第37話



 カレンダーは既にめくられ、12ある月の内の5番目に突入した。


 新入生は学校に慣れ始め、在校生は新しいクラスに溶け込んでくる時期だ。


 そんな時期にここミストレア学園では学園の強者が集って戦うランキング戦が行われる。


 1年間、自身が磨いた魔術がどれくらいなのか……鍛錬の成果を見せるにはもってこいの場である。


 と言っても新入生は僅か1ヶ月なので参加する人は少ないらしいが。

 にもかかわらず、何故新入生ピッチピチの俺がランキング戦なんかに出ないといけないのか。


 とりあえずベルゴールというナルシストと決着をつけるために俺はこのランキング戦に出場する(ファウストという名の生徒会長に勝手に決められたともいう)。


 めんどくさいことこの上ないのだが、とりあえず奴をぶっ飛ばしたいというのはマジなので参加することにした。


 ランキング戦はコロシアムと呼ばれるドーム型の闘技場をモチーフにした大きな建物内で行われる。


 そして今はそのランキング戦開会式の真っ最中なのだが……。


「日頃の特訓の成果を十二分に発揮し、悔いのない戦いを……」


 このバーコード禿(校長)の話が長すぎる。かれこれ15分になるぞ。


 ここで余談だが、このバーコード禿は特に名のある魔術師というわけではない。


 普通なら大きな魔術学園には名を馳せた人が就任しそうだが、何でもこの学園の理事長が有名なのでその人が色々と切り盛りしているらしい。


「であるから、魔術というのは……」


 まだやってたのかよ!?

 俺が1個豆知識挟む間に終わると思ってたのに。


「よし、今からあの校長を神楽で吹っ飛ばす」


 俺はそう呟いて髪をとめていた簪を外す。


「ちょ! リオード何やってんだ!」


 それをシンが止めようとする。


「るせぇ! もう我慢ならねえんだよ!」

「だとしてもぶっ飛ばしたらダメだろ!」

「大丈夫だ。ぶっ飛ばすんじゃねぇ、吹っ飛ばす!」

「そういう問題じゃねぇ!!」

「さぁて、やるぞ雪……」

『オッケー任せて?』

「出て来ちゃったよ!!」


 よっしゃ……。

 とりあえず一回凍らせてから風で吹き飛ばすか。


「それでは頑張って下さい。これで終わります」


 俺が今まさに雪を神楽にしたところで校長は話を締めくくった。


 チッ……タイミングのいいやろうだ。



 ◇



 糞ダルい開会式を終えた生徒達はそれぞれの場所へと移動する。

 ランキング戦に出場する生徒は控え室へ、しない人は観客席へって具合に。


 俺は一応選手なのでもちろん控え室へと移動する。

 控え室には参加者全員や激励に来た人などもいるため、狭い……と思ったのだが普通に部屋自体が広かった。


「しかしまあ暑くなってきたな」


 俺は持ってきた扇子で自分を扇ぐ。

 ちなみにランキング戦も実技の授業同様服の指定はないため俺は和服である。


「最近は5月でも暑い日がありますね」


 フィルは戦わないので制服を着ている。

 そして疑問なのはどこからか持ってきた団扇で俺を扇いでいることだ。


 何で?と聞いたら「これから頑張る兄さんへのご褒美です」と言っていたが、ご褒美ってーのは終わった後にくれるもんじゃねえのか?


「それよりもリオードは随分とリラックスしてますね」


 隣で読んでいた本を閉じたグランが俺に顔を向ける。

 全く、どこがリラックスしてるというんだ。


「机に足を乗せながらだらしなく座って、扇子で自分を扇ぎつつフィルに扇いでもらって、更にはミル飲んでる人が言うセリフじゃないよね?」


 わざわざご丁寧に状況を説明してくれたテトラは何故か苦笑い。


「だって俺甘いもの大好きだもん」

「それは関係なくね?」


 うん、ごもっとも。


「貴方は今日学園9位の実力者と戦うのですよ? 普通なら緊張してガチガチになるはずなのに……」


 不思議そう……というよりは呆れてる表情だなこりゃ。

 何だ緊張を知らないバカってか?


 バーロー、俺だって緊張くらいするわ。

 確か雑誌の懸賞で[チマチョゴリ君ストラップ]の当選発表の前の日は緊張して眠れなかったわ。


「果てしなくどうでもいいなそれ」


 なに?

 あの読者全員応募サービスのチマチョゴリ君をどうでもいいだと?


「兄さん、全員応募サービスなら必ず当たりますよ……」

「あ……」


 そ う だ っ た ! !


「バカめ……」


 リリーがボソッと呟く。

 今までのような冷たい響きに聞こえないのは俺の気のせいなのか。


 いや、これはあれか!

 リリーの暴言が逆に気持ち良くなってきたパターンか!

 っしゃキタコレ!流石は俺の順応力だぜ!!


「それ、言ってて恥ずかしくないんですか?」


 グランはそう言ってため息をついた。


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