第17話 模擬戦2
「っしゃあぁぁぁぁぁ!!」
先陣をきったのはシン。
叫び声と供にベルドに向かって駆け出す。
「あのバカ……」
リオードが額を抑えて俯くが、シンが止まることはない。
「でやぁぁぁぁぁぁっ!!!」
勢いよく振りかぶりベルドの顔面目掛けて拳をふるう。
「お、中々のスピードだな」
感心したように呟いたベルドは足を半歩引いて軽くそれをかわし、体勢の崩れたシンに蹴りをいれる。
「ぐっ……」
「おいおい、俺は教師だぜ?あまり舐めてもらったら困る」
呆れたように言いながら短く弱く殺気をとばす。
(流石だな。身のこなしに隙がねぇや。それに弱めとはいえ鋭い殺気だ)
少し離れた所でそれを眺めるリオード。
「魔術でも何でも好きに使えよ~。そうしなきゃお前らの実力がわかんねぇからな」
ベルドは手をブラブラと振りながら楽しそうに笑う。明らかに余裕の表情だった。
「シン! 闇雲に突っ込んでも勝てません、一旦体勢を整えましょう!」
「くっそ~……」
グランの制止を頭を掻きながら聞き入れる。
「普段の姿があれでも教師は教師です。油断せずに全員でかかりましょう」
いつの間にか仕切る立場にいるグランだが、誰もそれを止める者はいない。シンも先程の攻防で理解した為に素直に頷いている。
「皆さんMW、またはMTの類いは持っていますか?」
グランの問いかけにリリネットとシンが頷いてそれぞれ手に嵌めていた指輪を取る。2人の指輪が一瞬光ったと思うとリリネットは銃を、シンはグローブを持っていた。
このようにMWは形態魔術により指輪など持ち運びの楽な物に形を変えていることが多い。
「フム……」
それを見たグランはしばし考察し4人に向かって何かを話し始めた。そして、改めてベルドに向き直りそれぞれ構えた。
「っし!」
先に駆け出したのはまたしてもシン。
先程と違うのはその両手に革で出来たグローブを装着しているということ。真っ直ぐに向かっていった前回とは違い、今度はジグザグに走り翻弄するかのような動きを見せる。
「うおらあぁぁぁぁぁっ!!」
「む……」
ベルドの近くまで来るとシンは飛び上がり、降り下ろすように拳をふるう。
(バカの一つ覚え……いや、違うか!)
直前で何かを察した宮本はその場から飛び退く。その後をシンの拳が通りすぎる。
すると大きな轟音と同時に修練室の地面が砕け散った。
「あっぶね……」
吹き飛んだ地面を見て冷や汗をかくベルド。
「まだまだぁぁぁっ!!」
シンは攻撃の手を緩めることは無かった。
様々な角度から拳を突き出す。ジャブ、フック、ストレート、アッパー、緩急をつけながら飛んでくる拳……しかしベルドはそれを見切り最小限の動きでかわしていく。
「強化系魔術か……当たったらたまんねぇな」
「当たらないくせに……だらぁあっ!」
当たらないことにイラついたのか、少し大振りなパンチを繰り出す。
「青いぜ」
ベルドはそれをアッサリと避けると体勢の崩れたシンの後ろに回り込む。
「これでシンはアウトだ……ッ!?」
シンの首筋を狙い手刀を放とうとするが突然響いた銃声を聞き、その場から跳んで逃げる。
「チッ……」
短く舌打ちをしたリリネットの手には漆黒に染められた銃。
「リリネットのMWは銃か……あのタイプは確か……」
「逃がすかぁぁぁっ!!」
リリネットの武器を分析しようとするが後ろからシンがやって来たためそれを回避。
「チッ……当たりやがれっ!!」
「いやいや当たったらヤバイだろ」
軽口を叩きながらも攻防を繰り広げる2人。それにタイミングよくリリネットの銃が火を吹くのでベルドは中々攻めに転じられないでいた。
「先生、魔術も使っていいんスよね?」
左フックと右のアッパーを繰り出しながらシンが聞く。
「おう、何でも使え」
フックを右手でいなし、アッパーを体を反らせてかわしたベルドはそう答える。
「なら、遠慮なく……」
ニヤッと笑みを浮かべると大きく後ろに跳びベルドから距離を取った。
「グランっ!!」
「任せてください」
シンの声にグランは自信ありげにそう答えるとシンに向かって手をかざした。
「なっ!?」
ベルドは一瞬自分の目を疑った。何故なら文字通りシンが飛んできたからだ。
(グランが何かしたか)
ベルドは勢いよく飛んでくるシンとの距離を測る。
「特大なのお見舞いしてやるぜぇぇぇ!!!」
シンの拳からは先程とは比較にならないほどの威圧感が漂っている。
「スピードは確かに跳ね上がった、それに加え威力も倍増しただろう……だが、直線的すぎるな」
ベルドはトンッ……と、軽く地面を蹴った。高く跳び上がることによってシンはその下を通過することになり、その時に発生する衝撃波や砕けた地面などからも逃れられる無駄の無い動きだった。
「かかりましたね」
「ッ!」
グランの嬉しそうな声を聞いたベルドは直ぐ様辺りを見る。後ろには先程通りすぎていったシン、前には手をかざすグラン、横には銃を構えるリリネットがいた。
3方向からの一斉砲撃。
シンの拳からは風が渦巻き、リリネットの銃口は淡く光り、グランのかざした手の前の空気は歪んで見える。
「だっしゃあぁぁぁ!!!」
口火を切ったのはシン。ストレートの要領で拳を突き出す。するとそこから渦巻いていた風が拡散するように弾ける。
リリネットの銃口からは白い稲妻が
着地する前の浮いている無防備なその体勢は格好の的。3人が放った一撃はブレることなくベルドへと向かっていく。
正に絶体絶命。その状況を作り出したグランはしてやったりというような笑みを浮かべている。
(いくら先生と言えどこれを無傷で済ますことは出来ませんよ)
その刹那、3つの軌跡が1点に集まった。眩い光りと耳を貫くようなすさまじい音。
まるでそこにだけ災害が起こってるような……そんな衝撃が生まれていた。
「ハァッ……ハァッ……」
1番体を張ったシンは肩で息をしており、リリネットとグランは彼ほどではないが少しだけ息を吐いた。
「シンの衝撃波と僕の振動波、ツィーの光線を3方向から同時に浴びせました。先生がシンの最初の一撃を跳んでかわしてくれ良かったですね」
淡々と語るグラン。
「すっげー威力」
少し離れた所で見ていたリオードは驚いた表情で立ち上る煙を眺めながら呟いていた。
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