第19話 模擬戦4
先程よりは小さめではあるが轟音が辺りに響き渡った。
リリネットの電撃により地面は焦げ、黒煙が立ち上っていく。
「今度こそ……やっただろ」
先程よりも肩で息をしているが、やりきったという表情のシン。
「即興で考えたにしては思ったよりいけました。シルベスの力が上手く働きましたね」
グランもシンと似たような状況で、微笑みながらテトラへと視線を送る。
「エヘヘ、お役にたてて良かったよ」
照れたように頬をかくテトラ。
リリネットも達成感からか、小さく息を漏らした。
「いや……」
その中、リオードだけはジッと煙の方向を眺めていた。
「いやいやそんなわけ……って……え?」
リオードの言葉の先を否定しようとしたシンだが、煙が晴れていくのを見て驚愕に目を見開く。
そこには身体中に黄色い閃光を纏ったベルドが立っていた。
「いや~まさか魔術を使わされるとはな……」
頭を掻きながら苦笑いしているベルドだが、どこか嬉しそうでもあった。
「ま、マジ……?」
シンはお手上げと言わんばかりに地面に座り込んだ。
「最初といい今といい一体何を?」
グランは悔しそうな顔をしながらそう尋ねた。
「んじゃ、種明かししてやろうか」
そう言った先生の周りを纏っていた閃光が止んだ。
「まず、これは俺のMWな」
さっきまで投擲していたナイフを取り出してクルクルと手で回しながら言う。
そのナイフは全体が銀一色で、柄の先には円形の持ち手があり、形的にはクナイと似ていた。
「コイツは名を
銀を指で回していくうちにその数は2本、3本と増えていく。
(手品かよ)
リオードは誰にも聞こえないくらいの声でそう突っ込んだ。
「お前らが最初3人で攻撃したときはこの銀を3本飛ばした。魔術の構築の甘いところがあったからな、簡単に破壊できたぞ」
簡単に言ってのけるが、魔術が向かってくる時の脆い部分を完全に見切り破壊する方法はまず上級レベルの芸当である。
それが3つともなると難易度は更にはねあがる。
その行程をベルドはいとも簡単にやってのけたのだ。
「そんな事をあの一瞬で……」
「おうスゲーだろ?お前ら今度から俺を崇めていいぜ?」
驚嘆するグランに向かって親指を立ててドヤ顔を決めたベルドにさっきまでのカッコよさは微塵も無かった。
「ゴホンッ! さて、お次だな」
沈んだ空気を誤魔化すためにわざとらしく咳払いをして話を戻す。
「どうやって私の術を……」
珍しくリリネットが自ら口を開いた。
それだけさっきの事が気になっているのだろう。
「お、リリネットついに俺に惚れたか?」
そう言ったベルドの顔は教師らしからぬほどにニヤついていた。
「…………」
リリネットは無言で絶対零度の視線をベルドに送る。
「オッケーそんな顔すんなって……。さっきも言ったように魔術で相殺しただけだ」
冷たい瞳に気圧されたため、素直に白状する。
「でもツィーの魔術が当たる寸前、硬直してませんでした?」
ベルドの言葉に疑問を感じたグランはそう問いかける。
「あれはテトラの仕業だろ?」
「え?」
突然名を出されたテトラは驚いた表情でベルドを見る。
他の4人も自然とテトラに注目する。
「まさか古代魔術を使えるやつがいるとは思わなかったな」
「なっ!」
ベルドの言葉を聞いてテトラの顔が更に驚きに染まる。
古代魔術とは今主に使われてる魔術とは違い、遥か昔に使われていたとされる魔術。
今の魔術がMWやMTなどを媒体に発動したり、理論的な術式や基づいて発動したりするのに対して古代魔術はイメージを重要視したり自然や環境の力を利用したりして発動させる魔術である。
また古代魔術を使える人は今は数えるほどしか存在しない。
「テトラが使ったのはその中でも特に珍しい、幻術と呼ばれるものだ。シンの攻撃を受けたときは視覚に作用する幻術で俺の正面にいると思わせて、さっきの金縛りは触覚に作用させて動けないという感覚に認識させた……ってところだろ?」
ベルドの話を聞くにつれてテトラの表情は驚きから羨望へと変わっていった。
「何故そこまで……」
「簡単だ……俺も古代魔術を使えるからだ」
テトラの言葉を遮ったベルドの体には先程のように閃光が迸る。
バチバチと音をたてるそれはリリネットの電撃などではなく、まさに雷そのものであった。
「先生も……古代魔術の使い手……」
テトラは自分以外に古代魔術を使う人を見たことがないのか、少し体を震わせていた。
「おう、魔術師が誕生するずっと前からこの国で暗躍していた忍と呼ばれる一族だ。まぁテトラとは少し違うがな」
ケラケラと笑いながら体を纏っていた雷を消す。
「だあぁぁぁ! ダメだ! 勝てる気がしねえ…」
「僕もです」
シンの言葉に賛同するようにグランは両手をあげて降参の意を示した。
リリネットとテトラも同じく戦闘の意思は既に無くなっていた。
「まあ初めてにしてはその連携は素晴らしかった。後は個人技を向上させる事だな」
短いやり取りだったが、ベルドはしっかりと4人の分析を行っていた。
改めてここの教師というもののレベルを思い知った4人だった。
「お前らの事はよしとして……リオードォ〜」
「へ?」
突然名前を呼ばれたリオードはキョトンとした顔でベルドを見る。
「テメーだけ戦わなかったな。初っぱなから授業放棄か?」
死んだ魚のような目でリオードを睨む。
「いや、ホラ言ったじゃねーか。俺は魔術をまともに使えないって! あんなとこに俺が行っても巻き込まれて足引っ張ってチャンチャンホイサッサになるのがオチだろ」
「最後何いってんのかわかんねぇ。っつーか俺が言いてえのはそこじゃねぇ。お前らの実力を図るって言ったろ? お前が魔術を使えようが使えまいが関係ねぇだろ」
「ぐ……」
ベルドの正論にリオードは言葉を詰まらせる。
「何だ戦いたくない理由でもあるのか? なら俺がその気にさせてやるよ」
「あ?」
ニヤッと趣味の悪そうな笑みを浮かべる。
「残念だが俺は挑発にのるほど短気じゃねえぞ」
「ほぅ……それは楽しみだ」
いつの間にか向かい合っている2人。
他の4人はその様子を息を呑んで見つめていた。
「お前の妹……確かフィルだっけか? ありゃ~可愛いよな。頭もいいし」
「あ?」
「よし、あの子俺の女にする!」
「な……」
(((えぇ~……)))
ギャラリーがベルドに引き始める。
「いやいや……」
「いくらリオードでもそれは……」
「さすがに……だよね?」
「上等だコラアァァァァァッ!!」
((((のっちゃったよ!!)))
この時修練室が1つになった。
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