ソラはああいうが、君のことを心配している。賢者ククルトからの依頼でもあるからな」


 そう言って、心配そうにルシアーノにフォローして帰っていった。


 ルシアーノは剣を抱き、いろいろと考えていた。

 魔女ソラと半分取引した。


 これでよかったのか…と。

 ルシアーノの浮かない顔だ。

 友達なら、励ましたりするところだけど、言葉が思いつかない。


「……」


「ルシアーノ?」


「……」


 黙って振り向いた。

 悲し気な表情だった。


「なにと取引したんだ!?」


 ルシアーノは剣を仕舞い込んだ。


「……」


 振り返り、部屋に戻った。

 休日の夜、満月が昇る空の下で、魔女と会った。

 ベランダからは初夏の熱風が吹いていた。


 魔女ソラ達が還った後は、ふんわりとした空気が流れてきた。露出していた肌に適温の風を吹かせたようだった。

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