第18話 模擬戦3


「やったか!?」

「それを言っちゃあいかんでしょ」


 突然声が響いた。その声の出所は紛れもなくさっき衝撃が巻き起こった所。

 煙が段々と晴れていくなかで姿を現したのは紛れもなくベルド本人だった。それも……傷ひとつなく。


「嘘……だろ?」


 目の前の光景を信じられないシンは唖然とその場に立つ。


「あれを食らって無傷だなんて……」

「信じられない……」

「…………」


 グラン、テトラ、リリネットも同じく驚愕の表情。


「いやいや、即興にしては大した策だったよ。まさか突っ込んできたシンを囮にするだけでなく、その囮のシンすらも攻撃してくるなんてな」


 ガシガシ……と程よく荒れた黒髪の天然パーマを掻き笑顔で誉め言葉を述べる。


「だがまだ甘い」


 そう言って右手の人差し指をたてる。


「まず1つ、囲んだのは中々いいが3人じゃ足りないだろ。そこまでするならせめて4方向を囲まないと逃げられる。お前ら5人もいるしな」


(避けなかったくせによく言うぜ)


 リオードのその心の声はベルドに届くことはない。


「そして2つ、追撃の準備をしてなかったな。まあ今は戦場では無いから構わないが、本来ならトドメは確実に刺すものだ」


 近代化は素晴らしいが、昔に比べてこの世界には戦争が起きるまでになっていた。

 それはフォルス大陸だけに関わらず他大陸にも不穏な輩はごまんといる。


 完全なる平和というのは未だに訪れることなく、金や物、情報など理由はそれぞれだ。

 つまりその戦いが起こったときにはその甘さは命取りになるということである。


「んで、3つ目であり最大の理由だが……」


 指を3本立てニヤリと笑う。


「まあ基本というか威力が足りねぇな」

「「「なっ!!!」」」


 これは流石にリリネットも声をあげた。

 先程は自身の自慢の一撃と言えた。それをただ威力が無いと言われたのだ。


「まずシン」

「え?」


 突然指されたシンはキョトンとした表情を浮かべる。


「お前は強化魔術が得意みたいだな。自身の拳の威力を強化しそれを相手にぶつける。そのグローブはそれを補助、飛躍させるMWだな。んで、さっきの衝撃波は拳を振った際に発する風圧を強化して飛ばしたものだろ? まあ誰にでも出来ることではないが、まだ使える技には遠いな」

「ぐ……」

「そして……」


 淡々と語られていく自分の欠点に苦虫を噛み潰したようになるシンだった。

 そしてベルドがグランとリリネットの欠点を上げようとするが、意外にも先程のベルドの挑発に真っ先にのったリリネットが攻撃を仕掛ける。

 魔術銃を構え魔力で精製した弾を撃ちまくり、それに触発されたかシンも先程の衝撃波を細かく作り出して連射する。


「お、今度は遠距離主体にシフトチェンジか?」


 ベルドは2人の攻撃を避けながら楽しそうに軽口を叩く。


「いくら先生とはいえコケにされたままで黙っているわけにはいきません!」


 冷静でクールなイメージを持たせるグランも熱くなったのだろうか、気合いと共に駆け出す。

 そして胸の前で手を開くとそこだけ空間が歪んだように見えた。


「サイコキネシスだけじゃなくグラビティまで使えるか」

「未完成な代物ですけどね。でも威力は多少あります……よっ!」


 感心したように口笛を吹くベルドだがグランはそれを否定的な言葉で返す。


 グランが今使っているものは一般的にグラビティと呼ばれ、重力系の超能力である。

 圧縮されボール大程ではあるが食らえばダメージは免れないだろう。


(私だって指をくわえて見てるだけじゃダメだ!)


 3人に感化されたのかテトラも何やら準備を始める。

 それを横目で盗み見ながらベルドは全ての攻撃をかわしていた。


(くそっ、このままじゃさっきと同じだ。攻めを変えるしかないか)


 シンは少し大きめの衝撃波を放つと、地面を蹴りベルドに接近する。


「うおぉぉ!」


 唸り声をあげながら殴りかかる。しかし真正面からのためベルドはそれを既に見切っている…………


 筈だった。


「ぐっ……!?」


 しっかりかわしたはずなのに、ベルドの背中に衝撃が走る。


「オラアァッ!!」

「チッ……」


 舌打ちしその場から飛び退いてシンから距離をとる。

 しかし、その大きな動きをリリネットは逃さない。


「喰らえ……」


 小さくそう呟くと銃口から先程のような白い電撃を放つ。

 避けられないと悟ったベルドはベストのポケットからナイフを取り出し、電撃に向かって投擲する。

 恐らくMWであろうそのナイフは真正面から電撃とぶつかり威力を相殺した。


「マジかよ」


 まさか相殺されるとは思っていなかった豪は呆けてしまうが、それも一瞬……次の行動に移った。


(ちょこまかとめんどくせぇ)


 その時初めてベルドの顔に焦りが生まれ始めていた。


「隙ありっ!」

「ッ!?」


 ベルドの背後からシンが殴りかかる。

 少し反応が遅れたが、体を沈めてそれを避ける。


「んじゃ、そろそろ反撃させてもらうかなっ!」


 しゃがんだ体勢から地面に手をついて腕力て飛び上がりながらの蹴り。


「うおっ!」


 顔面すれすれだったが何とかシンはそれをかわした。

 その隙をぬってリリネットに向かってさっきと同じナイフを投擲する。

 リリネットはそのナイフを銃弾で叩き落とす。


(即席のくせに連携がどんどん上手くなってやがる)


 ベルドは嬉しそうに心の中で笑いながらシンにも同じようにナイフを3本投擲する。


「一体何本持ってんだよっ!!」


 悪態をつきながらもグローブを嵌めた腕でナイフを全て叩き落とす。


「まだまだあるぞ〜」


 気の抜けた声だがその間にもナイフはどんどん飛ばしてくる。


「え!? ちょ!? うおっ!?」


 シンはかわせるものはかわし、出来ないものは全て打ち落とした。


「中々やるじゃねぇか……」


 ニヤリと笑ったベルドの手には10本ほどのナイフが握られていた。


「マジシャンかよっ!! リリネット!」

「うるさい黙れグズ」

「酷くねっ!?」


 厳しい言葉を投げ掛けたリリネットだが、しっかりと銃を構えていた。


「させるか……よっ」


 ベルドはリリネットの銃に向かってナイフを全て投げる。

 真っ直ぐとリリネットに向かっていったナイフだが、その前で全てが勢いを失って地面に落ちた。


「チッ……今度はグランか」


 自分の思惑が外れたことに舌打ちする。その間にもリリネットの術式は完成した。


「死ね」

「俺教師だぞ!?」


 ベルドの叫びは虚しくリリネットからは罵声と電撃が放たれた。


「な!?」


 距離にして約20メートル、ベルドなら楽に避けきれるスピード。

 その数が1つであれば…。

 リリネットから放たれた電撃は軽く10は越えていた。


(まだ間に合うか……なっ!?)


 回避を試みるが、突然ベルドの体が金縛りにあったかのように動けなくなった。


(何が起きてる……誰が……)


 ベルドが体を動かそうとする間に電撃は迫ってくる。


「いっけぇぇぇぇぇっ!!」


 シンの叫び声が聞こえたすぐ後……ベルドは電撃の波に呑まれていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る