第2話 エレナ
転校して初日、赤毛の女の子と一緒に入った。
赤毛の女の子はぼくとおなじ転入生だった。前の学校でうまくいかず親戚の推薦でここに来たという。
「初めまして、リターナ」
「ぼくはルア」
握手した。
「あなたは何クラス? 私はBよ」
「クラス? なんの話だ」
「あら、なにも聞かされていないのね、いいわ。せっかくだしライバルになるかもしれないし、友達になるかもしれないし。」
この学校では学年で分けてはいない。主にクラスと呼ばれるランク付けで分けられている。Aなら特優生、Dなら落ちこぼれといった具合だ。Aランクなら将来有望となることが認められている。
就職も高収入が認められる。
Dなら雑仕事ぐらいしか仕事が与えられない。しかも給料が低い。成人して長生きしようと思う人はいないだろう。
Bは常人並。人並みにできてなお、自分で解決できるほどの力を持った者たちがいる。
Cは平凡。人並みにできないものも含めて何かしらの問題を抱えている人たちがいる。
BとCが生徒の人数は多い。AとDは少ないそうだ。
「Aは将来有望だ。Dは残念な人生になりそうだ」
「そうね。でもAでもDでもBやCに移行することもできるのよ」
「ほぅ、テストに合格するか、箒に乗ってレースに優勝するかか?」
赤毛の女の子は首を左右に振った。
「クラスは一年ごとに三回行われる試練でクラスは変わるのよ。しかも、採点次第で上下する。」
「ちなみに本人の意見で立ち止ることもできるのか?」
「ええ、できるわ。本人次第よ。もちろん、お友達を待つために保留する人もいるわ」
「それを聞いて安心だ」
「それじゃ、あなたのクラスを教えて頂戴」
「わかった」
皮付きの手提げカバンから配布された書類と取り出し読み上げた。
「……Cだ」
「あら、下だったのね。いいライバルになりそうだわ。せいぜいDランクに落ちない事ね」
鼻で笑った。
転校初日、敵対したような感じだ。
*
学長に学校内を案内してもらった。リターナとは別だ。ランクに応じて学校の施設は変わってくる。中央の施設から橋を渡った先に本校がある。
それぞれ違う学校の生徒として過ごすことが目的だ。
ランクに違いを分けるのも身分の違いを証明するためだと思われる。
「こちらがCクラスです。生徒はおよそ92人います。あなたを含めると93人です」
三階ほどの高さの天井に300メートルほどの長い廊下のような部屋だった。主に休憩として使うようだ。各自の自由で遊びや昼食などに使うのだという。夏になればここはプールとなり、冬になれば雪原となる。秋ではパンプキンお祭りを開かれる。春になれば各地から出展されるお店などが並ぶ。
「今日は生徒が少ないですが、みな授業あたりでしょう。ここにいるのは不良ぐらいでしょう。さて、あなたの部屋とチームメンバーを紹介しますわ」
学長がハイハイと手を叩きながら次の部屋へ向かおうとしたとき、背中から誰が倒れてきた。
不意に手を継いで胸や顔を打つことはなかったが誰が倒れて来たのか振り向き「危ないじゃないか!」と言い放ったとき、翡翠色の髪をした女の子が「ごめんなさい」とペコペコと謝りながら起き上がっていた。
「エレナ、人様にぶつかっておいてチョー余裕じゃない?」
「ウケルー! どこを見ていたらそうなるのよー」
三人の女子が翡翠の髪をした女の子に向けて爆笑していた。
「そいつドジなのよ。ごめんねー」
「あちゃー、服が濡れ濡れ、最悪ッ!」
翡翠の女の子が慌ててハンカチを取り出し、ぼくの服を拭っていた。どうやら倒れたときに持っていたお水を吹っ掛けてしまったらしい。
「いいよ。ぼくがやる風熱魔法(ドライヤー)」
みるみるとぬれていた箇所が渇いていった。
「本当にごめんなさいッ!」
「いいよ。君が謝ることじゃないよ」
笑っていた三人のうちリーダー格が近寄ってきた。翡翠の女の子は一瞬怖がったのが見えた。そのリーダーと目線が合う時、翡翠の女の子はひそかに「こないで…」と呟いていた。
「聞こえてーんぞ! 私に向かって「こないで…」とか化け物扱いかよ!」
翡翠の女の子の頭を両手でつかみあげ、顔面を押し当てた。
「いいか! 私の指示に従え! お前は負けたんだ。服従を使ったんだ! 魔法バトルで負けた奴が主を背くのは伝統が許されない!!」
伝統…? 魔法バトル…? カバンから書類を取り出し、その単語を調べた。
伝統。…というよりも校則っぽい。ページはあっているはず…。学校内にて生徒は以下のことを守らなくてはならない。
1、魔法で相手を傷つけてはいけない。
2、魔法バトルで対戦したとき、負けたものは勝ったものに従わなければならない。
3、立ち入り禁止区域に出入りは禁止。学長、関係者の立ち合いのみ許可される。
4、いかなる理由からでも定められたクラス以外に立ち寄ってはいけない。
5、授業はでなくてもいい。しかし、7割以上の評価を得ることができない場合、下のランクに強制的に落とされる
6、生徒はルームシェアとして部屋が与えられる。主に二人から四人まで。学長が決められた人かもしくは、その生徒からの申し入れで変更することが可能。
7は――ガチャーンとなにかが割れるような音が聞こえた。
振り向くと、翡翠の女の子が窓ガラスに頭を突っ込まれていた。額から血が流れている。
「なにしているんだよ! ノロマ! あ~あ~、掃除大変だなー」
どうやら女の子を窓ガラスに叩きつけたようだ。これは虐めとか生ぬるい問題じゃない。虐待だ。
翡翠の女の子が危ない。
――魔法バトル。そうだ。魔法バトルで彼女を奪えばいいのか。
「いくら何でもその子がかわいそうだろ」
「チームに口出しするな! チームメンバーはリーダーの指示のもと、抜けることも他人にちょっかい出されるのも断じて許されない。つまり、君は校則を破ろうとしている!」
だからといって傍でそんなことをされて見ていられない。
「だったら――」
「だったら?」
「魔法バトルで勝負だ!」
「おいおい、マジかよ」
リーダーの連れ子がありえないっていう顔をしている。
「リーダー、その子は放っておこうよ。リーダー…?」
「乗ろう」
「リーダー!?」
「どのみち、そいつはちょっかい出してくるだろう。あのクロナという女もそうだ。いいだろう。勝負しよう。もし、お前が負けたら今後一切、私たちにちょっかいを出さない事。もちろん注意も警告も一切無視しろ! それで、お前の要件は?」
「ぼくは、その子をぼくのチームに譲ることだ。ぼくが率いるチームメンバーとしてその子を仲間にする!」
告白かよって、連れ子がひゃーと叫んでいた。
ぼくはもっぱら聞こえないふりをした。
「いいだろう。学長の前でコテンパンにしてやるよ。そうだ、もうひとつ追加しよう。お互いの今後のために。どちらかが負ければDランクに落ちる」
これで負ければ、お互い顔を会わない生活になる。そのうえ、Cランクよりも低いDランク。さんざんこき使うこともできる。Dランクは人生落ちこぼれ組だ。そうそう這い上がってこない。
「いいよ。」
「そうこなっくちゃーな」
*
後から事情を聴いた学長が魔法バトルの戦場を準備するためぼくを置いていった。その代り、翡翠の女の子が学内を案内してくれた。
「私、エレナ。みんなからトロくさいと言われるけど、わたしなりに頑張っているのよ。でも、周りは中々評価してくれなくってね…エヘヘ」
「ルア。転校してから日が浅いから学校内のことを詳しく教えてください。エレナ先輩」
「せっせ、せんぱいーー!!」
頬がカァーと赤く沸騰した。
学年はない。年齢は同じでも所属している日数はエレナの方が上だから、先輩として呼んだ。
「わ、わわわ…わかったわ。先輩に負かしておけー!」
魔法バトルまで一時間の間、エレナと一緒に学内を見学した。
魔法バトルは先ほどの休憩場で行うことになった。部屋に入った時、すでにお祭り好きの生徒たちが歓声していた。
もちろん、学長も謎のノリで司会者を演じていた。
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