第20話 模擬戦5



「ベルさん、アンタは俺を怒らせた……。1番越えてはいけないラインを越えてしまったんだ……」


 怒りに拳を震わせるリオード。


「おい、アイツ何かいい感じのこと言ってるけど……」

「えぇ、ただのシスコンですね」


 シンとグランがリオードに聞こえないほどの小さな声で話す。


「リオードくんってよくわからないよね」

「ただの変態のクズだ……」


 テトラの困惑したような態度に冷たくリオードをけなす言葉を投げ掛けるリリネット。


「お、いい度胸だなお前。教師に向かってその態度か?」

「るっせー。フィルに手を出すような奴は全て敵だ。教師だろうが関係ねぇよ」

「言うねぇ……。後で妹奪われて泣くなよこよロン毛野郎」

「その言葉そっくり返すよ天パ野郎」

「あ、カチンときた。天パバカにすんなよ?」

「ハッ……天パがなに粋がってやがる。その髪毟り取って鳥の巣にしてやらぁ」


 徐々にヒートアップしていく2人。


「お、おい……何か寒くねえか?」

「え、僕は暑いですよ?」

「そ、それに地面揺れてない?」

「………………」

「いや無言かよ……」


 周りで見ていた4人には2人の周りが歪んでいるのが見えていた。

 もちろんそれは2人のよくわからないヤル気のせいなのだが。


「よし、お前ら絶対に手出すなよ? この天パクソ教師は俺が抹殺してやらぁ」

「いや、俺ら降参したし……抹殺はダメじゃね?」

「よし、女子達よ……この変態シスコンロン毛は俺が滅するからそのあと抱きついてこい」

「いや、滅しなくても……あとサラッとセクハラ発言しないでください」


 2人に的確なツッコミを送るシンとテトラ。

 しかしギャラリーに言葉を送ったはずの2人は、返答を全く聞いていなかった。


「んじゃ、そろそろ始めるか」

「あぁ、そうだな」


 そう言い合ってお互いに構えを取る。

 ベルドはポケットに手を突っ込んだまま力を抜いて立っており、リオードは両手を下げ自然体のように立っていた。


 そこから微動だにせずジッと睨み合う2人。

 その様子を黙って見つめる4人。

 2人の間と周りの4人を沈黙が包む。


 幻聴かもしれない……。

 だがその時、6人の耳には何かが落ちる音が聞こえた。


「ッ!!」


 ベルドは目を疑った。

 さっきまで10メートルほど離れていたはずのリオードが一瞬、瞬きをしたあとには自分の目の前まで迫っていたのだから。


「ふっ!」

「チッ……」


 リオードから放たれた左のハイキック。

 強引に体を後ろに反らして何とかそれをよける。


「「「「えっ?」」」」


 その1回の攻防の後、ようやくシン達が反応を示した。

 リオードは動きを止めない、直ぐさまベルドとの距離を詰める。

 腹部へと右の掌底、ベルドは左膝を上げることによってそれを受け止める。

 そこから右手を素早く引き戻し首元に向かって抜き手を放つ。


「ぐっ……」


 左手でそれを掴みがら空きの右側の脇腹へと膝蹴り。

 しかしリオードは掴まれた腕を軸に飛び上がり、宙に浮く状態から右足での蹴りを放つ。


「クソッ!」


 ベルドは慌てて掴んでいたリオードの手を離し、バク転の要領で蹴りをかわしながら距離をとった。


「チッ……逃がしたか」


 ほんの少し悔しそうに舌打ちをするリオード。

 周りの4人は余りにもハイレベルな一瞬の攻防に口を開けたまま固まっていた。


(何て無駄の無い動きだ……いや、それよりもその前の一瞬で俺との距離を詰めたあの動きは一体……)


 ベルドはポーカーフェイスを装うものの、内心は驚きでいっぱいだった。


「どうしたベルさん。漏らしたか?」

「アホが、お漏らしは2年前に卒業したわ」

「いや、それはそれで問題だろ」


 軽口を叩き合うが視線はお互いの動きを探っている。


(今度はこっちから仕掛けてみるか……)


 そう考えたベルはベストから銀を取り出す。

 クルクルと指で数回回しながらタイミングを計る。


(よし……)


 素早く右手を振るい、銀を投擲する。

 リオードは右足を振り上げ銀を蹴り上げる。

 しかしそれは予想出来たようで、弾かれたすぐ後にはベルドは次の銀を構えていた。


「今度は5本だ、避けきれるか?」


 挑発的な笑みを浮かべながらベルドは再度銀をリオードに向かって投擲する。

 しかも10本。


「この嘘つきぃぃぃっ!!!」


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